X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)

第5回X線動態画像セミナー[2023年10月号]

第2部 研究報告

Implementation of dynamic digital radiography in research and clinical practice : a UK perspective

Thomas Simon FitzMaurice (Specialty Registrar in Respiratory Medicine, Liverpool Heart and Chest Hospital)

英国リバプールに位置する当院でX線動態撮影(DDR)を導入して約4年が経過した。本講演では,当院でのDDRの導入経緯や臨床応用の拡大に向けた臨床研究の取り組みについて紹介する。

DDRの臨床ワークフローへの導入

当院では,天井走行式X線撮影装置を用いて撮影を行っている。DDRは汎用性が高く,当院では主に横隔神経麻痺や機能障害の診断・評価などに使用している(図1)。DDRは横隔膜の動きをグラフ化し,障害の程度を数値化することが可能である。また,透視と比較して低被ばくであることに加え,迅速かつ実臨床に即した撮影が可能であり1),新型コロナウイルス感染症の後遺症疑い患者では肋間に排液チューブをつなげたまま撮影できた2)
われわれは,DDRによる症例を院内の放射線科ならびに呼吸器科のミーティングで報告し,横隔神経麻痺の評価における標準作業手順書(SOP)を作成した。SOPはPACSや画像診断ワークフローと連動可能で,DDRを臨床ワークフローに容易に組み込むことができ,臨床医からのDDRの依頼も増加している。

図1 DDRを用いた横隔神経麻痺や機能障害の評価 (参考文献1より引用)

図1 DDRを用いた横隔神経麻痺や機能障害の評価
(参考文献1より引用)

 

DDRの領域拡大をめざした臨床研究

当院では,横隔神経麻痺以外の疾患などへのDDR応用を目的に,臨床研究に取り組んでいる3)。そのうちの一つが囊胞性線維症(cystic fibrosis)に対する検討である。囊胞性線維症は多くの場合,胸部症状が悪化して肺機能が低下するが,スパイロメトリーなどの通常の検査では測定が難しく,実際の生理的変化が反映されない懸念がある。増悪に対する治療前後の肺機能の変化をDDRで測定した結果,肺機能改善が認められ,深呼吸時の横隔膜の収縮幅の拡大や呼気終末の肺野面積(projected lung areas:PLA)の減少などが確認できた4)。気管支拡張症を伴う症例への囊胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)調節薬による治療後も同様の結果が得られ,DDRにより炎症の軽減や肺の生理機能の回復効果の測定が可能なことが示された5)。また,体格指数(BMI)と完全吸気時/呼気終末時のPLAの変化の関連も示唆された。
さらに,異なる呼吸位相でのPLAをDDRで測定し,肺容積やプレチスモグラフィによる測定値との相関についても検証した。囊胞性線維症患者20例を対象とした検討では,DDRによるPLA測定値とプレチスモグラフィによる全肺気量(TLC)や残気量(RV),最大吸気量(IC),機能的残気量(FRC)などの測定値の間に有意な相関が見られた6)図2)。
内視鏡的肺容量減量術(BLVR)などの評価でも検討を行っており,DDRにより呼気時のPLAの減少や横隔膜の位置が視覚化され,胸腔の動きの改善が確認できた7)。これらの計測値は予後予測に有用であり,DDRは費用や迅速性でもメリットがあることから,プレチスモグラフィやCTの代替手法になり得ると思われる。また,DDRによる気道の側面像は気道虚脱(large airway collapse)も可視化し,CT撮影や気管支鏡による侵襲的な処置が不要になる可能性も示唆される8)

図2 DDRによるPLA測定値とプレチスモグラフィによる測定値の比較(参考文献6より引用)

図2 DDRによるPLA測定値とプレチスモグラフィによる測定値の比較(参考文献6より引用)

 

まとめ

DDRは,横隔膜移動や換気,灌流評価などの多くの指標による機能的,生理学的な評価が可能である。従来手法との比較や健常者のデータの少なさといった課題はあるが,さらなる実用化に向けた検証に取り組んでいきたい。特に救急・集中治療などの急性期では,DDRは簡便性や適用範囲の広さなどの面で有用で,ワークフローの効率化につながる可能性がある。DDRの臨床応用の推進に向け,より大規模で多様な患者コホートの実施や基準値の設定,学会誌などでの発表が必要である。

●参考文献
1)FitzMaurice, T.S., et al.: ERJ Open Res., 8(1): 00343-2021, 2022.
2)FitzMaurice, T.S., et al.: BMJ Case Rep., 14(6): e243115, 2021.
3)FitzMaurice, T.S., et al.: BMJ Open Respir. Res., 7(1): e000569, 2020.
4)Simon, T., et al.: Radiology, 303(3): 675-681, 2022.
5)FitzMaurice, T.S., et al.: J. Cyst. Fibros., 21(6): 1036-1041, 2022.
6)FitzMaurice, T.S., et al.: BMJ Open Respir.Res., 10 : e001309, 2023.
7)FitzMaurice, T.S., et al.: Eur. Respir. J., 56 : 3362, 2020.
8)Fyles, F., et al.: Am. J. Respir. Crit. Care Med., 207(4): 485-486, 2022.

 

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