技術解説(フィリップス・ジャパン)

2022年3月号

腹部画像診断におけるMRIの技術の到達点

次世代Compressed SENSE“SmartSpeed”がもたらす腹部イメージングの新時代

権  池勲[(株)フィリップス・ジャパン MRクリニカルサイエンス]

腹部領域は,体厚が厚いことに加え体動が起こりやすく,良好なMR画像を得ることが難しい部位である。フィリップスは,“Compressed SENSE”の撮像フレームワークを発展させ,人工知能(AI)の統合や多様なサンプリング方法への対応を可能にした,次世代撮像高速化技術“SmartSpeed”を発表した(図1)。本稿では,SmartSpeedの技術を解説し,SmartSpeedがもたらす腹部イメージングの新しいソリューションについて解説する。

図1 SmartSpeedのプラットフォーム

図1 SmartSpeedのプラットフォーム

 

■Compressed SENSEとAIの融合

SmartSpeed AIは,Compressed SENSEをAIと融合した革新的技術である1)。“Deep Learning-based Compressed SENSE”とも呼ばれるこの手法では,従来のデノイズ工程をAIに置き換えたため,繰り返し再構成の過程で,データはAIによる処理を何度も経る2)。これにより,データの整合性を保ちつつ画像のノイズを段階的に低減する。SmartSpeed AIは腹部領域でも効果を発揮し,従来のCompressed SENSEでは困難だった超高倍速,高分解能での撮像が可能となった。

■Compressed SENSEの多様なサンプリングへの対応

SmartSpeedは,多様なサンプリングパターンへの対応も実現している。下記では,特に腹部領域でインパクトが大きいradialとecho planar imaging(以下,EPI)サンプリングへの対応として,“SmartSpeed MotionFree”と“SmartSpeed Diffusion”について解説する。
まず,SmartSpeed MotionFreeは,Compressed SENSEを“MultiVane XD”に対応させることで生まれたソリューションである。MultiVane XDは,radialサンプリングを用いた撮像方法で,動きの大きい患者の撮像に適しているものの,撮像時間が長くなるという課題があった。SmartSpeed MotionFreeは,従来のCartesian撮像と同等以下の撮像時間でありながら,Cartesian撮像と同様の見え方,質感,コントラストを実現するための改良を加えている。これにより,モーションアーチファクトやノイズが低減したシャープな画像が得られ,かつ矩形のFOVでより広い領域を表示することができるようになった。
次に,SmartSpeed Diffusionは,Compressed SENSE をEPIに対応させることで生まれたソリューションである。腹部の拡散強調画像(以下,DWI)では一般に磁化率アーチファクトが問題となる。しかし,SmartSpeed Diffusionでは,Compressed SENSEの繰り返しデノイズ工程により,倍速を高めて磁化率アーチファクトを抑えつつ,gファクターノイズを低減することができるようになった。これによって,DWI画像の歪み低減,高分解能化,高画質化が可能となる。図2に,SENSEとSmartSpeed Diffusionを用いた肝臓DWIの画像を示す。歪みを低減するために倍速を4まで上げると,SENSEではgファクターノイズの上昇に伴うバンドが画像中央部に現れる(図2 a)。一方,SmartSpeed Diffusionではノイズバンドが効果的に除去され,病変部の描出が改善している(図2 b)。

図2 SmartSpeed Diffusionの臨床応用例

図2 SmartSpeed Diffusionの臨床応用例
SENSE DWI(4倍速:a)とSmartSpeed Diffusion(CS 4倍速:b)で撮像された肝臓DWI画像。b=800,2mm×1mm×5mm,2分54秒で撮像。は病変を示す。

(画像ご提供:熊本大学病院様)

 

本稿では,SmartSpeedの技術を解説し,腹部領域の撮像にもたらしうるインパクトについて解説した。本法の今後の臨床応用に期待したい。

●参考文献
1) Pezzotti, N., et al. : An Adaptive Intelligence Algorithm for Undersampled Knee MRI Reconstruction. IEEE Access, 8(2020): 204825-204838, 2020.
2) Chen, Y., et al. : AI-based Reconstruction for Fast MRI─A Systematic Review and Meta-analysis. Proc. IEEE, 110.2(2022): 224-245, 2022.

 

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