Session Ⅱ : Benefits of Stellar Detector
物理特性 富田博信(埼玉県済生会川口総合病院診療放射線部放射線技術科)
2013-11-25
シーメンス社が開発した次世代型検出器“Stellar Detector”は,RSNA2011で発表され,「SOMATOMDefinition Edge」と「SOMATOM Definition Flash」に搭載されている。本講演では,Stellar Detectorの物理特性について,従来のConventional Detectorと比較した検証を行ったので報告する。
Stellar Detectorの特長と検証内容
Stellar Detectorは,検出器の構造を見直し,フォトダイオードとADC(アナログデジタル変換器)を一体化して,アナログ伝送部分を排除した。これによって信号回路からの電気ノイズを低減し,回路上のクロストークを抑制することで,SNRと空間分解能の向上を実現している(図1)。Stellar Detectorでは,逐次近似画像再構成法との組み合わせによって,さらなるノイズと被ばくの低減が可能になると思われるが,実際にどの程度の性能があるか,従来のDetectorとの比較検討を行った(データ収集協力:当院CT班,埼玉医科大学総合医療センター,春日部市立病院,埼玉CTテクノロジーセミナーの関係者)。
検証に使用した機種は2タイプのSOMATOM Definition Flashで,Stellar Detector搭載機とConventional Detector搭載機である。以下に比較項目を挙げる。
(1) 再構成関数が同等かどうか
・X-Y平面の空間分解能(MTF)
(2) 撮影条件の変化における特性変化の比較
・Standard Deviation(SD)
・Noise Power Spectral(NPS)
・低コントラスト検出能
(3) 造影剤に対する感度の比較
(4) ストリークアーチファクト
(5) Edge technologyの検証
・section sensitivity profile on Z-axisの測定
比較検証結果
●再構成関数による比較(MTF)
X-Y平面のMTFの測定条件は,120kV,200mAs,0.5s,ピッチ:1.0,再構成関数は肺野から腹部を想定したB10,25,40,60で撮影し,MTF解析ソフト(CTPSF,ワイヤー法)で測定した。図2は,センター付近での解析結果だが,再構成関数を変えてもStellar DetectorとConventional Detectorでの差は認められなかった。オフセンターでの計測でも同様であった。
●撮影条件による特性変化
1)SD
SDは,250mmの水ファントムを用いて中心と辺縁に40×40pixelの5個のROIを設け,電圧を80,100,120,140kV,電流は30,50,100,150,200,250mAsで測定した。画像の視覚的評価でも,低線量でStellar Detectorのノイズが少ないことがわかるが,SDのkVとmAsによる変化をグラフ化した(図3)。80kVの30mAsではSDは27.7%の向上が見られ,Stellar Detectorは低線量領域で優れた特性を持っていることがわかる。一方で,120kV,30mAsではSDの向上はわずかであった。
2)NPS
NPSは,SDと同様に電圧を80〜140kV,電流は30〜250mAsまで変えて計測を行った(図4)。SDと同様に低線量ほど効果が高く,また,低周波領域が改善されているのが特徴である。低線量(30mAs)で電圧を変えて撮影してみると,低電圧ではやはり,低周波領域が良好になっていることがわかる。
3)低コントラスト検出能
Catphanファントム(CTP263)を用いて,120kV,30〜250mAsで,低コントラスト検出能を確認した。Stellar DetectorとConventional Detectorの画像を線量ごとに比較すると,Stellar Detectorの方が若干ノイズが少ないことがわかる。低コントラスト検出能を定量的に検証するのは難しいところだが,100mAsと250mAsでROC解析を行ったところ,低線量など条件が悪い時に差異があることが示唆された(図5)。
●造影剤に対する感度
管電圧の変化で造影剤の感度が変わるかどうかを比較した。Stellar Detectorの方がCT値が若干高いが,両者の性能的な差異ははっきりしない。
●ストリークアーチファクト
ストリークアーチファクトの評価は,ブタの骨を水ファントム上に置いて撮影して,比較した。120kV(30mAs)のSDではStellar Detectorが18.8,Conventional Detector21.1で,画像上のストリークも少なく見える。しかし,ストリークアーチファクト測定でSDを用いるのは定量性の面で問題があると考えられた。埼玉CTテクノロジーセミナーでは,名古屋大学・今井らによる「極値統計によるストリークアーチファクトの定量評価法」(European Journal of Medical Physics, 2010.)をもとに,Gumbel分布直線によるストリークアーチファクトの定量評価について共同研究を行っている。
同論文では,“画像ノイズはGauss分布に従うと言われているが,基本的にストリークアーチファクトによるCT値変動はGumbel分布に従う”と報告されている。Stellar DetectorとConventional Detector(当院Sensation64)で,SDが一定になるようにストリークアーチファクトを発生させ,得られた画像からGumbel分布グラフを作成した(図6)。右に行くほどストリークアーチファクトが多いことを示すが,低線量であるほど差異が大きく,Stellar Detectorの方がストリークアーチファクトが低い値となった。図7は肺がん検診のCT画像だが,Conventional Detector の42mAsでの撮影と比べても,Stellar Detectorでは36mAsでストリークアーチファクトが低減されていることがわかる。
●Edge technologyの検証
Edge technologyは,Stellar Detectorでチャンネル間のクロストークを最小化することで,検出器の本来の性能を引き出す技術である。それによって,より正確なスライスプロファイルの生成が可能になり,0.6mm検出器幅で0.5mmのスライスデータが得られると言われている。Edge technologyの効果について,(1)section sensitivity profile on Z-axis(SSPz)の測定,(2)ピッチ変化とFWHMの関係,(3)得られたプロファイルよりMTFを算出して検討を行った。
SSPzについて,ピッチ0.35時のプロファイルを0.5mm再構成と0.6mm再構成で比較した(図8)。0.5mmではプロファイルの形状が鋭角になっており,0.6mmと比べて明らかに違うことがわかる。FWHMは0.579mmと0.671mmで,かなり公称スライス厚に近い値であると考えられる。MTFでは,0.5mm再構成は直線に近く,相関が高いことがわかる。
ピッチを上げていくとFWHMも若干上がっていくが,0.5mm再構成ではピッチ1までは0.5mmに値する数値となっており,ピッチ0.6で撮影してもz-sharpによって公称スライス厚に近いことがわかった(図9)。
まとめ
これらの結果から,Stellar Detectorは,低線量では効果が高く,ストリークアーチファクトも低減していた。肺がん検診やより低線量撮影などには有効であると考えられる。低周波での改善については,Stellar Detectorの回路からの電気ノイズの低減の効果が大きいことがNPSからわかるが,これは逐次近似画像再構成法とのマッチングが良い可能性を示唆(検出器:低周波数領域の改善,逐次近似再構成:低周波数領域の改善が少ない)していると考えられる。Stellar Detectorとシーメンス独自の被ばく低減技術“CARE”を組み合わせることで,さらなる効果が期待できると思われる。