技術解説(シーメンスヘルスケア)
2016年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
腹部撮像における速度可変型寝台連続移動PET・CTの活用
清水 たけし(ダイアグノスティックイメージング事業本部分子イメージング事業部)
統合型Positron Emission Tomogra-phy・Computed Tomography(以下,PET・CT)による18F-fludeoxyglucose(以下,FDG)を使った撮像は,CTによる形態情報に,PETによる生体内の糖代謝情報を重ね合わせ表示し,相補的な診断を可能にする。2010(平成22)年度より,早期胃がんを除くすべての悪性腫瘍に対し,PETによる病期診断,転移・再発の診断に対して保険の適用が認められ,腫瘍学分野におけるFDG-PET・CTの活用がさらに進んだ。
通常,診断用CTの撮影は数秒で終了するため,胸部,腹部などの呼吸による体動の影響を受けやすい部位は,呼気息止めによって体動を制御する撮影法がとられる。一方,PETの撮像においては,全身像とは別に,体動の影響を受けやすい部位に対して呼吸同期撮像法を適用するなどの方法がとられてきた。これは検査時間の延長の原因となり,呼吸同期撮像法の日常的な使用の妨げとなっていた。
シーメンスのPET・CT装置「Biograph mCT Flow」で実用化された速度可変型寝台連続移動撮像“FlowMotion(FM)”法は,この課題を解決し,特殊画像の撮像を日常的に行うことを可能にした。本稿では,FM法による検査ワークフローの改善について解説する。
■速度可変型寝台連続移動PET・CTによる疾患別撮像法の最適化
Biograph mCT Flowによって実用化された FM法は,1回の全身撮像の中で,高分解能画像が求められる臓器に対してはSNRの低下を防ぐように十分な撮像時間を確保しつつ,対象外臓器を高速撮像することによって,全体の検査時間を延長することなく撮像できる方法である。図1に,撮像範囲の設定に関し,従来法であるStep & Shoot(以下,S&S)法とFM法との違いを示す。S&S法による収集の場合,ベッドポジションの体軸方向視野を単位として撮像範囲を設定するため,臓器の大きさ,体動による影響および生理的集積の影響を加味した適切な収集条件を,臓器ごとに設定することが困難であった。同じ理由で,遅延相の撮像を行うに当たり対象臓器が十分に撮像範囲に収まらない場合,ベッドポジションを追加して撮像する必要があり,それに伴う対象外臓器への不必要なCT被ばくが避けられないという問題があった。一方,FM法では,寝台を連続移動させながらPET撮像を行い,1回の全身撮像の中で,対象臓器ごとに適切な撮像範囲と時間を設定できるため,疾患によって最適化された撮像が可能となった。また,撮像範囲がベッドポジションにかかわらず任意に設定できるため,対象外臓器へのCT被ばくを回避できるようになった。
■速度可変型寝台連続移動PET・CTによる疾患別画像再構成法の最適化
FM法では,1回の全身撮像データを用い,病変の描出に適した任意の再構成範囲と条件を用いることにより,読影医の必要に応じた画像を撮像後のデータから作成することができる。図2の症例では,1回の撮像から,通常マトリックス画像と腹部の高マトリックス画像を再構成した。高マトリックス画像は,点在する病変の描出が優れており,これらの画像は約11分半の撮像データから追加撮像なしに得ることができた。図3に示す上行結腸がんの肝転移症例では,撮像時間6分程度で,全身画像および呼吸同期画像の双方を得ることができた。従来法では,追加撮像のために検査時間の延長が懸念される呼吸同期撮像であるが,FM法と組み合わせることにより,全検査において呼吸同期信号を収集しておき,後処理の一部として必要に応じて呼吸同期再構成を行うという臨床手技が実用的に可能となった。
■速度可変型寝台連続移動PET・CTによる定量評価
S&S法とFM法の差による定量評価への影響を検討した報告によると,視覚的印象による視野の均一性評価で差は見られず,また,撮像の順番にかかわらず,S&S法とFM法で連続撮像した症例から測定されたSUVmax,SUVmeanの値に差は見られなかった1)〜3)。したがって,同じ装置でS&S法とFM法の撮像を行う場合,定量性は維持されると言える。一方,物理的な評価による視野の辺縁でのノイズ特性はFM法で改善しており,また読影医による定性的な評価では,FM法の画像が有意に好まれる結果となった2)。さらにS&S法とFM法による検査を実際に経験した被検者の主観的印象を調査した結果,FM法では急な動きがなく,より静かでリラックスでき,S&S法に比べて好ましいという回答が有意に高かったと報告されている3)。
◎
Biograph mCT FlowによるFM法での撮像は,1回の全身撮像で対象臓器に対して最適な診断画像を得ることが可能となる。これにより高分解能,呼吸同期などの特殊画像を得るための追加撮像が不要となり,検査ワークフローの改善,被ばくリスクの低減が期待される。また,S&S法とFM法で定量的再現性は維持されており,治療効果判定,治療モニタリングに貢献することが可能である。読影医,被検者共により好ましいと考えるFM法によるPETの撮像は,今後よりいっそう普及していくことが期待される。
●参考文献
1)Rausch et al. : Performance evaluation of the Biograph mCT Flow PET/CT system according to the NEMA NU2-2012 standard. EJNMMI Phys., 2・1, 26, 2015.
2)Osborne, D., et al. : Quantitative and qualitative comparison of continuous bed motion and traditional step and shoot PET/CT. Am. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 5・1, 56〜64, 2015.
3)Schatka, I., et al. : A randomized, double-blind, crossover comparison of novel continuous bed motion versus traditional bed position whole-body PET/CT imaging. Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 43・4, 711〜717, 2016.
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