技術解説(フィリップス・ジャパン)

2017年4月号

Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

Dual energy CTの課題を解決!─「IQonスペクトラルCT」が実現する理想的なスペクトラルイメージング

吉村 重哉(DIマーケティンググループ CTモダリティースペシャリスト)

2016年4月,フィリップスエレクトロニクスジャパンは世界初となる2層検出器を搭載し,従来のdual energy CTのさらに先を行く「IQonスペクトラルCT」の販売を開始した(図1)。
このCTは“Spectral is Always On”というコンセプトの下,今までのルーチン検査を変えることなく,すべての検査においてスペクトラルイメージングの取得が可能となる,唯一のspectral CTである。
dual energy検査は,CT検査の新たな可能性として期待が高まっており,各メーカーからdual energy検査に対応したCT装置が販売され,その有用性についてさまざまな報告がされている。一方で,臨床応用が当初の期待どおりには広がりを見ない状況が続いている。その課題としては,従来の検査で必ず得られていた120kVpの診断用画像が同時に取得できないこと,仮想単色X線画像の画質の問題,dual energy検査の実施は撮影前に判断が必要で,通常検査では撮影後にdual energy解析を追加することができないことなどが挙げられる。これら従来のdual energy CTでの課題を,2層検出器を搭載したIQonスペクトラルCTではすべて解決しており,すべての検査で120kVpルーチン撮影とスペクトラルイメージングを両立させ,ミスレジストレーションのないエネルギー取得が可能なIQonスペクトラルCTは,スペクトラルイメージングの新たなイノベーションを実現する。

図1 IQonスペクトラルCT

図1 IQonスペクトラルCT

 

■NanoPanel Prism:2層検出器

すべての検査でスペクトラルイメージングを可能とするIQonスペクトラルCTにおいて,最も重要となる技術が「NanoPanel Prism」と呼ばれる2層検出器である(図2)。NanoPanel Prismは,シンチレータを2層構造として,極薄のフォトダイオードをシンチレータの側面に配置し,信号伝達系にアナログ回路を使用しない従来のデジタル検出器を昇華させたデジタル2層検出器である。シンチレータ上層には,光電効果の影響を十分に得られる低エネルギー取得に適したYttriumをベースとした素材を使用,下層にはGOS+素材を使用して高エネルギー領域を収集し仕分けをする。この構造により,従来よりシンチレータの発光効率は25%上昇し,極薄のフォトダイオードを囲うタングステングリッドの影響で,クロストークは30%低減を実現した。収集された2つのエネルギーには時間的なズレ,空間的なズレが一切ないのがNanoPanel Prismの大きな特長であり,臨床機としては初のミスレジストレーションのないスペクトラルイメージングが可能となった。IQonスペクトラルCTでは,従来方式の2つのエネルギーソースにより撮影を行うdual energy CTでの課題を解決し,検出器で1つの連続X線エネルギーを分光して異なるエネルギーを収集,事前にdual energy 撮影を必要としない,レトロスペクティブなスペクトラルイメージングの施行が可能となった。

図2 NanoPanel Prism:2層検出器

図2 NanoPanel Prism:2層検出器

 

■Spectral Based Image:SBI(図3)

IQonスペクトラルCTは,逐次近似応用再構成法“iDose4”やシステムモデル逐次近似再構成法“IMR Platinum”とは別に,スペクトラルイメージング専用の再構成法である“Spectral Reconstruction”が追加されている。Spectral Reconstructionは,8段階のノイズ低減レベルを有し,条件に応じたノイズ低減が可能である。スペクトラルイメージングは,分光した2種類のプロジェクションデータをSpectral Reconstructionを行うことにより,「Spectral Based Image(SBI)」を作成することによって可能となる。SBIは,2種類のプロジェクションデータに対し不正な信号の補正を行った後,光電効果とコンプトン散乱の領域に分け画像再構成を行い,それぞれの画像に各種キャリブレーションを施した後,Spectral Reconstructionによって作成される。この際生じるノイズ(anti-correlated noise)は,仮想単色X線画像のノイズを増加させ,画像診断時の障害となる。これを,Spectral Reconstructionによりanti-correlated noiseを除去し画質を安定させ,従来と同一のプロトコール(同一線量)でも日常臨床で使えるスペクトラルイメージングを可能とした。作成されたSBIからは,仮想単色X線画像,ヨード密度画像,実効原子番号画像などの,さまざまな情報を持ったスペクトラルイメージングが取得可能である。

図3 Spectral Based Image(SBI)

図3 Spectral Based Image(SBI)

 

■心臓撮影画像への応用

スペクトラルイメージングの1つである仮想単色X線画像は,単一エネルギーで得られる画像を仮想的に表現した画像である。従来のdual energy CTでは,仮想単色X線画像におけるkeV(エネルギー)の違いによるノイズ増加が課題であったが,IQonスペクトラルCTでは,40〜200keVまで一定のノイズレベルで,1keVごとに連続的に表現可能である。これにより,造影効果の増強を目的とした低keV画像での画質向上や,金属や骨からのビームハードニングの影響を抑える高keV画像での画質向上が図られる。造影効果の増強を目的とした低keV画像を用いることにより,従来では造影剤が使用できない,期待どおりの造影効果を得られないといった高齢で腎機能障害のある患者であっても,非常に少ない造影剤使用量で撮影可能となった(図4)。
逐次近似応用再構成法iDose4と仮想単色X線画像の55keVを比較しても,55keVの画像は造影効果が増強し(CT値の上昇),コントラストが最適化され,さらにSDも改善された画質となっており,少ない造影剤使用量で従来のCT画像から大幅に改善した画像で診断が可能である(図5)。

図4 85歳,eGFR=46.1,造影剤使用量:19mL (画像ご提供:熊本中央病院様)

図4 85歳,eGFR=46.1,造影剤使用量:19mL
(画像ご提供:熊本中央病院様)

 

図5 同一患者のiDose4と55keV画像の比較 (画像ご提供:熊本中央病院様)

図5 同一患者のiDose4と55keV画像の比較
(画像ご提供:熊本中央病院様)

 

世界初の2層検出器を搭載したIQonスペクトラルCTは,従来のdual energy CTの課題を克服するさまざまなテクノロジーを搭載した革命的なCTである。すべての検査において,後からスペクトラルイメージングを追加できる簡便性は,研究の分野だけでなく実臨床においても大きなアドバンテージとして,CT検査に大いに貢献すると考える。

 

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