技術解説(フィリップス・ジャパン)
2020年5月号
腹部領域における核医学技術の最新動向
「Vereos Digital PET/CT」の技術解説─小病変検出を支える高分解能再構成技術
朝戸 呂仁[(株)フィリップス・ジャパン プレシジョンダイアグノシス事業部AMIクリニカルサイエンティスト]
近年,シンチレータ光を電気信号に変換・検出する光電子増倍管(photo-multiplier:PMT)を,半導体検出器(silicon photo-multiplier:SiPM)に置き換えたPET/CT装置が普及し始めている。
フィリップスは,このSiPMにdigital photon counting(以下,DPC)技術を組み込んだ“digital silicon photo-multiplier(以下,D-SiPM)”を開発した。フィリップスが販売する「Vereos Digital PET/CT(以下,Vereos)」は,D-SiPMとシンチレータを1対1で組み合わせた(1:1 カップリング)検出器を搭載したフルデジタルPET/CT装置である。検出した光子のカウントをリストモードで保存し,従来の4mmボクセルに加え,2mm,さらには1mmの高分解能画像再構成を可能とした。
分解能向上は,各臨床領域における小病変検出などの有用性も報告されている。本稿では,Vereosに搭載されている技術を解説するとともに,小病変検出における応用例を紹介する。
●DPCと1:1 カップリングの相乗効果
DPC技術では,1つのクリスタル4×4mm2あたりが3200個のマイクロセルで構成されており,シンチレータ光を受信したマイクロセルのパルスをカウントすることで,DPCを実現している(図1)。その後,タイムスタンプ情報と位置情報はデジタル値として読み出し,回路やA/D変換を介さず直接出力することで,電気的ノイズの回避と処理速度の高速化を実現している1)。
従来,PET装置では,クリスタル1つにつき複数の検出器で信号を検出し,重心演算によりイベント位置を特定するAnger-Logic方式が採用されてきたが,Vereosでは1:1カップリングにより重心演算を不要としている(図2)。結果として,処理速度の高速化と,位置特定のコーディングエラーを低減し,優れた空間分解能と均一性を達成した。
Vereosは,DPCと1:1カップリングで獲得した処理の高速化は計数率直線性を向上させ,高い放射能濃度における定量精度の改善をも可能とした。加えて,time-of-flight(TOF)の時間分解能が310ピコ秒まで短縮されたことで,実効感度の改善が期待できる。
●高分解能画像再構成(1mm/2mmボクセル)のメカニズム
PET装置において,検出器で蓄積するrawデータからPET画像を再構成する過程は,メーカーや装置により異なる。一般的には,大量のrawデータをbinningし,データ量を抑制することで再構成にかかる処理時間の低減を図っている。しかし,binningによる情報の損失は避けられない。また,臨床用の再構成アルゴリズムの多くは,統計的ノイズを低減し処理の高速化を図るため,ordered subset expectation maximization(以下,OSEM)法に基づく手法を使用している。
OSEM法では,入力データから直接ボクセルでPET画像を再構成するものがあり,量子化による画像ノイズを低減するため,Gaussianなどの平滑化フィルタを施している。しかしこの場合,フィルタ処理によりpartial volume effect(PVE)が発生し,小病変がPET画像に表示されない可能性がある。さらに,ボクセルサイズによるtissue fraction effect(以下,TFE)が避けられない問題であり,ボクセルサイズが大きければその影響も大きくなる。一方で,ボクセルサイズを小さくすればTFEの影響は抑制できるが,画像はノイズの影響を受けやすい。
Vereosは,入力データに含まれる情報を忠実に利用するため,binningやsinogram化を行わず,リストモードデータから直接OSEM法に基づく再構成を行っている。加えて,OSEM法の各iterationの出力を,ボクセルではなく球対称体積要素(Blob)で行う(図3)。Blobは,ボクセルと異なり3つの特徴を有する。
(1) 同一Blob内の値は一定ではなく,中心から周辺に徐々に減少する。
(2) Blobの数とサイズは独立に設定ができる。
(3) Blob間のオーバーラップが可能である。
PET画像は,OSEM法の最終iteration結果をボクセル化して出力するため,Blobを介しボクセル化することで,直接ボクセル化する手法と比べ,ノイズの抑制と分解能を妥協することなく再構成できる2)。Blobの導入により処理時間は延長するが,継続的なスペクトル表現とBlob間のオーバーラップにより,再構成時に画像の特徴維持とノイズ抑制を同時に行うことができる。
この効果は,Blob内値の分布,BlobサイズとBlob間の距離の3つのBlobパラメータにより決定され,処理時間とのトレードオフになる。また,最終段階のボクセルサイズに合わせてこれらのパラメータをチューニングすることで,2mmや1mmボクセルサイズの場合でもノイズを抑制し,高分解能再構成が実現できる。さらに,Blobに基づく再構成により,isotropic解像度が可能となった。 トレードオフとして,処理時間の延長が懸念されるが,処理時間はアルゴリズム実装の高速化とGPU利用により現実的な範囲に抑えている。
●小病変検出へ応用
各臨床領域において,Vereosの小病変検出における有用性が報告されている。
Nguyenらは,従来のPMTベースのPET/CT装置である「Gemini TF」と比較し,小病変と正常部のコントラストについて定性/定量評価を行い,病変検出と診断精度(ステージングの変更)に有用と報告している3)。
Fuentes-Ocampoらは,バックグラウンドコントラストにバラツキがある腹部領域の肝臓においても,多くの10mm未満の肝臓がんの病変がGemini TFで検出されず,Vereosのみで検出されると報告している4)。
これらの成績は空間分解能の向上がもたらす効果と考えられ,Rauschらの報告でも,中心から周辺への空間分解能の変化は,従来装置と比較してVereos の場合の方が低いとしている5)。これにより,腹部領域において,近い将来の臨床応用が待たれる新規PET製剤の分野(図4)への大きな貢献も期待される。
●参考文献
1) Zhang, J., Maniawski, P., Knopp, M.V. : Performance evaluation of the next generation solid-state digital photon counting PET/CT system. EJNMMI Res., 8 : 97, 2018.
2) Matej, S., Lewitt, R.M. : Practical considerations for 3-D image reconstruction using spherically symmetric volume elements. IEEE Trans. Med. Imaging, 15 : 68-78, 1996.
3) Nguyen, N.C., Vercher-Conejero, J.L., Sattar, A., et al. : Image Quality and Diagnostic Performance of a Digital PET Prototype in Patients with Oncologic Diseases : Initial Experience and Comparison with Analog PET. J. Nucl. Med., 56 : 1378-1385, 2015.
4) Fuentes-Ocampo, F., López-Mora, D.A., Flotats, A., et al. : Digital PET/CT Improves the Detection of Liver Lesions in Cancer Patients. European Association of Nuclear Medicine 2019.
https://posterng.netkey.at/eanm/viewing/index.php?module=viewing_poster&task=6pi=4061&searchkey=678cf2a60ebeb7eae689a44f02a859d3
5) Rausch, I., Ruiz, A., Valverde-Pascual, I., et al. : Performance Evaluation of the Vereos PET/CT System According to the NEMA NU2-2012 Standard. J. Nucl. Med., 60 : 561-567, 2019.
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