X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)

第5回X線動態画像セミナー[2023年10月号]

第3部 臨床報告

手関節疾患におけるX線動態撮影の臨床応用

鈴木 重哉(藤枝市立総合病院整形外科)

手関節は複雑な解剖学的構造を有する複合関節であり,手関節痛の原因疾患の確定には難渋することも多い。当院では2022年よりX線動態撮影を手関節痛に対する診断に利用しており,その有用性や可能性について報告する。

動的尺骨突き上げ症候群におけるX線動態撮影の有用性

尺骨突き上げ症候群は,尺骨頭が尺側手根骨と衝突して手関節尺側部痛を来す疾患で,通常は尺骨頭が橈骨尺側縁と比べて高い状態〔ulnar variance(UV)(+)〕の場合に生じる。しかし,UVが0,または(−)の場合にも,手関節の自動運動により尺骨頭と手根骨の衝突を生じる病態がある。これは動的尺骨突き上げ症候群と称され,臨床所見とMRIで診断することが多いが,診断が困難な症例も多い。

症例1:疾患の鑑別に有用だった症例
62歳,女性。誘因なく出現した左手関節痛に対して前医でMRI検査を行ったところ,キーンベック病(月状骨無腐性壊死)が疑われ,疼痛出現から1年後に当院を紹介受診した。
初診時現症:手関節尺側部の痛みと圧痛,左握力の著明な低下,ulnar gliding test(+)であった。単純X線像では月状骨の骨透亮像が認められた。UVは0mmであった。月状骨の圧壊像は見られなかった。臨床所見,単純X線所見からは動的尺骨突き上げ症候群が考えられたが,MRIの読影所見では月状骨の輝度変化が月状骨中央にまで及んでおり,突き上げ症候群の典型的なMRI所見(月状骨尺側に限局した輝度変化)と異なることから,キーンベック病が疑われた。そこで,X線動態撮影を行った。
手指をグリップ位とし,AP像での橈屈・尺屈を撮影したところ,尺骨のUV(+)が認められ,さらに尺骨は橈屈時に月状骨中央部に衝突する様子が確認された(図1)。この所見から動的尺骨突き上げ症候群と診断し,尺骨短縮骨切り術を施行した。手術時所見は,全身麻酔下での他動橈屈・尺屈では尺骨はnull varianceであり,覚醒時の動態とは異なっていた。また,鏡視下所見では月状骨の軟骨損傷が比較的橈側まで認められた。2mmの短縮骨切りを実施し,術後9か月には疼痛は完全に消失,握力も回復した。本症例は,X線動態画像により橈屈時のUV(+)と月状骨中央部への衝突を確認できたことで,動的尺骨突き上げ症候群と確信して手術に臨むことができ,MRIの病変分布が月状骨中央部まで見られたことの説明も可能となった。また,ulnar gliding testは月状骨と尺骨の衝突を再現しているとの先入観があったが,本症例では尺屈時には月状骨が橈骨側に移動して尺骨と衝突していないことが確認され,新しい知見を得ることができた。

図1 症例1のX線動態撮影 a:尺屈時 b:橈屈時

図1 症例1のX線動態撮影
a:尺屈時 b:橈屈時

 

症例2:病態の把握に有用だった症例
15歳,女児,中学の部活はバレーボール,高校での継続希望がある。スケートボードで転倒し,右手関節痛で他院を受診。遠位橈尺関節(DRUJ)の離開が認められ,3か月サポーターで固定していたが疼痛が継続していたため,精査目的で当院紹介受診。初診時現症(受傷4か月)は,ulnar gliding test(+),piano key sign(+)であり,DRUJの不安定性が示唆された。単純X線像では,DRUJの離開(+),UV+0.5mmであった。また,MRIでは三角線維軟骨複合体(TFCC)尺骨部に損傷が見られたが月状骨尺側の輝度変化は見られなかった。TFCC損傷によるDRUJ不安定性が疼痛の原因と判断し,保存的加療をさらに3か月行ったが改善せず,早期のスポーツ復帰希望があり手術的加療を選択した。当初は,MRIで突き上げ所見がないためTFCC縫合のみで尺骨短縮骨切り術の併用は不要と考えた。しかし,グリップ位でのX線動態撮影を施行したところ,遠位橈尺関節の不安定性は明らかであった。さらに尺骨の動的UV(+)が著明であったため(図2),動的尺骨突き上げ症候群を合併していると判断した。手術では,TFCCの尺骨小窩への縫着と約2mmの尺骨短縮骨切り術を行った。術後6か月で疼痛は完全に消失し,スポーツに復帰した。本症例は,X線動態画像により,手関節中間位で尺骨がUV(+)となり月状骨に衝突する様子を確認できたことで,必要な処置を行い,良好な術後成績を得ることができた。

図2 症例2のX線動態撮影 a:橈屈時 b:尺屈時

図2 症例2のX線動態撮影
a:橈屈時 b:尺屈時

 

まとめと考察

診断に難渋することの多い動的尺骨突き上げ症候群を,X線動態撮影では容易に診断することができた。手外科では近年,診断や手術成績向上のために術中の手指自動運動を行えるwide awake hand surgeryが行われている。X線動態撮影を行うことにより,同様に,自動運動における骨の動態について,新しい知見が得られる可能性がある。

 

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