Accuracy for Radiation Therapy Planning 
治療計画CTの精度を考える 
中村和正(浜松医科大学医学部放射線腫瘍学講座)
<Session Ⅳ Focus on Oncology and Therapy>

2017-11-24


中村和正(浜松医科大学医学部放射線腫瘍学講座)

これまで治療計画用CT装置に求められる主な要件は,位置決めのためのレーザーマーキングシステムと,放射線治療装置と同様のフラット天板を用いることであり,加えて,ボア径が大きいことも要件のひとつと言われてきた。しかし,最近の放射線治療装置はきわめて高精度化している。
一例を挙げると,ガントリの回転中心精度が誤差±1mm以内,治療寝台は6軸補正が可能,マルチリーフコリメータは2.5mm,画像誘導装置搭載など,技術の進歩が著しい。そのため,治療計画用CT装置においても,より薄いスライスや高い位置精度を実現できることが非常に重要なポイントとなる。
また,放射線治療計画装置の線量計算アルゴリズムも高度化しており,従来は一次線のみでの線量分布計算であったが,最近では二次散乱線の電子密度まで考慮した線量分布計算が可能となった。そのため,電子密度(≒CT値)を正しく評価できることも重要なポイントである。
浜松医科大学の連携病院である浜松医療センターでは,2017年2月,シーメンスの治療計画用CT装置「SOMATOM Scope Power RT-Pro Edition(SOMATOM Scope)」を導入した(図1)。本講演では,SOMATOM Scopeの有用性と,放射線治療医が考える治療計画用CT装置の精度について述べる。

図1 治療計画用CT装置「SOMATOM Scope Power RT-Pro Edition」 (画像ご提供:浜松医療センター・藤下容子先生)

図1 治療計画用CT装置
「SOMATOM Scope Power RT-Pro Edition」
(画像ご提供:浜松医療センター・藤下容子先生)

 

CT画像の高い位置精度を実現するために

1.レーザーマーキングシステム
レーザーマーキングシステムは,治療計画装置のQA/QC項目として重要であり,レーザー照準システムに関する幾何学的精度を評価する。SOMATOM Scopeでは精度管理用の付属のファントムを用い,中心に埋め込まれた小さな鉄球をスキャンすることでレーザーの位置とそのズレを確認し,精度を保つことができる。

2.CT寝台
治療計画用CTの撮影では,通常,寝台にカーボンフラット天板を取り付けるため,構造上ガタが発生することが多く,患者の体重による寝台のたわみや移動精度も問題となる。SOMATOM Scopeの寝台は,カーボンフラット天板一体型であり,ガタがきわめて少ない構造となっている。
また,たわみについては,画像誘導放射線治療で照射野が小さい場合は,ポータルイメージなどを確認して補正できるため,大きな問題とはならない。しかし,照射野が長く,特に側面方向から照射する場合は,たわみが大きく影響する。そこで,SOMATOM Scopeでは,旧世代機種よりもガントリの奥行きを短くすることで撮影部と寝台の距離を短くし,かつ天板の支えをガントリに近づけることで,たわみを大幅に低減している(図2)。80kg不均等荷重で1400mm撮影時のたわみは2mm以下に規定されているAAPM(米国医学物理学会)TG66基準をクリアしており,実測でのたわみは1mmにも満たない。
寝台の移動精度は,据え付け時に厳格化したジオメトリ基準に則り,計測器で寝台の角度や垂直に動くかどうかが確認される。さらに,QA/QCプログラムのファントムをスキャンして,寝台が歪みなくまっすぐに動いているかを確認して微調整するため,より正確なCT撮影が可能となる。

図2 たわみを低減するガントリおよび寝台設計 (画像提供:シーメンスヘルスケア株式会社)

図2 たわみを低減するガントリおよび寝台設計
(画像提供:シーメンスヘルスケア株式会社)

 

3.開口径(ボア径)とFoV
治療計画用CTのボア径は,診断用CTよりも広い(80〜90cm)装置が多いが,FoVは55cm程度が一般的である。この場合,CT画像の画素数である512×512マトリックスでは,1mm以下は表現することができない。放射線治療の精度が1mm以下であっても,CT画像の誤差を含んだ治療計画であることを知っておく必要がある。
SOMATOM Scopeは最大FoVが70cmであり,シーメンスの他機種と同様にボア径と最大FoVは一致している(図3)。広い範囲を撮影できるメリットがある反面,FoVの大きさに伴い画素サイズが大きくなることに注意が必要である。正確なcontouringが必要な部位では,あえて小さいFoVを選択するなどの工夫が求められる。

図3 ガントリ開口径と最大FoV が一致 (画像提供:シーメンスヘルスケア株式会社)

図3 ガントリ開口径と最大FoV が一致
(画像提供:シーメンスヘルスケア株式会社)

 

4.CT列数とスライス厚
放射線治療計画においては,治療計画装置上で肉眼的腫瘍体積(GTV)→臨床標的体積(CTV)→計画標的体積(PTV)と自動でマージンを広げる時に,CTのスライス厚に影響される可能性がある。例えば,スライス厚が3mmの場合,マージンを自動で1mm広げると頭尾方向は3mmに,さらに1mm広げると頭尾方向は6mmに広がり,誤差が徐々に大きくなることがある。このため,CTのスライス厚の決定はきわめて重要である。

5.CT列数と撮影速度
一般的に,放射線治療は自由呼吸下で行うため,治療計画用CTも自由呼吸下で撮影することが多かったが,16列以上のCTでは注意が必要である。
4連の台車上に3cmの球体を設置し,4つの台車がそれぞれ90°の位相のズレを保って4秒に1回往復運動を行う呼吸性移動を模したファントムを作製して,4〜64列CTを用いてテーブル移動速度を変えながら撮影し,球体の体積や位置のズレを確認する研究を行ったことがある。その結果,速度が遅い場合は形状が崩れるものの重心のズレは少なく,速度が速くなるほど実際の体積に近づくが,往復運動の影響を受け重心位置の誤差が大きくなった。
つまり,16列以上の高速CTで動く腫瘍を撮影する場合は,呼吸位相を確認して位置決めをすることが非常に重要であり,呼吸モニタまたは4D-CTは必須となる。もしくは,低速撮影を行うか,腫瘍の動く側にマージンを広げるなどのcontouringの工夫が求められる。
なお,SOMATOM Scopeでは,ピッチ0.08の低速撮影モードが搭載されており,動く腫瘍に対して非常に有利である。

電子密度≒CT値を正しく評価するために─DirectDensityの有用性

放射線治療計画装置では,CT値–電子密度変換テーブル(CT to EDテーブル)に基づいて線量計算が行われるが,CT値は管電圧に依存するため,撮影対象によって管電圧を変化させると電子密度も変化してしまう。そのため,治療計画用CTの撮影には一定の管電圧(120kV)を用いる必要があり,管電圧を下げた方が良好な画像が得られる場合でも適用することができない。また,線量分布計算のためには,軟部組織を強調するフィルタ関数を用いて画像再構成するが,ブルーミングアーチファクトによって小さな高CT値の領域が分離できず,大きな吸収体として再現されてしまい,線量分布計算の際に骨による吸収を過大評価している可能性があった。
そこで,シーメンスの最新機種「SOMATOM Confidence」に搭載された放射線治療計画のための新たな画像再構成技術が“DirectDensity”(図4)である。これは,撮影時の管電圧や造影剤に依存せずにCT値を一定の電子密度に変換する技術である。

図4 DirectDensityによる画像再構成の概要 (画像提供:シーメンスヘルスケア株式会社)

図4 DirectDensityによる画像再構成の概要
(画像提供:シーメンスヘルスケア株式会社)

 

当院ではまだDirectDensityを導入していないが,実際の運用は,“syngo.via RT Image Suite”など放射線治療計画支援システムを用いてcontouringを行い,DirectDensity画像を放射線治療計画装置へ送信して線量分布計算を行うという流れになる(図5)。DirectDensityを用いることで,管電圧を変更して撮影した画像データが使用可能となるほか,Dual Energy CT撮影で仮想単純画像(VNC)を作成して線量分布計算が行えるようになることは,非常に大きなメリットと言える(図6)。

図5 DirectDensityを用いた線量分布計算までの流れ (画像提供:シーメンスヘルスケア株式会社)

図5 DirectDensityを用いた線量分布計算までの流れ
(画像提供:シーメンスヘルスケア株式会社)

 

図6 DirectDensityにより造影剤の影響の除去が可能 (画像提供:シーメンスヘルスケア株式会社)

図6 DirectDensityにより造影剤の影響の除去が可能
(画像提供:シーメンスヘルスケア株式会社)

 

まとめ

現在の放射線治療計画に必要な条件のうち,特に重要なものとして,CTの高い位置精度と,電子密度を正しく評価できることが挙げられる。また,一般に,oncologic imagingとは,さまざまなモダリティを用いて正確な診断やステージング,フォローアップを行うことを指すが,放射線治療においては位置の正確さや臓器の動き補正,線量計算の精度向上などのために,いかに最適な画像を取得するかも重要となる。放射線治療計画用モダリティに力を入れているシーメンスの今後に期待したい。

●そのほかのセミナーレポートはこちら(インナビ・アーカイブへ)


【関連コンテンツ】
TOP