技術解説(シーメンスヘルスケア)
2014年7月号
SPECT・CTシステム「Symbia Intevo」におけるOSCGM法を用いた新しい再構成技術「xSPECT」
「xSPECT」は,Symbiaシリーズのフラッグシップモデル「Symbia Intevo」に搭載され,OSCGM法を用いた新しい画像再構成技術です。イメージフュージョンからイメージアライメントに視点を変え,CT情報とSPECT情報のさらなる融合を実現し,これまでにない高分解能画像,SPECT定量化技術を提供します。「xSPECT」の特長についてご紹介します。
xSPECT 画像再構成
SPECTの画像再構成は,フィルタ逆投影法から始まり,計算処理性能の向上に伴い,逐次近似画像再構成が登場し,発展し続けています。昨今,逐次近似画像再構成に三次元コリメータ開口補正技術が搭載され,画質向上に貢献しています。さらにSPECT・CTの登場とともに,CT画像を用いた減弱補正によって,より正確な深部画像情報が得られるようになりました。そして「xSPECT」は,さらなる高画質を実現する新たな画像再構成技術として期待されています。
「SPECTをCTのイメージフレームに揃える」これがxSPECTのコンセプトです。現行のSPECT・CTでは,減弱補正に用いるCT画像は,SPECT画像のボクセルサイズにダウンサンプリングされており,CT本来の高分解能情報をSPECTの画質改善に活用されるまでに至っていません。
xSPECTでは,CTイメージフレームに揃える,すなわち,CT座標系を基準として,SPECTをCTに高精度にアライメントすることで,CTデータを位置合わせのために加工する必要がなく,撮像時の高分解能情報を最大限活用することが可能です。その結果,これまで以上にSPECT・CTを高精度に統合したボクセル画像再構成を実現しました(図1)。
一方で,新しい様々な補正情報を組み込むことでデータ量が膨大となり,OSEM法などの場合,画像再構成の収束処理に多くの時間を要することになります。これを解決するため,新しい画像再構成法としてOSCGM(Ordered Subset Conjugate-Gradient Minimizer)法を採用しました。CG(Conjugated Gradient:共役勾配)法に搭載される従来のメリット関数は,低カウントデータのようなノイズの多い環境に適さないという課題がありました。そこで,この課題を解消するノイズ環境に強いデータモデルに修正し,その新しいメリット関数を搭載したCG法を使用することで,画像データの収束性能が大幅に向上しています。これにより大容量データに対しても臨床利用可能な処理時間を実現しました。
高分解能画像の基礎となるSPECT補正技術
SPECTの画像再構成においても,いくつかの新しい補正技術を搭載しました(図2)。
まず,ガントリ回転時に生じるたわみ補正です。SPECT撮像では,ガンマ線検出器が被検者を周回し,体内から放出されるガンマ線がコリメータを通して検出されますが,xSPECTでは,この際生じる検出器回転時のたわみを並進方向(x,y,z),回転方向(yaw,pitch,roll)の計6方向で実測したモデルデータを,補正情報として使用します。
次に,コリメータ開口補正です。現行法ではコリメータ孔の幾何学的構造に応じて,ガウス分布の点拡がり関数(PSF:Point Spread Function)を算出し,分解能補正情報として用いていましたが,xSPECTでは以下の2点を搭載することでより正確な分解能補正を実現しています。
一点目は,点拡がり応答関数(PSRF:Point Spread Response Function)として,AUTOFORM低エネルギー高分解能(LEHR)コリメータの視野全域にわたり,視野中心の実測PSRFを三次元的に展開したデータを用いる点です。このデータにはコリメータセプタのペネトレーション応答が含まれるため,後述の定量計測の精度向上にも貢献しています。
二点目は,コリメータベクトルマップを用いたコリメータ孔の方向偏差の補正です。ベクトルマップは,コリメータ鋳造の過程で生じる,無数にあるコリメータ孔の方向の,実設計に対する微小な偏差をシーメンス特許技術で測定した分布情報です。
CT本来の高分解能情報を活用したxSPECT Bone
骨シンチグラフィで使用する99mTc製剤が主に骨組織に分布することから,xSPECT画像再構成で骨組織と非骨組織を区別するため,セグメンテーション技術を応用したアプリケーションがxSPECT Boneです(99mTc核種,LEHRコリメータによる骨シンチグラフィ専用)。
CT画像から,空気,脂肪,軟部組織,海綿骨,皮質骨,金属の6つのゾーンにセグメンテーション処理したゾーンマップを作成し,それらの境界情報をxSPECT画像再構成で利用することで分解能の高い画像を提供します(図3,4)。画像再構成では,SPECT推定画像がゾーンごとにフォワードプロジェクションされ,投影空間で個別に扱われます。境界情報を維持した投影画像を利用することで,高分解能画像を作成します。
SPECT画像定量化技術 xSPECT Quant
腫瘍領域において,定量計測はRI内用療法における線量計測が重要で,既に治療計画やモニタリングで応用されています。ただし,臨床ルーチンではプラナー画像による評価が主流です。一方で,SPECT定量化についても様々な手法が研究・提案されており,臨床現場で利用できる方法もありますが,手順が煩雑であることや,システムや施設特有の場合があり,標準化には様々な障壁が生じることが一般的な課題でした。
xSPECT Quantは,高精度なアライメントと,これまでにない正確な補正をベースに,57Co密封点線源を用いたクロスキャリブレーションにより,簡便にSPECTボクセル値をBq/mlやSUVに定量化することが可能で高精度かつ再現性の高い三次元定量画像の提供を実現しました(図5)。
同線源はNISTトレーサブルであり,トレーサビリティの不確かさは3%以内(99%信頼区間)です。同線源をドーズキャリブレータで測定することで,システム,ドーズキャリブレータ,標準放射能濃度とのクロスチェックが可能です。これにより,システム感度を標準化し,定量計測値をシステム間で比較できる環境の整備に貢献します。
今回は,LEHRコリメータを使用した99mTcイメージングにのみ対応していますが,これは将来のRIとコリメータペアに対応するシステムとインフラ構築であり,臨床応用への第一歩に過ぎません。また,SPECT画像定量化技術搭載に伴い,xSPECTでは生データに対する取り扱いも現行法から変わります。画像化に伴う様々な補正処理は,再構成が行われる画像空間で適用されます。撮像情報をこれまで以上に計測時のまま維持し,再構成処理前の生データへの介入を避けることで,定量計測の精度向上に貢献することが期待されています。このように,画像再構成技術のさらなる発展とともに,様々なRI検査への応用を見据えた研究開発が行われています。
新たな再構成技術「xSPECT」は,SPECT・CTとして世界初となる定量計測を実現し,新たな高分解能画像と併せることで,腫瘍のスクリーニングだけでなく,変性疾患の鑑別や治療モニタリング等,様々な領域への活用が期待されます。「xSPECT」が,かつてない情報へのアクセスとともに新たな核医学の将来へ導きます。