技術解説(フィリップス・ジャパン)

2021年5月号

循環器領域におけるMRIの技術の到達点

Precision medicine時代に活きるフィリップスの心臓MRI最新技術

濱野  裕*1/勝又 康友*1/米山 正己*2/長村 晶生*1/松本 光代*1/並木  隆*1 *1 [(株)フィリップス・ジャパン MRクリニカルサポートスペシャリスト *2 (株)フィリップス・ジャパン MR クリニカルサイエンティスト]

心臓MRIは,形態評価や機能評価を同時に行うことができ,高い空間分解能やコントラスト分解能を兼ね備えたモダリティとして臨床で広く活躍している。また,心臓MRIの技術開発は日進月歩であり,日々多くの技術が開発され臨床で使用されている。本稿では,フィリップスの心臓MRIにおける最新技術や定量画像を取得する際の新しいアプローチ,ならびに解析ワークステーションに搭載された最新ソフトウエアについて解説する。

■‌3.0Tにおけるwhole heart coronary MRAのブレイクスルー

1.5Tのwhole heart coronary MRA(以下,WHCA)の撮像には,SSFP法が第一選択とされるが,3.0Tでは磁場不均一により発生するバンディングアーチファクトの観点からSSFP法は用いられず,turbo field echo(以下,TFE)法が選択されてきた。TFE法はSSFP法と比較してSNRが低く,血液のコントラストも低いため,WHCAの撮像においては1.5Tの方が有利な場合が多かった。フィリップスが開発した“3D Non selective”は,3Dグラディエントエコー系の撮像法において,スライス選択傾斜磁場を印加せずにブロックパルスを用いて励起することで,TR,TEを最大30%程度短縮することが可能な技術である。この3D Non selectiveを応用することで,3.0TにおいてもSSFP法でのアーチファクトの出現を抑えることができ,3.0TにおけるWHCAの大幅な画質向上が期待できる。また,“Compressed SENSE”は,従来の高速化技術であるパラレルイメージングと圧縮センシング技術を融合した新しい高速撮像法であり,心臓領域に関してはシネやブラックブラッドのような2D撮像に加え,心筋パーフュージョンや遅延造影などに幅広く応用可能である。特に,WHCAの撮像に用いられる3Dシーケンスでは,データ量の観点から撮像時間短縮の恩恵が大きい。これらにより,3.0TにおけるWHCAの大幅な画質の向上とともに撮像時間の短縮も両立することが可能となり,新たなブレイクスルーとして期待される(図1)。

図1 3.0TにおけるSSFP法を用いたWHCA(画像ご提供:東京警察病院様)

図1 3.0TにおけるSSFP法を用いたWHCA(画像ご提供:東京警察病院様)

 

■‌“Retrospective EPI”を用いた4D flow MRI

4D flow MRIは,4Dでの血管内・心腔内の血流状態を視覚化および定量評価が可能な撮像であり,その有用性が多くの施設から報告されている。しかし,一般的な胸部大動脈用の4D flow MRIの撮像時間は10分前後であり,その長さがネックとなり,ルーチン検査へ取り入れることは困難であった。Retrospective EPIは,4D flow MRIにおける高速撮像技術として応用可能である。この技術は,4D flow MRIのベースとなるマルチフェーズのTFE法に,EPIのリードアウトを組み合わせることで高速化を実現した技術であり,“SENSE”と組み合わせることで最大9〜12倍程度の高速化を実現する。また,4D flow MRIでは,目的の症例や部位に合わせたvelocity encoding(以下,VENC)の選択が非常に重要になるが,この大幅な撮像時間の短縮によって,複数VENCの4D flow MRIの撮像をルーチンの検査時間内に行うことが可能となり,今後多くの臨床応用が期待できる(図2)。

図2 Retrospective EPIを併用した4D flow画像 高時間分解能,高空間分解能で撮像しているが,EPI factorを5と設定することで2分24秒と短時間での撮像が可能。(20phase撮像したうちの10phaseのみを表示) (画像ご提供:北海道大学病院様)

図2 Retrospective EPIを併用した4D flow画像
高時間分解能,高空間分解能で撮像しているが,EPI factorを5と設定することで2分24秒と短時間での撮像が可能。(20phase撮像したうちの10phaseのみを表示)
(画像ご提供:北海道大学病院様)

 

■Motion Sensitiveシネイメージング

近年,心臓MRIにおける定量マップの有用性が多く報告されており,これらをルーチンとして撮像する施設は少なくない。しかし,心筋定量マップは複数心拍のデータから作成するため,心周期の選択は重要となる。一般的には,装置デフォルトのトリガーディレイで撮像する場合が多いが,デフォルトの設定では画質を担保できない場合もある。“Motion Sensitive(以下,MoSe)シネイメージング”は,そのような際に最適なトリガーディレイの決定に役立つ新しい撮像シーケンスとして開発された。MoSeシネイメージングは,T2 fast field echo(以下,FFE)をベースとしたシネ撮像で,心拍動の影響が少ない時相のみで心筋が描出されるユニークな技術である。T2 FFEは動きの影響を鋭敏に受けるが,その特徴を逆手にとると,収縮期や拡張期の心筋が停止しているタイミングを明瞭に可視化することができる(図3 a)。このMoSeシネイメージングを使用し,患者ごとに最適なトリガーディレイを選択することで,定量画像のロバスト性を向上させることができる。さらには心筋のintravoxel incoherent motion(IVIM)やdiffusion tensor imaging(以下,DTI)などのアドバンスドな撮像においても重要な役割を担うことができ,まさにprecision medicine時代のための新しい技術として期待される(図3 b,c)。

図3 MoSeシネイメージングとその応用例

図3 MoSeシネイメージングとその応用例
a:心臓のMoSeシネイメージング
b:装置デフォルトのトリガーディレイ(Td)を用いたT1map((1))と比較して,MoSeシネイメージングを用いてトリガーディレイを設定したT1map((2))の方が信頼できるエリアが広い。
(参考文献1)より引用転載)
c:MoSeシネイメージングを用いて最適なトリガーディレイで撮像された32軸 DTIのFA map((1))およびADC map((2))

 

■‌「IntelliSpace Portal」最新解析ソフトウエア

心臓MRIにおけるpost processingの重要性は高く,その種類も多岐にわたるため,オペレータの負担の増加が課題となっている。フィリップスは,IntelliSpace Portal(以下,ISP)の最新ソフトウエアV12から,人工知能(AI)技術を応用した心筋オートトレース機能を搭載した。AI技術を用いたオートトレース機能では,拡張末期/収縮末期の自動検出に加え,心基部や心尖部のトレースも高精度に行える。左室(LV)に加え,右室(RV)のオートトレースも可能で,20秒程度で完了し,ejection fractionやstroke volumeなどの算出が自動で行える。
また,新たな解析ソフトウエアとして,心筋ストレイン解析と4D flow MRI解析が搭載された。ストレインとは物体が変形した際の単位寸法あたりの歪みであり,心周期中の短縮,肥厚,延長などの心筋の壁運動を定量化する手法として注目されている。ISPのストレイン解析では,feature tracking法を採用しており,ルーチンで撮像されているシネ画像からの解析が可能なため,特殊な追加撮像は必要とせず,長軸方向,円周方向,短軸方向のそれぞれのストレインが解析可能である。
4D flow MRIの解析ソフトウエアでは,大動脈用にデザインされた“4D flow Artery”と,心腔内の大動脈弁,僧帽弁,三尖弁,肺動脈弁の4つの弁解析用にデザインされた“4D flow Heart”の2つの機能を搭載する。これまで煩雑でオペレータの熟練が必要とされてきた4D flow MRIの解析だが,これらのソフトウエアでは,ガイダンスに従って画像,血管,弁のランドマークなどを選択するのみで解析できるため,簡便でオペレータに依存しない解析結果が期待できる。また,4D flow Heartでは,バルブトラッキング技術を搭載しており,心周期内での弁の位置のトラッキング機能により,精度の高い流速解析および逆流率の計測が可能となった(図4)。

図4 ‌ISPによる4D flow MRIの解析画面

図4 ‌ISPによる4D flow MRIの解析画面

 

フィリップスの心臓MRIにおける最新技術として,3D Non selectiveやRetrospective EPI,MoSeシネイメージングを中心に解説した。これらの新しい撮像技術や解析ソフトウエアの登場が臨床画像のロバスト性の向上やワークフローの改善を実現し,さらなる臨床的価値の高い情報を提供するための一助となることを期待する。

●参考文献
1) Shiina, I., et al. : Motion-Sensitive(MoSe)CINE imaging : utility for improving robustness of myocardial quantitative mapping. 28th Annual Meeting of ISMRM, 2053, 2020.

 

●問い合わせ先
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