技術解説(シーメンスヘルスケア)

2016年4月号

Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

腹部領域におけるシーメンスCT装置の最新技術─ヨードのk-edgeを活用したアプローチ

日和佐 剛(ダイアグノスティックイメージング事業本部CT事業部)

ヨード造影剤を用いるCT検査において,ヨード-組織間コントラストを増強することの本質は,診断能の向上に加え,被ばく低減や造影剤使用量を低減できることにある。特に,33.2keVにk-edgeを持つヨードにおいては,いかにこのk-edgeに近いエネルギーを活用して撮影できるかが重要な要素となっている。シーメンスはこの命題を達成するために,single energyとdual energyの2つの側面から継続したアプローチを行っている。本稿では,腹部領域の新たなクリニカルベネフィットを得る手法として,ヨードのk-edgeを活用した最新技術について紹介する。

■‌Low kVによる4Dイメージングの活用

single energy イメージングにおいて,low kVを使用することでヨードのCT値を上昇させることができる。例えば,管電圧を120kVから70kVに変更した場合,同一注入条件のヨード造影剤は約2倍のCT値上昇が見込めるため,同等の画像ノイズを担保することができれば,約半分の造影剤使用量で同じ造影効果が得られることになる1)。画像ノイズを一定に保つには高い管電流出力が必要となるが,高出力が可能なX線管の“Straton”をはじめ,70kV,80kV,90kVの各管電圧において最大2×1,300mAの管電流を実現した“Vectron”では,より多くの被検者や検査目的にlow kVを適用することが可能である。
4Dイメージングは,low kVの恩恵を最も享受できる検査の一つであり,その重要性はますます高くなってきている。第三世代のDual Source CTである「SOMATOM Force」では,テーブルのスムーズな往復運動によるダイナミック撮影“Adaptive 4D Spiral”によって,最大22cmのwhole organパーフュージョン検査が可能となっている。図1に,標的療法前の全肝パーフュージョン検査の一例を示す。80kVを用いることにより,肝ダイナミック3相撮影と同等の線量(18mSv)で,治療のベースラインとなる肝血流量を求めることが可能であった。被ばくに対する懸念が低減できたことによって,機能情報を有効に利用できる環境が整ってきた。

図1 標的療法前の全肝パーフュージョン検査の一例(画像ご提供:ドイツ・UMM様)

図1 標的療法前の全肝パーフュージョン検査の一例
(画像ご提供:ドイツ・UMM様)

 

一方,Adaptive 4D Spiralは,最大80cmの動態イメージング(4Dイメージング)を実施することができる。図2に,eGFRが 40mL/min/1.73m2と,腎機能が低下した患者における腹部大動脈瘤ステントグラフト内挿術後のエンドリーク評価例を示す。本症例は,腎機能を考慮してわずか12ccの造影剤量で4Dイメージングを行った。ヨードのk-edgeに近い70kVを用いたことで,ヨード造影剤のCT値が上昇し,加えて4Dイメージングによる密なデータ収集を実施したことによって,造影剤ボーラスを的確にとらえた撮影が可能であった。大血管の濃染から遅れたタイミングで描出されるエンドリークと,瘤から分岐している血管から逆流して血液が流入されることが確認され,typeⅡのエンドリークと診断された。
low kVを使用することで,従来課題とされてきた被ばくに対する懸念が低減され,また,密にデータ収集できる利点を生かした正確な治療方針の決定や,造影剤使用量の減量が可能となってきた。今後,的確で低侵襲なCT検査を実現する上で,重要な位置を占めることが期待されている。

図2 腎機能が低下した患者における腹部大動脈瘤ステントグラフト内挿術後のエンドリーク評価例(画像ご提供:ドイツ・UMM様)

図2 腎機能が低下した患者における腹部大動脈瘤ステントグラフト内挿術後のエンドリーク評価例
(画像ご提供:ドイツ・UMM様)

 

■Monoenergetic Plusによるlow keVイメージング

シーメンスのdual energyイメージングの強みは,single energyによる撮影と比べて画質を犠牲にすることなく,また,被ばくを増やすことなく付加情報を提供できることにある。このコンセプトは,2005年のDual Source CTによるdual energyイメージングを発表して以来一貫して推し進めており,Single Source CTによるdual energyイメージングである“TwinBeam Dual Energy”や,高エネルギーと低エネルギーのデータ収集を連続して行う“Dual Spiral Dual Energy”においても継続して取り組んでいる(図3)。

図3 Dual energyイメージングを可能とする3つの撮影モード

図3 Dual energyイメージングを可能とする3つの撮影モード

 

今,最も注目を集めているdual energyアプリケーションの一つに,読影用グレースケール画像のヨード-組織間コントラストを強調する“syngo.CT DE Monoenergetic Plus(Mono+)”がある。Mono+は空間周波数処理を応用した第二世代の仮想単色X線画像であり,low keV領域における画像ノイズの上昇を抑制した画像再構成が可能となっている2)。一般的に仮想単色X線画像は,keVを低くするほどヨードのCT値が高くなっていくが,一方で画像ノイズに関しては,70keV付近を最良点として70keVから離れるほど急激に増加する特性を持っていた。そのため,従来のアルゴリズムでは,low keV領域の優れた画像コントラストの上昇を有効活用することができなかった。Mono+は,上昇する画像ノイズを効果的に抑制することが可能となっており,40keVや50keVといったヨードのk-edgeに近いエネルギーを用いることでヨード-組織間コントラストの上昇を有効に利用することができるようになった(図4)。120kVと比較して,40keVでは約2倍のコントラスト・ノイズ比を得られるため,従来120kVで不明瞭であった病変の検出能を向上させることや造影剤使用量を低減する上で有用である3)。また,同時に120kV相当のmixed imageを作成できる点や,Two-material decompositionとThree-material decompositionに代表される物質弁別の解析アプリケーションを使用できることもdual energyイメージングの特長である。

図4 画像ノイズの抑制を可能としたMono+による画像コントラスト上昇(画像ご提供:ドイツ・LMU様)

図4 画像ノイズの抑制を可能としたMono+による画像コントラスト上昇
(画像ご提供:ドイツ・LMU様)

 

low kV,low keVを用いる“k-edgeイメージング”を実施することで,ヨード-組織間コントラストを増強することができ,診断能を向上させるだけでなく,被ばく低減や造影剤使用量を低減することができる。シーメンスは,より低侵襲な検査を実現すると同時に,より付加価値を提供できる技術の開発へ取り組んでいく所存である。

●参考文献
1)Lell, M.M., et al. : Optimizing contrast media injection protocols in state-of-the art computed tomographic angiography. Invest. Radiol., 50, 161〜167, 2015.
2)Grant, K.L., et al. : Assessment of an advanced image-based technique to calculate virtual monoenergetic computed tomographic images from a dual-energy examination to improve contrast-to-noise ratio in examinations using iodinated contrast media. Invest. Radiol., 49・9, 586〜592, 2014.
3)Husarik, D.B., et al. : Advanced virtual monoenergetic computed tomography of hyperattenuating and hypoattenuating liver lesions ; Ex-vivo and patient experience in various body sizes. Invest. Radiol., 50・10, 695〜702, 2015.

 

●問い合わせ先
シーメンスヘルスケア株式会社
マーケティングコミュニケーショングループ
〒141-8644
東京都品川区大崎1-11-1
ゲートシティ大崎ウエストタワー
TEL:0120-041-387
http://www.siemens.co.jp/healthineers

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