X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)
第5回X線動態画像セミナー[2023年10月号]
第3部 臨床報告
当院における手関節X線動態撮影法
佐藤恵梨子/大川剛史(藤枝市立総合病院診療技術部放射線科)
当院では,手関節不安定症や尺骨突き上げ症候群などの手関節痛患者に対するルーチン検査としてX線動態撮影を施行している。X線動態撮影は透視検査と比べ,予約管理をしやすく当日オーダにも即時対応可能で,PACSでも画像(動画)を参照できるといったメリットがある。本講演では,当院における手関節X線動態撮影の撮影法や撮影条件について紹介する。
撮影におけるポイント
1.患者への説明
患者に対しては,一般撮影検査とは異なり手を動かす様子を撮影する動画の撮影であること,グリップ位で橈屈尺屈運動をすること,手を強く握り,ゆっくり手首のみ動かすことを説明する。事前に検査内容を理解してもらい,協力を得ることが重要である。
2.ポジショニング(図1)
当院は立位台でのみ動態撮影が可能である。ポジショニングでは,手はグリップ位として,肘から前腕は水平かつFPDに対して平行にする。肘は90°屈曲で手台に置いて固定し,橈屈・尺屈時に手が回旋しないように注意する。ポジショニング不良であると関節の動きを正しく評価できず,誤診断につながる恐れがあるため,正しくポジショニングすることが重要である。
また,グリッドを付けたままではノイズの多い画像となってしまうため,検討の結果,当院ではグリッドなしでの撮影を採用している。そのため,立位台で撮影する場合にはグリッドの外し忘れに注意する。
3.撮影の流れ(図2)
検査では,患者に症状を詳しく確認してからポジショニングを行う。照射野と中心点を確認した上で,橈屈尺屈運動の説明をして患者に実際の動きを練習してもらい,動きに問題がないことを確認する。口頭説明だけでは正しく動かせないことが多いため,事前に必ず動きを確認する。撮影ではオートボイスを使用せず,技師の声かけで検査を行っている。
4.PACS転送
撮影した画像は,通常の手関節単純X線画像に合わせて六切サイズにしてPACSに転送している。
撮影条件の検討
手関節X線動態撮影の撮影条件について,メーカーのデフォルト条件(管電圧:50kV,管電流:80mA,撮影時間:4ms,fps:15,グリッドなし,SID:120cm)で適正か検討を行った。検討では,手関節単純X線撮影をリファレンスとして,被ばく線量(入射表面線量)と画質(IQFinv.,CNR)を評価した。撮影条件は,X線動態撮影が管電圧:50kV,管電流:80mA,撮影時間:4/2/1.6/1ms,単純X線撮影が管電圧:50kV,管電流:50mA,撮影時間:40msとし,それぞれ測定・解析を行った。
その結果,X線動態撮影の表面入射線量は,デフォルト撮影時間4msで最大20秒間の動態撮影を行うと2mGyとなり,単純X線撮影における0.04mGy(当院実測値)の50倍の被ばく線量となった。
IQFinv.(値が大きいほど視認性が高い)は,リファレンスが3.64と最も高い値を示し,X線動態撮影条件はいずれもリファレンスより低かった。また,X線動態撮影の各条件間の差と比べ,単純X線撮影とX線動態撮影の差は大きかった。CNRは,リファレンスが5.02,デフォルト撮影時間4msが5.78とほぼ同等であり,デフォルト値より撮影時間が短くなるとCNRは低い値を示した。ファントム画像は,リファレンスと比べてX線動態撮影ではノイズが多く,撮影時間が短くなるほどノイズが増加した。画質については,単純X線撮影とX線動態撮影で大きな差があるが,両者は評価対象が異なるため同等の画質を追求する必要はないと考える。
X線動態画像について各撮影時間の画像で比較すると,デフォルト条件の4msの画質は1.6msや1msよりも良好であるが,被ばく線量が多くなることや動きの評価が目的であることから,当院では手関節X線動態撮影の撮影時間を1.6msとした(図3)。これにより,被ばく線量はデフォルト条件の4msの0.1mGy/sから0.04mGy/sになり,60%の被ばく低減効果を得られた。
今後は,手関節領域だけでなく多様な疾患への対応や,撮影条件のさらなる最適化を検討していきたい。
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