技術解説(シーメンスヘルスケア)
2017年4月号
Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
心臓領域に対するシーメンスCTの包括的アプローチ
藤原 知子(ダイアグノスティックイメージング事業本部CT事業部)
10年ほど前までは特殊検査として位置づけられていた冠動脈造影CT検査(coronary CT angiography:cCTA)も,その診断精度の高さから臨床的ニーズが高まり,今日ではルーチン検査として確立したポジションを得ている。シーメンスは,SCCTガイドライン1)で推奨されているハーフ再構成の時間分解能向上をベースに,その他さまざまな新しい機能を融合させることによって,ここ数年でcardiac CTの可能性をさらに広げてきた。
本稿では,シーメンスの技術的到達点に関して,冠動脈の形態的な狭窄評価,壁運動や弁の動態評価,プラークの性状評価に続き,心筋虚血やバイアビリティなどの機能的評価に至るまでを紹介していきたい。
■高い時間分解能
cardiac CTは,常に動いている心臓を静止した画像としてとらえる必要があるため,その画質は時間分解能に大きく依存する。2対のX線管-検出器システムを搭載したdual source CT(DSCT)では,圧倒的な時間分解能の高さによって,厳しいコンディションでも高い診断精度を達成している2),3)。ハーフ再構成時間分解能として,第1世代DSCT「SOMATOM Definition」で83ms,第2世代DSCT「SOMATOM Definition Flash」では75ms,第3世代DSCT「SOMATOM Force」では66msを実現しており,現在販売されているCTの中で最高の時間分解能を誇っている(2017年3月時点,自社調べ)。1枚1枚の画像をより静止した状態でとらえられるようになったことで,冠動脈だけでなく,弁の動態評価にも活用されている。
■cCTAのウィークポイント対策
cCTAは,高い陰性適中率を示す一方で,高心拍症例,高度石灰化症例,ステント留置症例などにおいて,詳細な評価が困難な場合があるという声もしばしば聞かれる。
2005年,第1世代DSCTの登場により,心拍抑制のためのβブロッカーを使用せずとも高い診断能を実現することが示され4),検査のワークフローは大幅に改善された。第2世代DSCTが登場してからは,1心拍でwhole heartを撮影することが可能になり,被ばく低減を重視して撮影する傾向も見られた。さらに,第2世代,第3世代のDSCTでは,安静呼吸下での冠動脈CT撮影についても,その可能性が報告されている5)。
高度石灰化やステント内腔評価についても対策を講じており,cCTA黎明期より専用再構成関数を装備している6)。また,被ばくを増やすことなく装置の限界分解能を上げる“z-Sharp technology”を実装し,検出器内でのデータのクロストークを抑えたフルデジタル検出器 “Stellar Detector”やiterative reconstruction algorism“IRIS”“SAFIRE”“ADMIRE”の併用によっても,さらに診断能が向上している7)。
■Dual energy imagingの応用
第1世代DSCTの登場によって,初めて実用的なdual energy imaging(以下,DE)の臨床利用が可能となり,心臓領域でも多くの臨床応用が行われてきた。仮想単色X線画像(以下,DE Monoenergetic)を用いて,石灰化,および金属のブルーミングをより抑えた評価が可能になり8),さらにはcCTAが得意としてきた形態評価に加え,ソフトプラークの性状評価についてもvirtual historogy-intra vascular ultra sonography(VH-IVUS)との比較検討が行われた9)。また,前述のDE Monoenergeticのほかに,two-material decomposition法を用いた冠動脈の石灰化除去や,three-material decomposition法を用いたヨード成分の描出によって,内腔の開通性確認も行われている(図1)。
シーメンスのDEには,single energyで撮影した場合と比べて,画質や被ばくに妥協がなく,その上で付加価値のある情報を提供する「True Dual Energy コンセプト」という大きな特長がある。
■さらなる挑戦
冠動脈の形態的な狭窄評価,壁運動や弁の動態評価,プラークの性状評価に続き,最近ではcardiac CTの範疇は,心筋虚血やそのバイアビリティなどの機能的評価にまで及んでいる。
心筋血流に関する静的評価としては,“DE Heart Perfused Blood Volume”を用いた定性的な評価10),11)や,動的評価として心電図同期シャトルスキャンモード“Heart Perfusion”を用いた定量的な評価が実践されている12)。また,虚血性心疾患において,バイアビリティの有無を含めた心筋血流評価が,その治療方針の決定において重要とされている中で,DE Monoenergeticや11),Heart Perfusion13)(図2)を用いた遅延造影CTを撮影することで,心筋梗塞部位の判定も可能となっている。現在の冠動脈病変の非侵襲的診断法に関するガイドラインでは,cCTAで異常または判定困難とされると,続いてSPECTやMRIで虚血・梗塞評価を行うことが推奨されているが,単一モダリティで虚血・梗塞評価を非侵襲的に行えることは,cCTAで有意病変を発見した後の治療戦略を速やかに考える上で非常に有意義であると言える。現在,CTで包括的な検査を行うことで,SPECTやMRIと同等の情報を得ることができることが国内外で報告されており,多施設共同研究も進行中である。
一方,2016年HeartFlow社によるオフサイト“FFR-CT”が本邦でも承認されたことで,本トピックへの注目が急速に高まっているが,シーメンスでは,数年前からオンサイトの解析ソフトウエアに関する検討を進めている14),15)。FFR-CT解析は,計算結果に元画像のクオリティが大きく影響するため,時間分解能の高いCTにアドバンテージがあると言える。また,現状のFFR-CT解析は,モーションアーチファクトに加え,ステント,高度石灰化症例は除外されるなどの課題もあるほか,FFR-CTは冠動脈の虚血評価を行うものであって,心筋自体の虚血・梗塞の範囲はわからない。見ているものが違うということを考えると,おのずと併用の方向性も見えてくるのではないだろうか。
◎
すでに超高齢社会を迎えた日本では,今後さまざまな健康リスクが高まっていくと言われている中,シーメンスでは,“Personalized Low Dose”(CT装置で従来言われていた被ばく低減に加え,βブロッカーなどの薬剤使用量の低減,さらには造影剤使用量の低減まで含んだ Personalized“Low Dose”)をテーマとして,evidenceを積み重ねている。一般に言われるように,evidence based medicineは,単にpersonalized medicineと対立するものではないと考えており,今後も“Personalized” Low Doseを普及させるための“evidence”づくりを進めていきたい。
●参考文献
1)Abbara, S., et al. : SCCT guidelines for the performance and acquisition of coronary computed tomographic angiography ; A report of the society of Cardiovascular Computed Tomography Guidelines Committee ; Endorsed by the North American Society for Cardiovascular Imaging(NASCI). J. Cardiovasc. Comput. Tomogr., 10・6, 435〜449, 2016.
2)Schroeder, S., et al. : Cardiac computed tomography ; Indications, applications, limitations, and training requirements ; Report of a Writing Group deployed by the Working Group Nuclear Cardiology and Cardiac CT of the European Society of Cardiology and the European Council of Nuclear Cardiology. Eur. Heart J., 29・4, 531〜556, 2008.
3)Scheffel, H., et al. : Accuracy of dual-source CT coronary angiography ; First experience in a high pre-test probability population without heart rate control. Eur. Radiol., 16・12, 2739〜2747, 2006.
4)Brodoefel, H., et al. : Dual-source CT ; Effect of heart rate, heart rate variability, and calcification on image quality and diagnostic accuracy. Radiology, 247・2, 346〜355, 2008.
5)Baumueller, S., et al. : Computed tomography of the lung in the high-pitch mode ; Is breath holding still required? Invest. Radiol., 46・4, 240〜245, 2011.
6)Ehara, M., et al. : Diagnostic accuracy of coronary in-stent restenosis using 64-slice computed tomography ; Comparison with invasive coronary angiography. J. Am. Coll. Cardiol., 49・9, 951〜959, 2007.
7)Geyer, L.L., et al. : CT Evaluation of Small-Diameter Coronary Artery Stents ; Effect of an Integrated Circuit Detector with Iterative Reconstruction. Radiology, 276・3, 706〜714, 2015.
8)Okayama, S., et al. : Optimization of energy level for coronary angiography with dual-energy and dual-source computed tomography. Int. J. Cardiovasc. Imaging, 28・4, 901〜909, 2012.
9)Obaid, D.R., et al. : Dual-energy computed tomography imaging to determine atherosclerotic plaque composition ; A prospective study with tissue validation. J. Cardiovasc. Comput. Tomogr., 8・3, 230〜237, 2014.
10)Ruzsics, B., et al. : Images in cardiovascular medicine. Myocardial ischemia diagnosed by dual-energy computed tomography ; Correlation with single-photon emission computed tomography. Circulation, 117・9, 1244〜1245, 2008.
11)Delgado, C., et al. : Myocardial ischemia evaluation with dual-source computed tomography ; Comparison with magnetic resonance imaging. Rev. Esp. Cardiol., 66・11, 864〜870, 2013.
12)Greif, M., et al. : CT stress perfusion imaging for detection of haemodynamically relevant coronary stenosis as defined by FFR. Heart, 99・14, 1004〜1011, 2013.
13)Kurobe, Y., et al. : Myocardial delayed enhancement with dual-source CT ; Advantages of targeted spatial frequency filtration and image averaging over half-scan reconstruction. J. Cardiovasc. Comput. Tomogr., 8・4, 289〜298, 2014.
14)Coenen, A., et al. : Fractional flow reserve computed from noninvasive CT angiography data ; Diagnostic performance of an on-site clinician-operated computational fluid dynamics algorithm. Radiology, 274・3, 674〜683, 2015.
15)Itu, L., et al. : A machine-learning approach for computation of fractional flow reserve from coronary computed tomography. J. Appl. Physiol.(1985), 121・1, 42〜52, 2016.
●問い合わせ先
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