技術解説(シーメンスヘルスケア)
2022年4月号
腹部画像診断におけるCTの技術の到達点
個別化医療に対する腹部撮影の最新技術紹介
佐々木信治[シーメンスヘルスケア(株)ダイアグノスティックイメージング事業本部CT事業部]
近年,CT装置はさまざまな進化を遂げている。そうした進化は個別化医療を行う上で,なくてはならない技術である。本稿では,腹部領域における画像診断と臨床の最新動向というテーマにて,さらなる発展が期待される「Siemens HealthineersのCT(以下,SOMATOM CT)」の最新技術を紹介する。
■Dual energy imaging
SOMATOM CTのdual energy imagingは,仮想単色X線画像(DE Mono-energetic Plus)のみにとどまらず,最大の特長である物質弁別を高い精度で実現している。腹部領域で一例を挙げると,腎結石の組成を評価し,その後の治療方針に役立てることが可能である(DE Kidney Stones)。また,造影データから造影成分(ヨード成分)を抽出し,集積したヨード濃度を算出したり,造影データから造影成分を除くことで仮想単純画像(DE Virtual Non-Contrast)を作成したりすることも可能である。そのほかの領域では,肺血栓塞栓症における血流状態を観察できる“DE Lung PBV(Perfused Blood Volume)”,脳血管内治療直後における造影剤と出血の区別が可能な“DE Brain Hemorrhage”,カルシウムの抑制(virtual non-calcium)を行うことで,骨髄の浮腫性病変を検出する“DE Bone Marrow”などが臨床で活用されている。
■Low kV imaging
昨今,腎機能の悪い患者の検査で造影剤量を低減させる検査が腹部領域でも行われている。ヨード造影剤は質量減弱係数のエネルギー依存性が大きく,低管電圧ほど大きな質量減弱係数となる傾向がある。一方,軟部組織の質量減弱係数はエネルギー依存性が小さいため,低管電圧撮影により大幅なヨード/軟部組織コントラスト上昇を得ることができる。この特性を利用することで,低管電圧撮影による造影剤低減が実現可能となる。
例えば,120kVを基準とした場合では,10kV下げるごとに約10%の造影剤を低減することが可能である。一方で,低管電圧撮影はX線の透過力が弱いため,一定のCNR(コントラストノイズ比)を得ようとすると高管電流が必要になる。そこで,SOMATOM CTのX線管は,小焦点でも低管電圧時の出力を高く保つような設計となっている。これにより,体格の大きな患者に対しても,画質を落とすことなく低管電圧撮影による造影剤低減効果を発揮することができる。
■Tin filter technology
一般的なCT装置には,bowtie filterと呼ばれる付加フィルタが搭載されている。SOMATOM CTでは,bowtie filterに加え,さらに,可動式のTin(Sn)filterを搭載することで,大幅にX線スペクトルを変調し,スペクトルの重心を高エネルギー側へシフトすることが可能である。これにより,画像化に寄与しない無効被ばくを大幅にカットするだけでなく,線質硬化に起因するアーチファクトを抑える効果も得られる。この“Tin filter technology”により,低線量撮影の可能性は,肺がんCTスクリーニング検査,CT colonography検査,水晶体を含む眼窩,副鼻腔の検査などへ広がりを見せている。また,従来,高管電圧の利用が有効とされていた腱や靭帯の描出といった分野でも力を発揮することが可能である。さらに,Tin filter technologyの線質硬化の抑制は,CT値変化の直線性を高める効果に加え,定量評価にも有効であることを生かし,最近では冠動脈の石灰化スコア撮影の低線量化の一つの方法としても利用されている。
■4D imaging
動態評価が可能な4D imagingは,腹部領域ではエンドリーク診断,灌流画像などで使用されている。そのほかでは,頭部灌流画像,心筋灌流画像など,さまざまな領域で使用されている。近年,4D imagingは広範囲化,造影剤低減,被ばく低減,高精度化が求められている。多列化の進歩により,16cmの範囲を寝台移動なしに4D imagingの撮影ができるようになったシステムもあるが,エンドリーク診断では,それ以上の広範囲のデータが必要となってくる。SOMATOM CTは,寝台の連続移動精度の向上により,多列化だけでは実現できない最大46cm以上の広範囲の4D imagingを,被ばくの増加なく行うことが可能である。
◎
今回紹介した多様な撮影技術を最適な形で使用していただくため,新たに“myExam Companion”を開発し,CTシステム側から最適なプロトコールを提案できるようになった。また,複雑化する画像処理も自動化することで,簡単に,かつ標準化された画像を提供することが可能である(図1)。
Siemens Healthineersは,クリニカルベネフィットの追究はもちろん,今後の医療変化に対応すべく,最適な技術を先生方に提供させていただきたいと考えている。
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