技術解説(シーメンスヘルスケア)
2021年5月号
循環器領域におけるMRIの技術の到達点
Cardiac MRIにおけるprecision medicine
真鍋 章大[シーメンスヘルスケア(株)ダイアグノスティックイメージング事業本部]
心臓MRI(cardiac MRI:CMR)は,1回の検査で心筋の形態,機能,性状を定性的かつ定量的な評価が可能であり,臨床的な有用性が認められている1)。近年,precision medicineや個別化医療に向けて,人工知能(AI)などの先進的なテクノロジーの応用とともに,効率的な画像診断が重要視されるようになった2)。CMRにおいても例外ではなく,多岐にわたる撮像を高い精度で効率的に実施することが要求されている。一方で,CMRは正確な心腔像を決定する断面設定や,被検者の状態に合わせたパラメータの変更,撮像データの解析など,オペレーションが煩雑で,MRI検査の中でも最も熟練を必要とする検査の一つである。
本稿では,これらの課題に対するSiemens Healthineersのソリューションとして,ワークフロー,体動補正,高速撮像について紹介する。
■ワークフロー
2010年に発表された“Day optimizing throughput Engine(以下,Dot)”は,AIに基づいて事前に学習したソフトウエアにより,MRI検査の効率と再現性を高めるための支援機能である。
心臓領域の“Cardiac Dot”に含まれる自動支援機能は,撮像位置を設定する“AutoAlign”(図1),被検者ごとの体格に合わせた適切な撮像範囲や心時相の設定,息止めの指示内容や時間を一括調整する“Automated Parameter Adaption”,シネ撮像直後に心機能を解析する“Inline Ventricular Function(Inline VF)”などの多様な機能がある。手動操作の支援機能としては,頻繁に変更する撮像条件のみを1画面で表示する機能や,撮像手順のガイダンス画像を備えている。また,各施設の運用や熟練したオペレータの設定方法を検査マニュアルとして装置に組み込んで,撮像時の操作画面に表示することも可能である。Cardiac Dotを用いることで,オペレーションの煩雑さを大幅に軽減でき,担当オペレータが頻繁に代わる場合においても,良好な画質を高い再現性で維持できるようになった。
さらに,呼吸センサが脊椎コイルに内蔵されており,テーブルに寝た被検者の呼吸を自動的に検知する(図2)。従来では,呼吸ベルトや横隔膜ナビゲータを使用する必要があったが,呼吸センサを用いることで,息止めのモニタリングや呼吸同期撮像が可能となった。
検査数の増加と画質の安定の両立が求められる昨今のCMRにおいて,一連のワークフローを改善するこれらの機能は,高い評価が得られている。
■体動補正
CMRでは,心拍や呼吸などの動きによる影響をいかに抑えるかが重要な課題となる。ここでは,心筋のT1値,T2値,T2*値を測定可能な“MyoMaps”について紹介する(図3)。
T1値測定では,MOLLI(Modified look-locker inversion recovery)3)法を採用している。IRパルスを複数回印加して,inversion time(以下,TI)が異なるデータ収集を繰り返すことでT1値を測定する。複数の異なるコントラストの画像を各1心拍のみで収集するため,息止めによる短時間の撮像を実現している。一方で,T1値はピクセルごとに計算されるため,心時相を同一にする必要があり,呼吸などの動きによって心筋の位置がずれてしまうと計算精度が低下する。
そこで,MyoMapsには,非剛体レジストレーションを用いた体動補正技術である“HeartFreeze”機能を搭載している。息止め不良により心筋の位置がずれた場合でも,HeartFreezeを用いてピクセルごとに補正することで,計算精度が高い定量値マップを自動的に取得できる。MyoMapsのほかには,心筋パーフュージョンや遅延造影(late gadolinium enhancement:LGE)においても適用できる。1分半程度の撮像で造影剤の血流動態を評価する心筋パーフュージョンは,データ収集開始から可能な範囲で息を止め,途中から安静呼吸下で撮像となる。HeartFreezeによる補正で息止めと同等の画像が得られ,造影剤による信号変化を曲線の傾きで表現した定量値マップが撮像と同時に出力される。また,造影パターンから心疾患の診断が可能なLGEは,CMRにおいて重要な役割を担っているが4),息止め不良などの動きにより診断能は低下する。そこでLGEでは,自動で呼吸時相を検出してHeartFreezeの効果を高めている(XA-line搭載装置。以下,XA)。コントラスト改善シーケンスであるphase sensitive inversion recovery(PSIR)にも適用できるため,息止め不良や自由呼吸下において診断能の向上が期待されている。
■高速撮像
CMRは,心電図同期を使用して数十回にわたる息止めが必要となり,検査時間の延長は被検者の快適性,画質の低下に大きく影響する。
現在,最も注目されている高速撮像技術の一つがcompressed sensing(以下,CS)であり5),非常に少ない観測データから観測対象を復元するために広く用いられる技術である。この技術をCMRに応用することで,k-spaceに充填するデータ量を極端に減らし,データ収集時間を短縮することができる。
例えば,従来のシネ撮像では,心電図同期と息止めを併用して1断面につき10心拍程度のデータを収集するが,基本断面である短軸像を,心基部から心尖部まで全心筋を撮像する際は,非常に多くの息止めが必要となる。Siemens Healthineersでは,CSを応用することで10倍速程度のシネ撮像が可能であり,全心筋を1回の息止めで撮像することができる。CSで取得した画像を用いた心機能解析においても,従来法と比較して解析結果は同等であるとの報告がある6)。1心拍中に1断面分のデータを収集できるため,動きの影響にも強く,不整脈や息止め不良があった場合でも画質が低下せず撮像可能となる。また,複数心拍でデータ収集を分割することにより,撮像時間の短縮に加えて高い空間分解能を両立した設定も可能である(図4:XA)。
シネ撮像のほかには,心筋のnull pointを決定する手法であるTI scoutにCSを適用することで(XA),息止め時間を短縮しつつ,LGEにおいて,より正確なTIの判断が可能となった。
さらに,上述のCardiac DotとHeartFreeze,CSを組み込んだ包括的なCMR検査時間短縮用プログラムの“GOHeart Workflows”(図5)が搭載予定であり,一連の造影CMR検査を30分以内で実施可能なソリューションとなることを期待する。
◎
本稿では,precision medicineをめざしたSiemens HealthineersのCMRソリューションを紹介した。本稿で述べた技術や取り組みが,オペレータや被検者の負担を軽減し,高い検査精度のCMRを効率的かつ安定的に提供する一助となれば幸いである。
●参照文献
1)Assomull, R.G., et al. : Role of cardiovascular magnetic resonance as a gatekeeper to invasive coronary angiography in patients presenting with heart failure of unknown etiology. Circulation, 124 : 1351-1360, 2011.
2)Lasalvia, L., et al. : Expanding Precision Medicin. Journal of Precision Medicine, 5(3), 2019.
3)Messroghli, D.R., et al. : Modified Look‐Locker inversion recovery(MOLLI)for high‐resolution T1 mapping of the heart. Magn. Reson. Med., 52(1): 141-146, 2004.
4)Shah, D.J., Judd, R.M., Kim, R.J. : Technology Insight : MRI of the myocardium. Nat. Clin. Pract. Cardiovasc. Med., 2, 597-605, 2005.
5)Lustig, M., et al. : Sparse MRI : The Application of Compressed Sensing for Rapid MR Imaging. Magn. Reson. Med., 58 : 1182-1195, 2007.
6)Kido, T., et al. : Compressed sensing real-time cine cardiovascular magnetic resonance :
Accurate assessment of left ventricular function in a single-breath-hold. J. Cardiovasc. Magn. Reson., 18 : 50, 2016.
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