Intelligent CT『SOMATOM X.cite』Exciting Report
2021年8月号
山形市立病院済生館 高齢化が進む地域の脳卒中コアセンターに低侵襲検査を可能にするIntelligent CTを導入─Perfusion CTや低管電圧撮影による確実性・安全性の向上と,AI技術による検査業務の効率化を実現
高い基本性能と人工知能(AI)技術の実装で医療現場を革新するSiemens Healthineers(以下,シーメンス)の最新CT 装置「SOMATOM X.cite」。SOMATOM X.citeの“intelligent(聡明さ)”を導入事例で紹介する本シリーズScene4では,一次脳卒中センターのコア施設として,病院を挙げて脳卒中診療に尽力する山形市立病院済生館を取材した。SOMATOM X.citeで可能になった低侵襲検査と業務支援が,現場にどのような恩恵をもたらしているかを紹介する。
多角的・総合的な診療で地域の脳卒中診療を支える
山形市立病院済生館は,1873(明治6)年に創立,時の太政大臣・三条実美により「済生館」と命名され,長年,地域医療の中核を担ってきた。高齢化が著しい山形県において高齢者の死亡・介護原因の1位である脳卒中に対応するため,2011年に脳卒中センターを開設。現在は,一次脳卒中センター(PSC)のコア施設として,機械的血栓回収療法を必要とする患者を常時受け入れている。
脳卒中センターの特徴について,副館長・脳卒中センター室長を務める脳神経外科の近藤 礼科長は,「脳卒中診療には病院を挙げて力を入れており,急性期治療には脳卒中専門医だけでなく,脳卒中の外科技術認定医あるいは脳血管内治療専門医,リハビリテーションの高い専門性を持つ医師が初期からかかわり,全身病である脳卒中を多角的・総合的に診療していることが特徴です。翌日からのリハビリ開始など,治療効果の向上,合併症減少に努めています」と説明する。
脳卒中関連疾患での年間入院患者数は約900名,手術は年間約400件と治療実績は県内1位で,特に脳梗塞においては全国で17位と高い治療実績を誇る。
低侵襲性とAI技術に期待を寄せSOMATOM X.citeを導入
同院の脳梗塞治療は,2010年に国内で血栓回収用デバイスが認可された当初から血栓回収療法を積極的に行い,MRIファーストの検査で,DWIとMR Perfusionで適応を決定してきた。その後,再開通までの時間短縮の有効性が明らかになったことから,2016年ごろから検査をCTファーストへと変更。当時のCTはPerfusion CT非対応だったため,臨床症状(NIHSS)とASPECTSを重視した適応判定を行ってきた。
CTが更新時期を迎え,脳卒中診療を支える装置として選ばれたのがシーメンスの「SOMATOM X.cite」だ。機種選定について中央放射線室の阿部康一技師は,「被ばくと造影剤,アーチファクトの低減を最も重視し,Perfusion CTができることも条件でした。また,近年は検査の多様化で技師の負担が非常に増えているため,画像処理や解析が容易になることを期待しました」と述べる。このニーズに対してSOMATOM X.citeは,X線管“Vectron”による低管電圧撮影や被ばく低減技術 “Tin filter technology”により,低被ばく撮影,造影剤低減が可能となっている点が合致した。加えて, AI技術を活用した全自動撮影技術も選定において高く評価された。SOMATOM X.citeは2021年2月より稼働し,脳卒中診療をはじめ月間700〜750件の検査を実施している。
高齢化する脳卒中診療に有用なPerfusion CTと低管電圧撮影
脳卒中の救急搬送を24時間受け入れる同院では,迅速に治療を行う体制を整えている。血栓回収療法適応例では,発症時間不明など一部症例を除き,CTファーストかつMRI検査をスキップすることでDoor to Punctureは約80分,血栓溶解療法(rt-PA)適応例はDoor to Needleが30分台となっている。
脳梗塞症例に対するCT検査は,治療前に頭部単純CT(ASPECTS解析),Perfusion CTによる血流評価,アクセスルート確認のための体幹部撮影を行い,治療後にはDual Energy CTで出血の除外診断を行っている。新たに可能になったPerfusion CTについては,低灌流領域(ペナンブラ)解析の検証を進めている。近藤科長は,「独居高齢などで発症時間不明や6時間経過している症例,梗塞範囲が大きいと思われる症例など,血栓回収療法の適応判断に迷うケースでは,これまではDWIとFLAIRや臨床症状のミスマッチで判定していましたが,Perfusion CTで脳血流を評価できれば治療適応の拡大に役立つと感じています。一方で,適応でない患者の見極めにも有効であり,より確実で安全な医療につながると思います」と期待を示す。また,Perfusion CTが自動解析できることの利点についても言及する。「医師が張り付いて操作する必要があれば,その間にrt-PAを開始した方がいいですし,技師が操作するにしても,全員が対応できなければ24時間受け入れている当院では活用が難しくなります。SOMATOM X.citeでは,患者をアンギオ室に移動する間に自動解析された結果が転送されるため,アンギオ室に着いてすぐに脳血流の状態やペナンブラを判定し,迅速に治療に取り掛かることができ非常に役立ちます」
また,クモ膜下出血の半数を占める75歳以上では,血管内治療をファーストチョイスにしているが,腎臓への負担軽減のため,治療時はコイルを留置する血管のみの造影ですむように,術前CTで少量の造影剤によるアクセスルート確認を行っている。近藤科長は,「造影剤は10mL,20mL減らせるだけでも腎臓の負担を低減できるので,高齢化が進む今の脳卒中治療において大きなメリットです。外来の経過観察で造影検査が必要な場合にもSOMATOM X.citeで検査するように周知しています」と述べる。このほか,血管の蛇行や狭窄がある症例,rt-PA禁忌の大動脈解離が疑われる症例では,3D-CTによる術前評価にも活用している。
AI技術で実現する最適な検査と業務効率向上
SOMATOM X.citeでの検査について,中央放射線室の松田善和技師長は,「被ばくや造影剤を低減したい検査や3D-CTを行う検査,Dual Energy CTを優先し,特に小児検査については,ほぼ全例で使用しています」と説明する。
診療放射線技師は21名で,夜間などはCTに不慣れな技師が操作することもある。また,近年は検査内容や撮影後の処理・解析が多様化し,業務負担が課題となっていた。これを解決する機能として期待されたのが,SOMATOM X.citeのAI技術を用いた全自動撮影だ。その一つ,検査ガイド機能“myExam Companion”の脳卒中領域での活用について,阿部技師は,「脳卒中診断用にルーチン検査用,梗塞疑い用,外傷用,治療後評価のためのDual Energy CTのプロトコルを設定しています。myExam Companionでは質問に回答するだけで最適な条件を設定でき,経験の浅い技師でも均一で質の高い画像を得ることができます」と説明する。また,“ALPHA(Automatic Landmarking and Parsing of Human Anatomy)Technology”により自動で画像再構成・解析処理が行われるため,撮影後すぐに3D処理に取り掛かれるなど一連の業務のスループット向上も実現している。
低侵襲な検査を追究し至適治療の実践に貢献
SOMATOM X.citeはAI技術で検査を賢くサポートし,以前と比べて約20%の線量低減や業務改善を実現している。松田技師長は「技師はAIを自覚することなく活用し,患者にも負担の少ない検査をスムーズに実施できています。今後も,線量や造影剤の低減をより追究したいと思います」と展望する。近藤科長が語る「精密な画像診断の下,高い技術で至適な治療を提供して,これからも県民の負託に応える」という同院の使命を, SOMATOM X.citeが支えていく。
(2021年6月10日取材)
myExam Companion Use Case
山形市立病院済生館▶脳卒中CT
検査目的別に撮影プロトコルを設定し画像情報を迅速に医師に提供
山形市立病院済生館では,脳卒中領域のmyExam Companionのプロトコルとして,診断用にルーチン検査用,梗塞疑い用,外傷用,治療後評価用にDual Energy CTのプロトコルを設定し,運用している。梗塞疑いではASPECTSが自動で計測され,外傷用では3方向のMPRが自動で作成されるようになっており,医師への迅速な情報提供を可能にしている。血管内治療後の出血のルールアウトのためのDual Energy CTでは,コイル留置の有無により金属アーチファクト低減技術“iMAR(iterative Metal Artifact Reduction)”の適用が選択されるようになっている。阿部技師は,「myExam Companionによりプロトコル設定を簡単に行えるとスタッフに好評です。プロトコル設定が容易になった分,その後のCTアンギオやPerfusion CTの検査業務に集中できるようになったと思います」と話す。
山形市立病院済生館
住所:山形県山形市七日町1-3-26
TEL:023-625-5555
URL:https://www.saiseikan.jp
病床数:528床
診療科目:31科