技術解説(シーメンスヘルスケア)

2017年4月号

Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

Cardiac MRI撮像技術の発展

井村 千明(ダイアグノスティックイメージング事業本部MR事業部)

心臓MRI(cardiac MRI:CMR)の基本的な撮像方法は確立されてきており,幅広いMRI装置で対応が可能な検査となっている。CMRは,主に心筋の形態,動き,組織性状の描出に用いられているが,血管造影を目的とした造影剤の投与をせずに描出可能であることから,冠動脈の撮像も行われている。しかしながら,多くの撮像において,体動の影響を抑制するために被検者の息止めが繰り返し必要で,比較的負担の大きな検査であり,また,撮像条件や撮像断面の設定が複雑で,オペレータの熟練を要するのが一般的である。
発展を続けるCMRにおいては,これらの問題を解決するための技術が実現している。 本稿では,発展を続けるCMR技術の最近の技術開発の動向について紹介する。

■撮像時間の短縮

CMRは,その撮像対象が常に動いているため,心電図同期技術だけでなく,撮像時間の短縮化が求められる。MRIにおいて,撮像時間はほぼデータ収集時間に等しいため,いかに高速にデータを収集できるかが高速化のカギとなる。MRIにおけるデータ収集短縮技術としては,パラレルイメージング法が一般的に用いられている。パラレルイメージング法は,複数の受信コイルにおけるエレメントの感度分布を利用して,規則性を持って生データ領域の充填をまばらにし,少ないデータ収集数から画像を取得する技術である。受信コイルのエレメントの数や配置などに影響を受け,2〜4倍程度の高速化までが現実的である。
近年開発されている圧縮センシング法は,compressed sensing,またはsparse samplingとも言われ,MRI以外でも応用されている画像データ圧縮技術であり,生データ領域をsparse(疎)な状態でデータサンプリングして充填することで,データ収集時間,つまり撮像時間を短縮する手法である(図1)。この方法では,上記のパラレルイメージング法のように規則的にデータを間引くのではなく,MRIの特性からデータの特徴を仮定しランダムにデータを間引き,L1 norm最小値化法という数学的な手法を用いて,逐次的に画像再構成を繰り返すことで最終的に必要な画像を得る。
従来のMRIでは,サンプリングするデータを大幅に間引くと空間分解能が低下してしまうが,圧縮センシング法では,画像のコントラストが高い場合には空間分解能を維持したまま生データ領域をsparseに充填できるという特性を持っている。
心筋と心腔のコントラストが高い心臓シネMRIは,圧縮センシングに適した撮像法であり,これを用いることで数十倍の高速化が見込め,これにより50fps(毎秒50フレーム)に相当する画像を得ることが可能になる。
データ収集時間が短縮されたことで,1断面のシネデータを1心拍内で撮像することができ,従来の1断面分の息止め時間で心筋全体のシネ撮像が可能となっただけでなく,心機能評価においても従来法と同等の結果が得られており,compressed sensingが心臓シネ撮像におけるスタンダードになる可能性が示唆されている1)

図1 Compressed sensingによる撮像時間短縮の例

図1 Compressed sensingによる撮像時間短縮の例
a:従来法PAT 3,8心拍で撮像
b:従来法PAT 3,1心拍でリアルタイム撮像
c:compressed sensing 11.5倍速,1心拍で撮像

 

■定量的な評価

CMRの有用性は,心筋の形態だけでなく,診断に必要な組織性状を描出することができる豊富な画像の種類にあると考えられている2)。例えば,ガドリニウム造影剤がwashoutされず心筋組織に残る現象を描出する撮像方法の遅延造影(late gadolinium enhancement:LGE)は,多くの疾患に適用されている。LGEの領域の心筋全体に占める体積が,リスクアセスメントに有用という期待が持たれているため,LGE領域体積の計測をする機能も搭載可能になっている(図2)。

図2 「syngo.via」の“Tissue Quant”機能によるLGE領域体積と心筋全体に対する割合の測定

図2 「syngo.via」の“Tissue Quant”機能によるLGE領域体積と
心筋全体に対する割合の測定

 

LGEが,造影後の画像を視覚的に評価するのに対して,心筋の画像からT1値などを定量化する技術が開発されてきている。T1値は,MOLLI 法やLook-Locker法3)に代表される,inversion recovery(IR)パルスを用いたシーケンスで撮像される。一般に,T1値の延長は心筋線維化や浮腫の状態を示し,T1値の短縮は脂肪や鉄の沈着を示すという報告がある4)。また,造影剤の投与前後に実施し,それぞれでT1値計測を行った結果から求められる値に,細胞外容積区画(extra cellular volume:ECV)がある。ECVは,心筋細胞外の体積を表しているため線維化が進んでいるほど大きな値を示す5)とされ,組織の脆弱さや可塑性を表すパラメータとして考えられている。T1値の測定は,IR後の異なる時相から得られた複数の画像をピクセルごとに解析するために,心筋の動きが解析結果に悪影響を及ぼす恐れがある。シーメンスが製品に搭載している“MyoMaps”機能では,動きの問題に対応するために,撮像後に自動的に動きによる心筋のズレを補正するregistration機能を搭載している。

本稿では,CMR技術の発展について,撮像時間短縮による被検者の負担軽減と画質の安定,および定量的な評価のための撮像方法について紹介した。
●参照文献
1)Kido, T., et al. : Compressed sensing real-time cine cardiovascular magnetic resonance ;
Accurate assessment of left ventricular function in a single-breath-hold. J. Cardiovasc. Magn. Reson., 18, 50, 2016.
2)von Knobelsdorff-Brenkenhoff, F., et al. : Role of cardiovascular magnetic resonance in the guidelines of the European Society of Cardiology. J. Cardiovasc. Magn. Reson., 18, 6, 2016.
3)Fontana, M., et al. : Comparison of T1 mapping techniques for ECV quantification. Histological validation and reproducibility of ShMOLLI versus multibreath-hold T1 quantification equilibrium contrast CMR. J. Cardiovasc. Magn. Reson., 14, 88, 2012.
4)Ferreira, V.M., et al. : Non-contrast T1-mapping detects acute myocardial edema with high diagnostic accuracy ; A comparison to T2-weighted cardiovascular magnetic resonance. J. Cardiovasc. Magn. Reson., 14, 42, 2012.
5)Wong, T.C., et al. : Myocardial Extracellular Volume Fraction Quantified By Cardiovascular Magnetic Resonance is Increased in Diabetes and Associated with Mortality and Incident Heart Failure Admission. Eur. Heart J., 35, 657〜664, 2014.

 

●問い合わせ先
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