技術解説(シーメンスヘルスケア)
2016年9月号
MRI技術開発の最前線
最新の高速撮像技術─fingerprinting─
井村 千明(シーメンスヘルスケア(株)ダイアグノスティックイメージング事業本部MR事業部)
MRIの撮像技術は,多様な画像コントラストや静音性などさまざまな面での発展をしてきたが,なかでも最も速く,また幅広い発達を見せたのは撮像時間の短縮化であろう。本稿では,多岐にわたる高速撮像技術の中から,最近話題となっているfingerprintingについて紹介する。
■高速撮像技術の発展
MR撮像の高速化は,傾斜磁場スイッチングの高速化,撮像シーケンスの発展によって進められたが,1990年代になって多チャンネルコイルの使用を前提としたパラレルイメージングが使われるようになった。2000年代になり,画像再構成においてさまざまな数学的な手法による再構成を前提として,k-spaceのデータ充填をsparseにする技術が開発されている1)(図1)。
1回の撮像で複数のコントラストを得る手法は以前からマルチエコー法があったが,fingerprintingは従来のシーケンスでは一度に得られなかった組み合わせであるT1とT2などを可能にしている。
■Fingerprintingのデータ収集と再構成
MRFとも言われるこの技術は,2012年のInternational Society for Magnetic Resonance in Medicine(以下,ISMRM)においてMaらによって発表された2),3)。fingerprintingは,複数の画像コントラストを得られることも特長であるが,fingerprintingの特性を最も生かすことができるのは,T1値やT2値などの定量値を1スキャンで得られる点である。複数の信号パターンを同時に収集して,後処理で画像コントラストを作成するSynthetic MRIと言われる手法と異なり,最適化されたシーケンスにより得られる信号パターンから特定の組織の定量値を抽出する点が特徴である。このとき,指紋照合をするように特定の組織の信号パターンを膨大なデータベース(fingerprintingにおけるdictionary)から抽出しており,この一連の動作からfingerprintingと呼ばれている。
fingerprintingのデータ収集では,繰り返し時間(以下,TR)とフリップ角(FA)を疑似ランダムに印加し,TRごとに得られるvariable density spiral(VDS)と言われるトラジェクトリ(図2 a)をk-space内に充填し,フーリエ変換して各TRの画像を得る。
TRごとに計算した画像をTR indexの順に並べると,TR indexごとの信号の軌跡がわかる。そこから得られた特定の信号パターンとdictionary(図2 b)にある信号のパターンとを照合する4)(図2 c)。
■Dictionaryの構築
fingerprintingにおいて事前に登録されている信号パターンであるdictionaryは,ある定量値を持った組織を,最適化された撮像シーケンスによってスキャンした時のsignal evolutionを,ブロッホの方程式を用いてシミュレーションして作成している。この時の「ある定量値」の組み合わせはさまざまなものが考えられるが,Maらの報告3)では,{T1値,T2値,オフレゾナンス}の組み合わせから,56万3784個のsignal evolutionパターンをdictionaryとして作成している。この組み合わせはほかにも可能で,例えば{T1値,T2値,拡散}というものも考えられる。
しかしながら組み合わせを豊富にするとdictionaryが膨大になり,結果として撮像後のパターンマッチングに時間を要してしまう。このため,fingerprintingにおいてはコンパクトなdictionaryや効率の良いマッチング手法が必要となってくる。
■Fingerprintingの応用
fingerprintingは複数の定量値を一度に得ることができるが,現在のルーチンMR撮像をすぐに置き換えていくものではない。しかしながら,北米放射線学会がイニシアチブをとって推進しているQuantitative Imaging Biomarker Alliance(以下,QIBA)においてはMRIも重要視されている。ISMRM 2016においても,将来的にQIBAに協力していくという表明があり,その中で定量化MRIを今後の画像診断の一つの手法として広げるためには,fingerprintingやSynthetic MRIのような技術が重要であるとコメントされていた。シーメンスにおいては,標準ファントム(NIST phantom)を用いて,T1値とT2値を1分以内に同時に得ることができるシーケンスを開発し,複数の施設において定量値測定の再現性(reproducibility),反復性(repeatability)の検証をしている。
fingerprintingによって定量値が得られるが,その定量値マッピング画像を取得するだけではこれまでの「T1マップ」や「T2マップ」が同時に得られるに過ぎない。さらに踏み込んで,例えば縦軸にT1値,横軸にT2値というグラフに各ピクセルの値をプロットしていくことで,グラフ上のプロット位置によって組織の特性を一目瞭然にできるという可能性がある。
■さらに広がる応用
fingerprintingでは,同時に複数のコントラストを得て定量化することができると上述した。現在では,MRIとPETを同時に収集できるMR-PET装置が本邦においても臨床稼働しているが,fingerprintingをMR-PETの装置で動かすことにより,同時にMRIの複数コントラストおよび複数の定量値とPETを得ることができる(PET-MRF5))。MR-PETにおいては,PETの収集時間内に可能なMRIの撮像シーケンスが限られることが課題の一つであるが,PET-MRFによって,PET・CT同等の検査時間でMRIの特性を生かしたMR-PETが可能になることが期待される。
●参考文献
1)Sodickson, D., et al. : The rapid imaging renaissance ; Sparser samples, denser dimensions,and glimmerings of a grand unified tomography. Proc. SPIE., 9417, 94170G-2, 2015.
2)Ma, D., et al. : MR Fingerprinting(MRF) ; A
Novel Quantitative Approach to MRI. Proc. ISMRM, 20, 288, 2012.
3)Ma, D., et al. : Magnetic Resonance Fingerprinting. Nature, 495, 187〜192, 2013.
4)Coppo. S., et al. : Overview of Magnetic Resonance Fingerprinting. MAGNETOM FLASH, 65, 12〜21, 2016.
5)Knoll, F., et al. : PET-MRF ; One-step 6-minute multi-parametric PET-MR imaging using MR fingerprinting and multi-modality joint image reconstruction. Proc. Intl. Soc. Mag. Reson. Med., 23, 3391, 2015.
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