セミナーレポート(シーメンス)
●Quiet MR Imaging
●Quiet Suiteセミナー
2014年7月号
第73回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー14
Quiet MR Imaging
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2014年4月12日(土),シーメンス・ジャパン共催の第73回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー14「Quiet MR Imaging」がパシフィコ横浜会議センターにて開催された。相田典子氏(神奈川県立こども医療センター放射線科部長)の司会により,ドイツ Siemens AGのDr. David Grodzki氏が技術解説を行い,Frankfurt大学のThomas J. Vogl M.D.が臨床使用経験を報告した。小児医療を専門とする司会の相田氏は冒頭,静音技術に強い期待を表明した。講演後の質疑応答では,QuietXによる 画質への影響に関する質問に対し,驚いたことにまったく影響がないことが確認できているとGrodzki氏が回答した。また,髄鞘形成完成前の幼児の白質 /灰白質コントラストについての質問にはVogl氏が,MPRAGEとqPETRAで画質の違いはないと回答。小児をはじめ成人においても,通常シーケン スはすべてQuiet Suiteを適用していると述べた。
Technique behind quiet MR
Dr. David Grodzk
iMR Business Management, Imaging & Therapy Division, Healthcare Sector, Siemens AG
MRIにおける騒音は,信号取得時の電流の高速スイッチングによるグラジェントコイルの振動が主な原因である。「Quiet Suite」は,ソフトウェアの変更のみで画像取得時のグラジェントの動きを最小限にする方法であり,大幅な静音化を実現する。
qPETRAシーケンス
Quiet SuiteにおけるPETRAとは,Pointwise Encoding Time reduction with Radial Acqusitionの略であり,もともとは骨や腱などMSKの描出といった別の目的のために,ultra-short echo time(ultra-short TE)を用いて設計されたものである(図1)。
qPETRAは,従来のシーケンス(例えば,MPRAGE)で最適化されていたコントラストに対して同等の画質や撮像時間を実現する。k空間の中心で密に信号を取得するため,高いSNRおよびCNRが可能となる。
同じ撮像条件とスキャン時間で取得したMPRAGEとqPETRAの画像を比べてみると,白質/灰白質のコントラストはほぼ同等と認められる(図2)。ただし,両者の大きな違いは騒音である。MPRAGE(図2 a)の96dB(A)は,チェーンソーと同等の音量であるのに対し,qPETRA(図2 b)の64dB(A)は,背景音より若干大きい程度で,例えば窓外の小鳥のさえずりくらいと言える。qPETRAは,従来のハードウェアを一切変更することなく,MPRAGEを実質的に置き換えることが可能な静音技術である。
QuietX:従来型シーケンスにおける静音技術
シーメンスは,従来型シーケンス(TSE, SE,GREなど)に対する静音化を目的に,グラジェント形状を自動的に最適化するアルゴリズム「QuietX」を開発した(図3)。QuietX は,T1,T2,FLAIR,STIR,BLADEといった主要なコントラストや,SWI,ローカライザー,キャリブレーションシーケンスなどを網羅し,騒音の大幅な低減を実現している。完全に独立したアプローチのため,すべてのシーケンスに適用可能で,自動的にグラジェントを平滑化し,最大限の静音化を実現しうる。
まとめ
Quiet Suite(qPETRA & QuietX)は,脳神経や整形外科領域に加え,全身検査を包括的に網羅し,画質を低下させず,スキャン時間も延長させることなく,騒音を最大97%低減しうる。さらに,拡散強調画像やTOF法への適用などの開発を進めており,今後の進化に期待していただきたい。
Quiet MR Imaging Clinical & Frankfurt MR Experience
Thomas J. Vogl M.D.
Head of the Department of Diagnostic and Interventional Radiology, University of Frankfurt
1914年に創立されたフランクフルト大学病院のMRIセンターでは現在,3TのMAGNETOM Prisma(Trioからバージョンアップ),1.5TのMAGNETOM Avanto,MAGNETOM Espree,MAGNETOM Aeraの4台のMRIが稼働している。これらの高磁場装置においてMR検査時の騒音は大きな問題だが,シーメンスは革新的な静音技術を開発し,大幅な騒音低減を実現した。本講演では,静かなMR検査を可能にするQuite Suiteの臨床使用経験を報告する。
QuietXの有用性
グラジェント形状を自動的に最適化するアルゴリズム「QuietX」は,MR検査の騒音を70%以上も低減し,快適な検査環境を実現する。図1に示すように,通常のT2 TSEの画像と比べてQuietXは騒音を77%低減しているが,画質に違いは認められない。
静かなMR検査を実現するQuiet Suiteの臨床的有用性
Quite Suiteにより,脳神経系および整形外科領域ではQuiet localizerで最初からノイズが低減され,TSE,SE,GRE,DarkFluidなど,さまざまなシーケンスおよびコントラストに応用でき,また,Quiet SWIをはじめ,qPETRAも含めて一連のMR検査が実施できる。そして,ハードウェアの変更が不要なことも,経営的には重要なメリットである。
静かなMR検査は,診断に資する画質を担保し,かつ脆弱な患者に対する検査環境を改善することができる。
個々の患者にとって静かなMR検査は,不安の軽減,再検査の減少,意思疎通の改善,撮像時間の短縮,画質の向上,適用の広がり,明確な治療計画の立案などのメリットがあり,その結果,患者の快適度・満足度を高めることが可能となった。
検査を担当する診療放射線技師にとってのメリットは,患者に集中できる,準備や撮像にかかる時間の短縮,さらに,検査フロア内のスタッフ同士のコミュニケーションの改善などが挙げられる
医師にとってのメリットは,静かなMR検査により患者の快適性が向上すればスループットが上がり,アーチファクトのない鮮明な画像が正確な読影を可能にすることが考えられる。
筋骨格領域における通常のT1 TSEとQuietXの画像を図2に示す。QuietXでは,騒音が70%以上低減されている上に,診断に十分な画質が得られている。
当院の3T MR装置「MAGNETOM Prisma」のバックグラウンドノイズを操作室で計測すると,46.4dBであった。図3に,頸部リンパ節診断の脂肪抑制T2強調画像の症例を示す。aの通常シーケンスでは約80dB,bのQuietシーケンス(QuietX)では約68dBと,QuietXは騒音低減を実現しつつ,画質に差はないことが認められる。
静音技術の小児患者へのアプローチ
当院では,子供にやさしいMRI(Child-friendly MRI,Kid-friendly MRI)を目標にさまざまな試みを行っている。なかでも静音技術(Quiet Suite)を用いた小児の全身MRI(Whole-body MRI)には大きな期待を寄せている。全身のMR画像が高精細に描出されれば,がんの検索など診断上の有用性が高い。今後も関係する複数の臨床科と協力して,子供にやさしいMRIの実現に向けて研究を進めていきたい。
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