技術解説(フィリップス・ジャパン)
2016年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
フィリップスのフュージョン技術“Image Fusion”について─“Auto Registration”を中心に
水口しのぶ(超音波診断装置ビジネスグループ アプリケーションスペシャリスト)
超音波検査は簡便かつリアルタイム性の高さなどから,腹部領域をはじめとするさまざまな領域で活用されている。さらには,放射線被ばくがなく苦痛も少ないことから,臨床現場において必要不可欠な検査の一つとなっている。しかし,超音波検査は,患者の状態に依存することや客観性に乏しいという弱点もあり,診断に苦慮する症例も少なくない。
CTやMRIなどほかのモダリティの画像を超音波装置に読み込み,超音波画像と同期させるフュージョン機能は,上記のような問題点を解決する有用な方法である。
■フュージョン機能の有用性
複数病変の場合,ターゲットとする病変を同定することはほかのモダリティでは容易であるが,超音波画像のみでは同定に苦慮することがあった。また,腸管からのガスの影響やアーチファクトなどがある場合,繰り返し局所治療を行った場合など,Bモードだけでは病変の描出が困難なことがある。
フュージョン機能では,ほかのモダリティ画像をリファレンスとすることができるため,上記のような問題点を解決し,より客観性の高い超音波検査が可能となる。
■従来のフュージョン機能の問題点
このように有用性の高いフュージョン機能であるが,問題点も少なくない。ほかのモダリティ画像と超音波画像を同期させる手順が煩雑であり,多くの時間を要する。さらに,術者の経験にも依存し,良好な同期を得ることは容易ではなかった。また,煩雑な手順で同期した後も,患者の体動やフィールドジェネレータ(磁場を発生させる装置)の移動によりズレが生じてしまい,同期をやり直す必要があった。これは患者,術者双方に対して多大な労力を有し,臨床的に非常に有用な機能であるにもかかわらず,その機能を最大限に活用することを困難にしていた。
これらの問題を解決した新しい機能が“Image Fusion”に搭載される“Auto Registration”である。
■Image Fusion─Auto Registration─の原理と手順
これまでのフュージョン機能は超音波の性質上,軸同期もしくは断面同期による二次元情報に基づくものであった。この設定方法は,ある断面で位置合わせを行うと,その断面では一致しているが異なる断面ではズレが生じた。そのズレを修正すると,また別の断面でズレが生じるという繰り返しであり,従来の同期方法では精度に限界があった(図1)。
フィリップス社製超音波診断装置 「EPIQ」シリーズに搭載されている新技術Image FusionによるAuto Registrationは,三次元情報に基づいて位置合わせを行う同期方法である。このため,ある断面だけの一致ではなく,ボリュームデータでの位置合わせを行うことで,より正確な同期画像が得られる(図2)。また,Auto Registrationは正確性が高いだけでなく,手順が簡便であることも大きな利点である。手順は下記のとおりである。
1.超音波画像データの取得
特定の断面描出は必要ではないが,安定してデータが取得できる肋間操作が多く用いられる。できるだけ多くの肝臓の情報を取得するように3Dデータを取得する。3Dデータの取得には,通常のコンベックスプローブではスイープスキャンを用いる。また,腹部用3Dマトリクスプローブ「X6-1」を用いることにより,ワンボタンで3Dデータ取得が可能である。この方法は,術者の技量に左右されることなく,より安定したデータ取得が可能である。
2.Registrationボタンをタッチ
読み込みずみのCTのボリュームデータと超音波ボリュームデータを自動で一致させる。この位置合わせは,1分以内という短時間での自動位置合わせを可能としている。
■Auto Registrationの種類
Auto Registrationは2種類の方法があり,最適なモードの選択が可能である。
1.Vessel-based
肝臓の血管走行像による自動位置合わせ方式(指紋認証のアルゴリズムを応用した手法)である。造影CTのボリュームデータと超音波のボリュームデータより,それぞれ肝臓の血管走行像を自動抽出。抽出されたデータ(血管の走行像)を3Dデータ上で一致させ,自動的にフュージョンを行う(図3 a)。
2.Surface-based
肝表面の形状による自動位置合わせ方式(顔認証のアルゴリズムを用いた手法)である。造影・非造影にかかわらず,CTのボリュームデータと超音波のボリュームデータより肝表面の情報を自動抽出する。抽出されたデータ(肝表面の形状)を3Dデータ上で一致させ,自動的にフュージョンを行う(図3 b)。
■その他のImage Fusionの機能
1.Patient Tracker
Image Fusionでは“Patient Tracker”(患者センサ)を有しているため,患者の位置情報を認識することができる。それにより,位置合わせ終了後に,患者の体動やフィールドジェネレータが動くことによりズレが生じた場合も,再度位置合わせを行うことなく検査を続行できる。
また,患者へあらかじめPatient Trackerを装着しCTを撮影することが可能であれば,Patient Trackerの位置情報がそのまま超音波診断装置で得られるため,位置合わせの手順を省いて,フュージョン機能を行うことが可能である(CT撮影時と同じ位置にPatient Trackerを装着することが必要)。これにより,同期性の高いフュージョンを行うことができる。肝臓だけでなく幅広い部位でのフュージョンの応用が期待される。
◎
Auto Registrationは,今後のフュージョン検査に新たな可能性を見いだす画期的な機能である。Auto Registrationで3Dボリュームデータを用いる位置合わせを行うことによって正確性を向上させ,さらには従来のフュージョン機能の問題点であった煩雑さと術者依存を解消しうる画期的な機能である。
Auto Registrationは,より確実な検査・治療を行うための技術であり,今後の臨床に大きなメリットとなると考えられる。
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