技術解説(シーメンスヘルスケア)
2020年5月号
腹部領域におけるCT技術の最新動向
CT検査の標準化と最適化をどう実現するか?
日和佐 剛[シーメンスヘルスケア(株)CT事業部]
個別化医療に向けた気運が高まるなか,画像診断の観点では,検査で得られる画像やデータに基づいて個別化された治療につなげることが重要である。そのためには,検査は標準化され,信頼に足るものを安定して提供できるようになるべきだと考える。一方,X線やヨード造影剤を使用するCT検査においては,検査目的や患者背景に応じた検査プロトコールの最適化も重要である。例えば,『腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2018』1)では,造影剤低減について低管電圧撮影と逐次近似再構成法の併用が推奨されており,さらに近年は,CTの臨床的価値を高める技術としてdual energyイメージングへの注目度も高い。本稿では,個別化医療に向けた腹部領域の最新技術として,患者ポジショニングを自動化する“FAST 3D Camera”を起点としたSiemens Healthineersの標準化された検査ワークフローの紹介と,日常臨床での活用がますます期待されるdual energyイメージングの自動解析手法について解説する。
●FAST Integrated Workflow with FAST 3D Camera
FAST 3D Cameraによる患者ポジショニングの自動化を起点とする“FAST Integrated Workflow”は,患者ごとに画質と被ばくを最適化したCT検査を実現することができる(図1)。まず,FAST 3D Cameraによって患者の三次元情報が取得され,検査部位に応じて適切なテーブル高が決定される(FAST Isocentering)。この時,位置決め画像取得のための撮影範囲も自動的に設定されるため(FAST Range),精度良くガントリ中心にポジショニングされるだけでなく,撮影開始位置へのテーブル送りも同時に行われる。位置決め画像取得後は,検査目的に合わせた撮影範囲の設定が自動的に行われ(FAST Planning),加えて,CT撮影が完了すると,適切な画像再構成の範囲や角度を自動認識する技術を応用して,任意の断面のMPR画像を直接作成することができる(FAST 3D Align)。
患者ポジショニングについては,約95%の割合でガントリ中心への位置合わせが不十分であったという報告があり,平均値として2.6cmの誤差があると言われている2)。わずか数cmの誤差ではあるが,ガントリ中心にポジショニングされることを前提に設計される管電流自動調節機構(auto exposure control:AEC)や管電圧自動設定機構(auto tube voltage selection:ATVS)の動作,およびbow-tie filterの効果に影響を及ぼす。近年は,dual energyイメージングに代表されるように,正確なCT値を基にした画像解析を行う機会が増えており,一貫性のある診断結果を導くためにも,線量不足や過多による画像ノイズの増減やCT値の不確実性を最小限に抑えることが重要となっている。
FAST 3D Cameraは,赤外線と光の飛行時間を基にした距離計測原理を用いて,患者の三次元情報を計測している。一般的に,赤外線センサだけでは体表を正確に認識することは難しく,特に通常診療での使用が想定されるヘッドレストやクッション,ブランケットなどによる影響を考慮しなければならない。さらには,体形や体格によって異なる重力の影響や,赤外線センサでは取得できない患者背面の位置情報の取得なども解決する必要がある。FAST 3D Cameraは,ディープラーニングを利用した人工知能を採用することで,人による患者ポジショニングと比較して誤差やバラツキが少なく,腹部領域に関しては平均数mmの誤差で,正確に患者ポジショニングが可能となっている(図2)3),4)。加えて,安全機構として,撮影プロトコールに設定されているヘッドファーストやフィートファースト,および仰臥位や腹臥位などの患者ポジションとの相違があった場合に,アラートを通知する機能が搭載されている(FAST Direction)。造影検査においては,誤った方向へのテーブル移動によってチューブが引っ張られるなどの危険を回避し,また,再撮影による被ばくの増大を防ぐことができる。
以上のように,FAST 3D Cameraを起点としたFAST Integrated Workflowは,標準化された検査ワークフローを提供することで,CT検査を受けるすべての患者の特徴に合わせた最適な結果を導くことが可能である。
●Rapid Results Technology ─ zero click dual energy
個別化医療の拡充を進める上で,dual energyイメージングは重要な役割を果たすと期待されている。例えば,ヨード密度などの定量値に基づいて個別化された治療へ結びつけることや,治療効果判定においても薬剤のレスポンスを判断するツールとしての適用が考えられる。一方で,dual energyイメージングをルーチン化するに当たっては,ポストプロセスがボトルネックとなっている。われわれは,日常の検査環境の中で,安定して再現性の高いdual energy解析を行う技術としてデジタルの活用が必要だと考えている。
画像診断支援システムの「syngo.via」は,サーバ側で処理を行うシンクライアント方式のシステムであり,読影端末などのネットワーク環境にある端末であれば,いつでもどこからでもdual energy解析のアプリケーションにアクセスすることができる。また,syngo.viaでは,画像データの受信に合わせて自動的に適切なdual energy解析を行う“Auto Processing”機能を装備している。実際の日常検査におけるワークフローでは,対象のデータをダブルクリックして展開するだけで,症例ごとに必要とされるdual energy解析が完了した状態から読影を進めることができる。
また,syngo.viaに搭載される“Rapid Results”は,ユーザーのマニュアル操作を介さない完全な自動解析アルゴリズムである(図3)。高低2つのエネルギーデータセットをsyngo.viaに送信するだけで,仮想単色X線画像やヨード密度画像,仮想非造影画像などの必要なポストプロセスが自動的に実施され,患者の解剖構造を認識・検出した上で,事前に定義されたスライス厚とスライス間隔によるアキシャル画像やコロナル画像,サジタル画像が作成される。その後,指定されたPACSなどの送信先に,生成された画像が自動的に送信されることとなる。このように,Rapid Resultsを用いることで,日常の検査ワークフローを変更することなく,dual energyイメージングによる付加情報を活用することが可能となる。
●参考文献
1) 腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2018. 日本腎臓学会雑誌, 61(7): 933-1081, 2019.
2) Li, J., et al. : Automatic patient centering for MDCT : Effect on radiation dose. Am. J. Roentgenol., 188(2): 547-552, 2007.
3) Saltybaeva, N., et al. : Precise and Automatic Patient Positioning in Computed Tomography : Avatar Modeling of the Patient Surface Using a 3-Dimensional Camera. Invest. Radiol., 53(11): 641-646, 2018.
4) Booij, R., et al. : Accuracy of automated patient positioning in CT using a 3D camera for body contour detection. Eur. Radiol., 29(4): 2079-2088, 2019.
●問い合わせ先
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