技術解説(シーメンスヘルスケア)
2013年12月号
デジタルトモシンセシス技術報告
「MAMMOMAT Inspiration」におけるデジタルトモシンセシスAST(All Slice Tomosynthesis)の実現
橋本 尚美(クリニカルプロダクト事業本部XP-SPビジネスマネジメント部)
トモシンセシスとは,1回の断層撮影で複数の高さ裁断面を再構成する撮影技術である。シーメンス社製「MAMMOMAT Inspiration」は,トモシンセシスを掲げて開発を行い,また,さらなる低被ばくを考慮し,一から作り上げたデジタルマンモグラフィである。
■トモシンセシスの原理
シーメンスのトモシンセシス撮影は,追加被ばくという概念から,まずは精密検査に位置づけ開発を行った。そのため,トモシンセシスの振り角は±25°,トータル50°を持ち,25回の照射にて撮影を行い(図1),最終的に得られるトモシンセシス画像は,任意の断面においても,しっかりとしたクリアな画像を得ることができる。
画像を得るプロセスは,25回の照射にて得られたプロジェクション画像25枚をボリュームデータとして取得し,再構成を行う。その結果,撮影台に対して1mmのスライスピッチでの画像を得ることができる。つまり,最終的に得られるトモシンセシス画像は,3cmの乳房厚であれば30枚,4cmの乳房厚であれば40枚となる。断層撮影の場合は,振り角が大きければ大きいほど,また照射回数が多ければ多いほど,被写体の深さの情報が多く,断層厚の薄い画像を得られる。
シーメンスのトモシンセシス画像は,最終的に1mmのスライスピッチの画像を得られるが,これを考慮し,振り角50°にて撮影を行っている。病変の位置,特に微小石灰化病変などの位置は,バイオプシー検査のステレオ撮影でも同じ原理であるが,±15°,トータル30°の振り角により,ターゲット病変の位置が明確となってくる点から見ても,最低限30°の振り角が必要と考える。また,シーメンスのトモシンセシス撮影におけるディテクタは,固定型を用いており,最終的に得られる任意のトモシンセシススライス面は,ボケのない画像を得ることができる(図2)。
今までの断層撮影は,目的とする裁断面を取得するために,その位置を回転軸としてX線管とカセッテが対向するように移動して撮影を行っていた。そのため,1回の撮影でその裁断面しか得られず,診断に必要な複数の画像を得るためには,多くの撮影回数を要していた。従来の断層撮影はフィルム,CRを用い,主たる目的としては,頭部(耳鼻),胸部,脊椎,胆嚢胆管造影撮影などを中心に使用されて,乳房撮影に使用されることはなかった。
デジタルマンモグラフィでのトモシンセシスは,ディテクタが移動しない方式と,ディテクタが常にX線管と対向して回転する方式がある。ディテクタが移動しない方式では,X線管だけが移動しながら複数回の低線量撮影を行う。この撮影によって情報を取得していくが,照射角度によって左右にズレが生じてくる。一方,ディテクタが移動回転する方式では,回転中心が存在するため収集画像を左右に回転させながら観察できるが,断面画像を再構成すると回転中心と左右で歪みが生じ,ボケを生じる。
また,セレニウム平面検出器(直接変換方式)のディテクタを使用すれば照射ごとのデータをすぐに取り込むことができるが,蛍光体平面検出器(間接変換方式)のディテクタを使用する場合には,フォトダイオードが光を受けるために,連続動作での照射では光の散乱でボケを生じてしまうことになる。そのために,X線管がステップ動作を行い,停止した時に照射する必要がある。また,乳房厚によって蛍光体の光を調整するために,撮影時間も変わってくる。
■トモシンセシスの画像処理
トモシンセシスの撮影は,数回の照射により照射回数分のRaw Dataを取得することになるが,必ず中心からズレた画像ができるために,このズレを中心(0°位置)で撮影した位置に重ね合わせる必要がある。そして,重ね合わせたボリュームデータを作成し,CTと同様にディテクタ側からX線管側を見たfiltered back projection法(以下,FBP法)により物体の位置などを計算する方法と,単純に左右のズレたデータをシフト加算する方法がある。単純にシフト加算をする場合には,ディテクタ側と圧迫板側の画像が,中心に対して一番ズレが大きいために画像がボケることになる。それに比べて,FBP法を用いると,乳房内部の組織の位置を計算しているためにスライス画像を構成でき,ボケのない画像を得ることができる。画像のコントラストを高め,2D撮影と同じような画像を得るためには,単純なシフト加算をする方が再構成しやすいが,腫瘤やスピキュラを明確に見るためには,1mmごとの画像をボケなく構成できるFBP法が適切と言える。現在のシーメンスのトモシンセシスは,このFBP法を用いている。一方,逐次近似画像再構成法の場合,トモシンセシス撮影の画像処理においては,アモルファス石灰化病変がノイズととられる恐れがある。また,いずれの方法であっても画像処理時間がかかるため,通常撮影よりも時間を要することになる。
画像ピクセルサイズは,2D撮影と同じ85μmでトモシンセシス撮影を行っている。これにより,2D撮影との違和感のないトモシンセシス画像診断が可能となる。データ量を考慮し,施設の保存媒体であるサーバーや診断用Viewerなどには,DICOMデータを用いることができる媒体であれば,MAMMOMAT Inspiration本体からキー画像のみの送信を行えるようになっている。
■トモシンセシスにおける被ばく
MAMMOMAT Inspirationは,トモシンセシス対応機種として開発されており,2D撮影およびトモシンセシス撮影において低被ばくが実現できている。従来自社デジタルマンモグラフィ比で,2D検査にて約半分の被ばく線量で撮影を行うことができる。よって,MAMMOMAT Inspirationは,ほとんどの乳房で約1mGy前後で2D撮影を行い,トモシンセシス撮影では25回の照射のトータル線量が,2D撮影と同等で行える。日本人の乳房においては,乳腺密度が高い傾向にあるため,2D撮影の約1.5倍の照射線量となる1.5mGy前後で撮影を行うよう設定している。
先に述べた通り,より正確なトモシンセシスの画像を得るために,照射回数も非常に重要なファクターとなるが,MAMMOMAT Inspirationでは,25回のパルス波の照射を行うことができる。さらに,25回の照射のトータル線量が2D撮影の1.5倍にとどまることから,その1回分の照射線量はごくわずかである。これは,感度の高いディテクタを搭載することで実現できている。また,撮影方法は,トモシンセシス撮影を単体で行うこともできるが,2D撮影とトモシンセシス撮影の同時撮影も可能である。この場合,2D撮影を行った後,連続してトモシンセシス撮影を行える。そのトータル線量は平均2.5mGyである。2D撮影後すぐに手元のモニタで画像の確認ができるため,トモシンセシス検査に入る前に,2D撮影時のポジショニングを確認することができる。
前述の通り,精密検査での位置づけにて開発を行ったトモシンセシス技術であるが,近年では,より精度の高い検査を行える装置として検診でも用いられるようになっている。2Dマンモグラフィ検査,超音波検査とはまた別の位置づけとして,デジタルマンモグラフィトモシンセシス検査が誕生しつつある。これにより,医療機関関係者だけでなく,一般の被検者からも,より精度の高い検診が今後注目され,求められると思われる。
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