技術解説(フィリップス・ジャパン)
2021年5月号
循環器領域における超音波診断装置の技術の到達点
自動化と3Dを用いた心臓超音波の技術革新
梅川 夕佳[(株)フィリップス・ジャパン プレシジョンダイアグノシス事業部]
フィリップスでは,2030年までに世界25億人の人々の生活を健やかにすることをビジョンに掲げ,ヘルスケアとデジタル技術を融合したヘルステックに注力し,製品開発を行っている。その中で超音波診断装置は,予防,診断,治療,そして在宅ケアというあらゆる医療の場面で重要な役割を担っている。
さらに,現在の心エコーを取り巻く環境は,“diagnosis(診断)”と“intervention(インターベンション治療)”という2つの領域でとらえることができる。
diagnosisのトピックスとして,抗がん剤治療関連心筋障害の診断を目的とした,global longitudinal strain(以下,GLS)のルーチン計測の必要性が挙げられる。また,2020年に入り,新型コロナウイルス感染症がまん延すると,急性期における心エコー診断の重要性も示唆された。ただでさえ忙しい検査室に,次々と新しい課題が課せられ負荷がかかるという問題点から,ルーチン検査をサポートする簡単で再現性の高いツールが求められている。
一方で,interventionにおいては,治療デバイスの発展により,迅速で正確なエコーガイドが高いレベルで求められるようになってきた。今後もデバイスが多様化し,治療件数が増加することが予想されているため,経食道心エコー検査のニーズも高まっていくものと考えられる。
本稿では,diagnosisをサポートする自動解析ソフトウエアと,interventionをサポートする3D技術を紹介したい。
■Anatomical Intelligenceを用いた解析ソフトウエア
1.HeartModelA.I.
フィリップスでは,解剖学的知識であるAnatomical Intelligence(以下,A.I.)を使用したソフトウエアの開発を行い,超音波診断装置に搭載している。初めてリリースされたA.I.搭載解析ソフトウエアは,2015年に販売開始した“HeartModelA.I.”である(図1)。HeartModelA.I.では,さまざまな心臓の形状や大きさを含んだ約1000例以上の3Dエコー画像をデータベース化し,ナレッジベースに基づき左室と左房の容積を算出する。従来のシンプソン法を用いた2Dでの計測と比較して,1ボタンのシンプル操作で高精度な定量評価が可能となり,検者の習熟度に依存しない,短時間での心機能評価を可能にした。
2.3D Auto RV
“3D Auto RV”は,マシンラーニングの技術を用いて,3Dデータから右室容積を自動で算出するソフトウエアである(図2)。解剖学的に複雑な右室の構造を,3Dで15秒以内に実行することが可能だ。3D Auto RVの実行可能性に関する文献では,32%が全自動で解析可能,残りの68%についても最小限の修正で解析ができたとしている1)。同文献では,cardiac MRIとの相関も高いと報告されており,従来の3Dエコーによる右室容積の算出が非常に煩雑で再現性に乏しいものであったことを考えると,今後はルーチン検査で右室容積の評価が容易となることが期待される。
3.AutoStrain LV/LA/RV
スペックルトラッキング解析ソフトウエアである“AutoStrain”は,左室(図3),左房,右室の3種がリリースされており,それぞれのストレイン値を1ボタンで算出することができる。これを可能としたのは,下記2種類の自動化アルゴリズムである。
1)自動で断面を認識
AutoStrainでは,選択された画像の四腔像,二腔像,三腔像など,断層像の分類を自動で行う。6000例のデータに基づいて開発されたこのアルゴリズムは成功率99%を誇り,解析時間の大幅な短縮をもたらす。
2)自動でROIを設定
左室,左房,右室に特化したテンプレートを用いて自動でROIが設定される。装置が自動で設定したROIは,簡便に編集することもできる。
従来のスペックルトラッキング解析は,検者が各断面の画像を選択し,マニュアルでROIを設定するなど時間がかかっていたため,検査時間外で解析を行ったり,せっかく解析をしても再現性が低いなどの問題があった。AutoStrainは,解析時間を短縮し,かつ装置上で解析できるので,ルーチン検査内でスペックルトラッキング解析を取り入れることを実現する。
■新たな3Dレンダリング技術
1.TrueVue
“TrueVue”は,フォトリアリスティックな画像を追求した新たな3Dレンダリングの手法である。3Dボリュームデータ上で光源を操作することができるため,陰影のつけ方によって関心のある領域を強調して表現することが可能だ。さらに,TrueVueは,カラードプラ情報にも光源による陰影をつけることができるため,逆流ジェットの吹き出し位置の確認が,従来の3Dレンダリングと比較してより明瞭に描出される(図4 a)。
2.TrueVue Glass
“TrueVue Glass”は,組織と心腔との境界面のみを抜き出し,透明度を持たせて表示するモードである。例えば,左心耳の境界面を抜き出し,その周囲の組織は透過させることで,左心耳の形態を造影CTで取得した画像のように描出し,形態を分類することができる(図5)。さらに,TrueVue Glassにもカラードプラ情報を表示することができ,逆流の吹き出し口からジェットの吹く方向まで一度に確認することも可能だ(図4 b)。TrueVue Glassにカラードプラを併用することで,経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)後の弁周囲逆流をリアルタイムで明瞭に観察可能であったとの報告もあり2),今後の有用性が期待される。
■血管撮影装置とのフュージョン技術“EchoNavigator”
2020年2月,フィリップスではインターベンションに特化した超音波診断装置「EPIQ CVxi」をリリースした。EPIQ CVxiでは,超音波診断装置とアンギオ血管撮影装置とのオーバーレイ表示を行うフュージョン機能EchoNavigatorをEPIQ CVxiの装置上で操作できるようになっている。この機能により,エコー医とカテーテル医のコミュニケーションを深め,診断精度や治療効率を向上することが期待される。
最新のEchoNavigatorでは,A.I.を用いた心臓3Dモデル機能が搭載された。3Dエコーのデータを基に自動で心構造をセグメンテーションし,その3Dモデルを血管撮影画像上にオーバーレイする。これにより心室・心房および弁や左心耳など,血管撮影画像では確認することが難しい動的組織モデルとデバイスとの位置関係を,把握しやすくなる(図6)。これらの画像のオーバーレイはリアルタイムで行うことができ,デバイスが目的の位置に存在するか,カテーテルの先端による心臓壁穿孔のリスクがないかなど,より明瞭に視覚化することが可能となった。特に,複雑な手技が求められる症例において,安全性を高められることが期待される。
◎
フィリップスでは,今後も循環器領域を取り巻く多様なニーズに応じた技術により,医療に貢献していきたいと考えている。
●参考文献
1) Genovese, D., Rashedi, N., Weinert, L., et al. : Machine Learning-Based Three-Dimensional Echocardiographic Quantification of Right Ventricular Size and Function : Validation Against Cardiac Magnetic Resonance. J. Am. Soc. Echocardiogr., 32(8): 969-977, 2019.
2) Izumo, M., Okuyama, K., Akashi, Y.J. : A Novel 3-Dimensional Echocardiographic Transillumination Rendering With Transparency in the Evaluation of Paravalvular Leak After Transcatheter Aortic Valve Implantation. Circ. J., 85(3): 317, 2021.
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