Promising Approach for Managing Psoriatic Arthritis
朝比奈昭彦(東京慈恵会医科大学皮膚科学講座)
Session Ⅳ New Performance of Dual Energy CT for Precision Medicine
2018-11-22
当院では,放射線科とともにDual Energy CT(DECT)のヨードマップ画像による乾癬性関節炎(Psoriatic Arthritis:PsA)の評価を行っている。本講演では,PsAの病態を解説し,画像診断におけるヨードマップ画像を用いたPsAの評価について述べる。
乾癬と乾癬性関節炎の診断
乾癬は,遺伝的要因に環境因子が加わって発症する慢性の炎症性皮膚疾患である。鱗屑(かさぶた)を伴った境界明瞭な盛り上がった紅斑で,時に痒みを伴う。日本人の有病率は0.3%(白人の1/10)で,男女比は2:1である。発疹など皮膚症状を中心とする尋常性乾癬が85%を占めるが,最近は炎症性関節症を伴うPsAが10〜15%と増加傾向にある。PsAは,従来,発症頻度が低く症状は軽度とされていたが,現在では早期に適切に治療しなければ不可逆的な関節の変形を来し,重症化することがわかってきた。PsAはほとんどのケースで皮膚症状が先行するが,乾癬の発症から関節症状の出現までの中央値は5年であり,皮膚科医はPsAの出現をしっかりと把握することが必要となる。診断が遅れると骨びらんや身体機能障害のリスクが高まるとされ,早期の診断と生物学的製剤(特にTNFα阻害剤)による治療が必要とされる。
PsAは,脊椎関節炎に分類される疾患の一つであり,臨床症状としては末梢関節炎,および強直性脊椎炎(AS)に類似した軸関節炎症状のほか,皮疹,爪病変,指趾炎や付着部炎を来すのが大きな特徴である。手指の場合,PsAはDIP関節が罹患しやすく,また,同じ指でMCP,PIP,DIPと列をなして指炎となる特徴があり,横に並んで罹患する形となる関節リウマチ(RA)と異なる部分である。
PsAの病型は,RAと似た症状を示す多関節炎型が最も多いが,病態としては少関節炎型から始まり多関節炎に移行していくことが多い。また,AS型は頻度としては少ないが,体軸関節に何らかの症状を認める割合は3割以上になるという疫学調査もある1)。
PsAの本態と診断分類
PsAの本態は付着部炎である。これは,滑膜炎を本態とするRAと異なっており,PsAでは腱あるいは靭帯の付着部から炎症が始まり,滑膜の炎症は二次的なものである。また,関節から離れたアキレス腱や足底腱膜,肘の外顆,脊椎などの付着部に炎症を起こすことがRAとの違いである。また,付着部について関節包,滑膜,腱,靭帯などをユニット(滑膜付着部複合体:synovio-entheseal complex)としてとらえ,関節の動きに伴って機能性付着部に起こる炎症が滑膜に波及すると考えられている。
また,乾癬では爪症状がしばしば認められるが,爪を形成する爪母とDIP関節の付着部組織が解剖学的に連続しており,この付着部の炎症が爪母に波及して爪病変が生じていることがわかっている。実際に爪の乾癬は,PsAの発症リスク因子の一つであると考えられている。
PsAの診断には,CASPAR分類基準を使用する(図1)。炎症性筋骨格系疾患(関節,脊椎,または付着部)があり,爪症状,皮疹,指炎,リウマチ因子陰性,X線画像で関節近傍の骨新生像があることで点数をつけ,3点以上でPsAとなる。X線画像での骨新生像は,初期の段階では見つからないことが多い。
PsAの画像診断とヨードマップ画像の有用性
1.手足のPsAの画像診断
手足のPsAの画像診断につき,欧州リウマチ学会(EULAR)からは,脊椎関節炎に対する評価法として,MRIと超音波検査が推奨されている。しかし,MRIではDIP関節のような末梢部でアーチファクトを発生しやすい,関節の解剖学的3断面を得ることが難しい,PsA患者は同じ肢位を長時間維持することが難しい,検査予約が取りにくい,などの問題がある。また,超音波検査では,すべての指・趾関節の検査に時間がかかり,解剖学的に検査ができない部位があること,術者依存性が高いこと,装置間の標準化が難しいという問題がある。
その点,CTはアーチファクトが少なく,空間分解能も高い。また,当日検査も可能であり,検査時間も短いという利点がある。一方で,被ばくの問題や濃度分解能が悪いことが問題となっていた。そこで,CTの利点を維持しつつ濃度分解能を高める手法として,DECTのヨードマップ画像による診断に取り組んでいる。
2.DECTのヨードマップ画像
DECTによるヨードマップ画像の利点としては,PsA好発部位であるDIPの画像を鮮明に各指で評価が可能なことである。図2のように,5指すべてに高解像度の矢状断画像を作成でき,炎症の診断が可能である。また,変型が強い関節でも,各関節に対応した横断像を作成して診断することができる(図3)。それによって,PsAの診断がより正確になり,視覚的に治療評価が可能となった。
3.症例提示
症例1は,24歳,女性。乾癬発症は14年前で,1年前から生物学的製剤を投与し,半年前から休止中。1か月前から皮疹再燃とともに左足関節,左第3〜5趾DIP関節,左膝関節などに疼痛が出現した。単純X線写真ではほとんど変化は見られないが(図4 a),DECTでは第3趾の屈筋腱腱鞘炎と,PIP関節の足底側の関節周囲炎が認められ,趾全長にわたる炎症性変化があり,指炎の状態になっていることがわかった(図4 b)。
症例2は,64歳,女性,乾癬歴は11年。2010年から生物学的製剤としてインフリキシマブを投与していたが二次無効となり,アダリムマブに切り替えた。関節痛があり,DECTでは関節包を主体とした造影効果が認められるが,橈側側副靭帯に沿った炎症であり,滑膜炎は二次的と考えられた(図5 b)。MRIの脂肪抑制造影T1強調画像(図5 a)と比べても,DECTは炎症が明瞭に描出され診断が可能になっている。さらに,DECTでは,生物学的製剤を切り替えてから炎症が改善していることが一目瞭然にわかる(図6)。
症例3は,38歳,男性。14年前から尋常性乾癬を発症,6年前より手指などに関節痛が出現している。アキレス腱に痛みを訴え,単純X線写真を撮影したところ,左優位に両側踵骨のアキレス腱付着部に骨増殖像を認める。DECTでは,左アキレス腱付着部炎が描出された(図7 a)。付着部と踵骨の間に,後踵骨滑液包炎も同時に認められる(図7 a)。また,痛みの訴えは特に強くなかったが,側副靭帯や伸筋腱の付着部炎も同時に認められた(図7 b)。
まとめ
現在,厚生労働省で「乾癬性関節炎の不可逆的関節破壊進行阻止のための早期発見と治療を目指した診療ガイドライン策定に関する研究班」(代表者:朝比奈昭彦)を組織して,乾癬性関節炎の早期診断と治療のためのガイドライン策定の研究を進めている。高い空間分解能に加えて,濃度分解能にも優れるDECTのヨードマップ画像は,PsAの的確な診断に寄与することが期待される。
●参考文献
1)Ohara, Y., et al.:Prevalence and Clinical Characteristics of Psoriatic Arthritis in Japan. J. Rheumatol., 42・8, 1439~1442, 2015.