Session Ⅱ : Benefits of Stellar Detector 
腹部・心臓 
腹部・心臓におけるStellar Detectorの有用性 北川覚也(三重大学医学部附属病院中央放射線部)

2013-11-25


北川覚也

当院では,2012年1月に「SOMATOM Definition Flash」(以下,Definition Flash)を導入し,その1年後に検出器を“Stellar Detector”にアップグレードした。また同時に,Stellar Detectorに対応したEdge technologyも導入された。
Stellar Detector搭載前後の比較を中心に,腹部・心臓領域におけるStellar Detectorの臨床的有用性について報告する。

腹部領域におけるStellar Detectorの有用性

同一患者の腹部単純CT画像を,Stellar Detectorの搭載前と搭載後で比較すると,一見してその違いはそれほど明確ではない。しかし,拡大してみると,例えば腹腔内の脂肪と腹壁の境界では,従来のdetectorの画像は粗くギザギザが目立つが,Stellar Detectorではシャープな境界線として描出される(図1)。肝臓や脾臓を拡大しても,やはりStellar Detectorの方が辺縁がすっきりと見えるようになった。
また,肝実質も,従来のdetectorの画像にはストリークアーチファクト様のノイズが入っているが,Stellar Detectorでは細かな粒状のノイズになっている。

図1 Conventional Detector(a)とStellar Detector(b)の拡大画像の比較

図1 Conventional Detector(a)とStellar Detector(b)の
拡大画像の比較

 

心臓領域におけるStellar Detectorの有用性

●位置決め画像の画質の向上

心臓パーフュージョンを撮影するためには,正確な位置決めが必要である。位置決めの撮影にあたっては,できるだけ被ばく線量を抑えるため,装置の下限である70kV,36mAsで撮影している。その場合,当然ながら従来のdetectorではストリークアーチファクトが目立つが,Stellar Detectorでは,高画質の画像が得られるようになり,左室の位置決めも容易となった(図2)。低線量の撮影では,Stellar Detectorの有用性はきわめて高いと言える。

図2 70kV,36mAsでの位置決め画像

図2 70kV,36mAsでの位置決め画像

 

●0.5mm厚でのノイズの低減

従来,0.33mmだったZ軸方向の分解能は,Stellar DetectorのEdge technologyによって0.3mmに向上した。0.75mm厚(カーネルⅠ46)で再構成した画像の冠動脈を拡大して見ると,Stellar Detectorでは非常にシャープになっている。
Edge technologyにより,最小再構成厚は0.5mmまで向上した。0.75mm厚と比較すると,ノイズが目立つようになるものの,冠動脈CTとしては十分な,分解能の高い画像が得られる(図3)。

図3 冠動脈CTAにおけるConventional DetectorとStellar Detectorの比較

図3 冠動脈CTAにおけるConventional DetectorとStellar Detectorの比較

 

われわれも,従来は0.75mm厚を基本としていたが,Stellar Detectorへのアップグレード後,通常の冠動脈CTでは0.6mm厚で再構成し,ステント留置例などでは0.5mm厚を用いている。0.5mm厚で再構成することによって,ステントの構造がはっきりと見えるようになり,内腔も格段に評価しやすくなっている(図4)。

図4 Stellar Detector(b)によるステントの描出

図4 Stellar Detector(b)によるステントの描出

 

Comprehensive CT study

●Definition Flashによる負荷Dynamic CTP

当院では,入室から退室までおよそ40分間で,負荷Dynamic CTP,安静時CTA,遅延造影CTを行うプロトコルにより心臓を評価するComprehensive CT studyを行っている(図5)。

図5 三重大学におけるComprehensive CT study

図5 三重大学におけるComprehensive CT study

 

69歳,女性の症例では,冠動脈CTによりRCA,LADの近位部にきわめて強い石灰化が認められた。冠動脈CTでは内腔の評価はまったくできなかったため,Dynamic CTPを施行した。心臓の上から4cm,下から4cmを交互に撮影し,これらを組み合わせることで任意断面を見ることのできるDynamic CTPのボリュームデータが得られる(図6)。短軸方向の画像を見てみると,下壁に明らかな血流異常が認められた。

図6 Stellar DetectorによるDynamic CTPの画像

図6 Stellar DetectorによるDynamic CTPの画像

 

●“Volume Perfusion”による血流評価

Definition Flashは,コンソール上でダイナミックボリュームデータのパーフュージョン解析を行うソフトウェア“syngo Volume Perfusion”により,心筋血流マップや心筋血液量ボリュームマップが作成できる。これを冠動脈のVR画像にフュージョンさせると,冠動脈と血流の関係をより明確に把握することができる。図6の症例では,RCAの領域に一致した血流低下領域が認められ,RCAの有意狭窄が疑われたため,心臓カテーテルを施行した。その結果,RCAに90%の狭窄が確認され,LADには病変は認められなかった。PCIの半年後に撮影したフォローアップのCT画像では,留置されたステントによってRCAの狭窄が解除されていることが確認された。心筋血流マップでも,術前には低下していた下壁の血流が,術後のフォローアップでは回復していることがわかった。
視覚的な評価だけでなく,各領域の心筋血流を定量的に数値で評価することも可能である。本症例では,術前はおよそ60 mL/min/gであった部分も,他の領域と同様に100 mL/min/g程度に回復していた。

被ばく線量低減の試み

●80kVでの負荷Dynamic CTP

負荷Dynamic CTPでは,同じ部位を何度も撮影するため,被ばく線量が多くなることが課題である。文献によると,100kV,300mAsで撮影し,9mSv程度の被ばくになるという報告が多い。われわれは2012年,被ばく線量を低減させるために80kVでの撮影を検討した。検討時は,Stellar Detectorにアップグレードする前になる。BMI 25くらいの体格の患者を80kVと100kVで撮影し,比較してみると,80kVではノイズは目立つものの,画質は十分に保たれていた(図7)。被ばく線量は,80kVで6mSv(k値=0.017)と,100kVと比較して40%低減した。ノイズは80kVの方が多いものの,造影剤の増強効果が高くなるため,全体としてCNRには差はなかった。“syngo Volume Perfusion”で算出する心筋血流量にも差はなかった。
これらの検討結果から,BMI 25までの患者に対しては,80kVでも十分に検査が行えると結論した。実際に80kV,370mAsで撮影したDynamic CTPを見ても,側壁の血流低下と冠動脈の異常が確認できた。

図7 Definition Flash(Conventional Detector)を用いた80kVと100kVの画像の比較

図7 Definition Flash(Conventional Detector)を用いた
80kVと100kVの画像の比較

 

●Stellar Detectorによる80kVの適応の広がり

2013年のECR(欧州放射線学会)においてシーメンスのKlotz, E.らは,肝臓のDynamic Perfusion CTの被ばく低減に関し,Stellar Detectorを用いれば,体が大きな患者であっても80kVで撮影することができると発表した。この発表を受け,従来はBMI 25までと考えていた当院においても,体格に関係なくすべての患者に対して,80kVでのDynamic CTPを施行することとした。さらに,80kVでの撮影にCareDose 4Dを組み合わせることにより,4mSv(k値=0.014)程度の被ばく線量で,負荷Dynamic CTPを行うことが可能である。安静時CTA,遅延造影CTと合わせても,被ばく線量の 総計は平均9.7mSvであり,シーメンスの提唱するRight Doseな検査プロトコルと言える。

まとめ

Definition FlashのStellar Detectorへのアップグレードにより,全般的な画質の向上が実現した。0.5mmの画像再構成が可能となったことで,心臓領域におけるブルーミングアーチファクトが低減された。80kVでのCTPをすべての患者でルーチンに利用できるようになり,被ばく線量が低減できた。


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