Session Ⅰ CT Image Contest 2017 Japanese Edition
受賞者
2017-11-24
Best Overall
Cardio-Vascular
Dual Source部門
冠動脈解離とSMA解離を同時に描出できた緊急造影CT
末廣瑛里奈(神戸大学医学部附属病院医療技術部放射線部門)
【背 景】49歳,男性。突然の胸腹部痛および背部痛のため他院を受診し,心電図にて急性冠症候群が疑われ当院紹介となった。背部痛より大動脈解離も否定できなかったため,救急からまず胸腹部単純CTが依頼された。明らかな大動脈解離は認めなかったが,上腸間膜動脈(SMA)の内腔辺縁に高吸収域があり,周囲脂肪織の濃度上昇を伴うなど,SMA解離を疑う所見が見られた。そのため,冠動脈および大動脈の評価に加え,SMA精査のための造影CTも必要となり,緊急心臓CT検査が依頼された。
【所 見】冠動脈,SMAおよびその分枝は良好に描出され,画像再構成は容易であった。
心臓CTにおいては,左冠動脈回旋枝の#14末梢で,血管径の狭小化と造影効果の低下を認めた(a←)。
また,左室後側壁の心内膜側に造影効果の低下した所見を認め(b←), #14の灌流域として合致する領域であった。血管径が細く明らかな偽腔は確認できなかったが,冠動脈解離に伴う心内膜下梗塞と画像診断された。臨床的にも矛盾しない所見であった。
SMAには,起始直後より偽腔閉塞型解離を認めた。右結腸動脈分岐部にかけて真腔の狭窄が見られたが(c:SMAから→まで),末梢レベルでは閉塞など血流低下を示唆する所見は認めなかった。腹部はDual Energy CTによる平衡相を追加で撮影したが,やはり腹部臓器に虚血を疑う所見は見られなかった。また,大動脈には解離を疑う所見は認めなかった。
【訴求ポイント】冠動脈および大動脈,SMAは,いずれも動脈相の画像が求められた。ただ,心臓CT後に大動脈撮影を行うと動脈相のタイミングがずれ,また,検査を分けると造影剤量や被ばくの増加が懸念される。そのため,1回の撮影でいずれの動脈も評価するため,以下のように造影剤注入方法と撮影タイミングの工夫を行った。
(1) double level test injection法により,上行大動脈のピーク後,大腿動脈レベルに移動させることで,一度のtest injectionで上行大動脈と大腿動脈の造影剤ピーク時間を測定した。
(2) 上行大動脈および大腿動脈のピーク時間の差から,造影剤注入時間を最短時間になるよう決定した。造影剤注入レートは心臓CTと同様とした(22mgI/kg/s)。
(3) 撮影は心電図同期のChest PainモードのTurbo Flash Spiral撮影を用いた。拡張期での撮影とし,また,撮影タイミングは大腿動脈のピーク時間を参考に決定した。管電圧はCARE kVにより80kVが選択された。
緊急の心臓CT検査であったが,CTDIが2.9mGyという低被ばくで撮影でき,冠動脈,大動脈,SMA解離および血管狭窄範囲の評価を同時に行うことができた。
General
Single Source部門
腎動脈における超低造影剤量4次元イメージング
垣見明彦(大阪市立大学医学部附属病院中央放射線部)
【背 景】65歳,女性。難治性高血圧の加療を目的に他院より紹介。術前の血清クレアチニン値は2.96mg/dL,eGFRは13.2mL/min/1.73m2であり,高度な腎機能の低下を認めていた。術前のMRAでは右腎動脈起始部に狭窄を認め,腎動脈ステント留置術を施行した。本検査は腎動脈ステント留置術の術中に,腎動脈狭窄の診断と腎動脈ステントの拡張評価を目的に施行した。
【所 見】術前撮影では,右腎動脈起始部にプラークを伴う狭窄を認める。術後撮影では,ステントは大動脈側にわずかに突出して留置されている。ステントの良好な拡張に加えて,内腔の開存も確認できる。
【訴求ポイント】高度腎機能低下症例のため,造影剤量を最大限に低減することが求められることから4次元撮影(DynMulti)を選択した。造影剤は高倍率に希釈し,腹部大動脈に留置したカテーテルより注入した。Dyn Multiにより得られた時間分解能の高い複数の時相から最適な造影効果が得られた時相を選択することで,被ばく線量は多めながらも,超低造影剤量にて腎動脈ステント留置術で求められる術前および術後評価を達成できた。腎機能の低下が著しい本症例では,術前の大動脈造影や術後DSA撮影は実施していない。造影剤使用量は術前撮影6mL,術後撮影4mLであり,手技全体では15mL(すべて原液換算)であった。
General
Dual Source部門
腎移植前小児患者に対する包括的全腹部動静脈撮像
前林知樹(神戸大学医学部附属病院医療技術部放射線部門)
【背 景】8歳5か月,男児,103cm,18.6kg。線維筋性異形成症による腎血管性高血圧症で左腎摘出後に右腎機能低下が進み,慢性腎不全となり,腹膜透析となった。腎移植前の精査として,吻合可能な骨盤内血管の精査目的に加え,右腎摘出の必要性を判断するため,線維筋性異形成症による右腎動脈の状態の評価も同時に求められた。
【訴求ポイント】原疾患が線維筋性異形成症であり,腎動脈末梢での狭窄が予想されたため,腎実質が造影される前に腎動脈の撮影を終わらせる必要があること,脳梗塞の既往があり意思疎通できず,わずかな呼吸による動きで腎動脈末梢の狭窄評価が困難となる可能性があったことから,CARE Bolusを併用してTurbo Flash Spiral Scanで動脈相を撮影することとした。末梢での細径血管描出のために70kVを用い,Iodine derives rateは高く保った。静脈相は被ばく低減を優先するため,同じく70kVによるTurbo Flash Spiral Scanを用いることとしたが,灌流のタイミングが異なる内腸骨静脈,大腿,外腸骨静脈両者の造影効果を保つため,造影剤量は300mgI/mLの造影剤で38mL(600mgI/kg)とした。腎動脈の本幹から末梢分枝,さらに尿管動脈からの側副路を描出するため,Slub MIPで画像作成した。腎動脈末梢までの描出と,腎移植のための内腸骨動静脈の走行を確認できるモーションのない画像を提供できた。
Cardio Vascular
Single Source部門
1管球CTによる包括的心臓検査
伊藤進吾(新東京病院放射線撮影室)
【背 景】糖尿病の既往を持つ59歳,男性。以前の冠動脈CTでRCAに軽度狭窄があったが,胸部症状がやや強まったため,再検査目的で来院。
【所 見】RCA #2に高度狭窄が出現しており,Dynamic CTPでは灌流低下を認めた。心筋血流量(MBF)解析ではRCA領域(0.75mL/min/g)は他領域(1.07mL/min/g)と比較して明瞭に低下していた。遅延造影画像で明らかな梗塞を認めなかったことから,RCAの病変は虚血を伴った狭窄と診断され,治療適応と判断された。
【訴求ポイント】(1) 1管球64列CTでも,工夫次第で包括的心臓検査が可能である。(2) Dynamic CTPのsampling rateが低い
ため,DLPは199mGy cmと低被ばくで撮影可能であった。(3) Dynamic CTPをカラー表示することで,白黒表示と比べて虚血部位の視認性が向上する。(4) ソフトを使うことによりMBF計算も可能で,冠動脈とのfusion画像も作成できる。(5) 1回の検査で冠動脈の形態評価,虚血・梗塞評価が可能であり,治療方針の決定に大きく寄与した。
Dual Energy
Single Source部門
TwinBeam DECTによる腫瘍浸潤評価
南出哲也(九州がんセンター診療放射線技術部)
【背 景】77歳,男性。食欲不振,体重減少を主訴に前医受診。単純CTにて上行結腸の壁肥厚,リンパ節転移を指摘され,当院紹介。全身転移検索および血管3D画像作成も含めた依頼目的にて造影CT検査(動脈相,門脈相,遅延相)を施行。その際,前医にて上行結腸病変部周囲への浸潤が疑われたため,遅延相にてDual Energy CT(DECT)撮影を施行した。
【所 見】造影CT画像(Composed Image:120kV相当)では,回腸末端から上行結腸にかけて腫瘤を認め,上行結腸癌が疑われた。周囲にリンパ節転移と腹膜肥厚を認め,転移および播種が考えられた。さらに,右腎筋膜肥厚を認め,浸潤が疑われた。一方,腫瘤は右腸腰筋に接していたが,腸腰筋の形状は保たれ,CT値の左右差も5HU程度であり,明らかな浸潤を疑うには至らなかった。そこで,DE Monoenergetic Plus(Mono+)解析を行ったところ,左腸腰筋では仮想単色エネルギーレベルを変化させてもCT値はほとんど変化しなかったが,右腸腰筋では低エネルギーレベルになるに従いCT値の上昇,すなわち造影効果を認め,浸潤を強く疑うに至った。
【訴求ポイント】臨床において周囲臓器への腫瘍浸潤を評価することは,治療方針を決定する上で重要である。よって,本症例のように,通常の造影CT画像で腫瘍浸潤が明らかでない場合,DECTを用いたMono+解析にて腫瘍浸潤が評価できることはきわめて有用であり,診断価値が高い。
Dual Energy
Dual Source部門
腰椎圧迫骨折評価におけるBone Marrow解析の有用性
稲田発輝(天草地域医療センター放射線部)
【背 景】74歳,女性。交通外傷にて来院。頭頸部および腰部に疼痛の訴えがあった。全身の精査目的にてDual Energy CT(DECT)検査を施行した。
【所 見】Th12,L1,L2,L4に圧迫骨折後の変化,L5/S1では終板変性が認められた。L2圧迫骨折部では,DE Bone Marrowにて骨髄浮腫が認められたが,他の骨折部については,浮腫を示唆する異常は認められなかった。2日後に腰椎MRI検査が施行され,DE Bone Marrowにて浮腫が認められた部位に一致したT1WI低信号,T2WI FS高信号が認められた。
【訴求ポイント】椎体圧迫骨折診断において,新規骨折および陳旧性骨折が混在している場合には,形態評価のみでは診断・鑑別に苦慮する。MRIによる骨髄浮腫の有無が診断に有用であるが,疼痛による体動や撮影時間などが問題となることが多い。DE Bone Marrowは,DECT画像から骨髄浮腫の有無を評価することができる。検査時間も短いため体動による画質低下も少なく,新規骨折と陳旧性骨折の鑑別を簡便に行うことが可能である。本症例では,DE Bone MarrowとMRIの異常所見は一致しており,DE Bone Marrowの正確性を表していると思われる。DE Bone Marrowは整形外科からの評価も高く,椎体圧迫骨折の評価において,DECTが第一選択となっている。
Exceeding Expected Performance
1-16 MSCT部門
第一肋骨奇形による胸郭出口症候群におけるCTの有用性
松井誠一(慶友整形外科病院画像診断科)
【背 景】50歳代,男性。数か月前からの手指の冷感を主訴に来院。電車のつり革につかまるなど,長時間腕を挙上しているのがつらいとのこと。徒手テスト(Wright/Roos test)より胸郭出口症候群疑いとなり,単純+造影CT検査となった。検査目的は,上肢下垂位・挙上位での肩甲骨下端までを含めた胸郭部のアライメントの確認,患側鎖骨下動脈の圧迫の有無である。本検査は,上肢下垂位および挙上位(単純)で胸郭部の情報を,患側挙上位(造影)で鎖骨下動脈の情報を得ている。
【訴求ポイント】胸郭出口症候群とは,いわゆる胸郭出口部における鎖骨下動静脈・腕神経叢の圧迫によって生じる病態であり,CTでは鎖骨と第一肋骨,鎖骨下動脈などの関係性を見るのが重要となる。単純CTでは骨と骨の関係性が見えればいいため,Quality ref. mAsを低く設定し,被ばくを低減させている。一方,造影CTでは,ある程度の線量が必要となってしまうため,撮影範囲を可能な限り絞って検査を行っている。画像処理としては,胸郭部の解剖学的情報・アライメント,鎖骨下動脈の圧迫所見・圧迫位置が見やすいよう画像処理を行い,見せる角度を意識して診断に有用な画像を提供している。本症例は第一肋骨の奇形による胸郭出口症候群ということで,当院でも非常に珍しいケースである。