X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)
第5回X線動態画像セミナー[2023年10月号]
第2部 研究報告
X線動態画像を用いた心不全患者の心機能および血行動態評価の試み
平岩 宏章(名古屋大学大学院医学系研究科循環器内科学)
心不全患者において,正確な心機能および血行動態評価を行うためには,侵襲的な右心カテーテル検査(RHC)が必要である。一方,近年,低侵襲かつリアルタイムに肺換気や肺血流を評価可能なモダリティとして,胸部X線動態撮影(DCR)が活用されるようになってきた。DCRが心不全患者における新しい低侵襲な血行動態評価法になることが期待されるものの,これまで,心不全患者に対してDCRを用いた研究は行われていなかった。そこで,われわれは,RHCで測定した血行動態パラメータと,DCRで測定した画像パラメータとの相関性を検証し,DCRが心不全患者における新しい血行動態評価法になるか,検討を行った1)。
DCRによる血行動態評価の検討1)
1.目的と方法
心不全患者において,DCRを用いてRHCに基づく血行動態パラメータを推定できるか検討した。血行動態の安定している心不全患者20名に対し,RHCとDCRを同日に施行した。DCRは立位と臥位で撮影し,ペースメーカや植込み型除細動器などの留置例や息止め困難な患者は除外した。
DCRは既存の一般撮影装置を使用できるため汎用性が高く,低コストである。15fpsの連続撮影を行い,1回の撮影には7秒間の息止めを要する。撮影1回あたりの平均被ばく線量は約0.8mGyと,胸部正面および側面の単純X線撮影の合計線量よりも低線量で施行できる。
今回の検討では,大動脈弓部,右肺動脈主幹部,左肺動脈主幹部,右房および左室心尖部の5か所にROIを設定し,ピクセル値の変化を測定した(図1)。各ROIの平均ピクセル値を全フレームにおいて測定し,波形からピクセル値の最大値と最小値の差が小さくなる3秒間のフレーム間隔を選択した。また,ピクセル値変化量と最大ピクセル値の比をピクセル値変化率と定義し算出した。
2.患者背景
年齢の中央値は67歳で,20名中17名が男性であった。患者の多くはNYHA心機能分類ⅠもしくはⅡで,心不全の原因のうち30%は虚血性心筋症であり,半数以上の症例で心不全治療の基本薬が導入されていた。心不全のバイオマーカーである脳性ナトリウム利尿ペプチドの中央値は209.9pg/mLであった。心エコー検査では,左室駆出率の中央値が38%と低値であり,RHCでは平均右房圧:6mmHg,平均肺動脈楔入圧:14mmHg,心係数2.36L/min/m2であった。
3.結 果
5か所のROIに対し,立位におけるピクセル値と血行動態パラメータとの相関を見ると,心尖部ROIにおけるピクセル値変化率は血行動態パラメータと正もしくは負の有意な相関を認めた。臥位においても同様の傾向を認め,立位と比較してより強く相関していた。図2に,臥位における相関図を示す。
ROC解析の結果,心尖部ROIにおけるピクセル値変化率のカットオフ値を10.6%として,低心拍出の心不全患者を同定できることが示された(AUC0.792,感度0.875,特異度0.667,P=0.031)。
図3 上段に心拍出が保たれている心不全患者のDCR画像,下段に低心拍出の心不全患者のDCR画像を示す。
4.考 察
心尖部ROIにおけるピクセル値の変化率が心拍出量を反映したメカニズムについて考察した。心尖部はほかの部位のROIと比較して周辺構造物との重なりが少なく,その影響を受けにくい可能性があることが推察された。結果として,心尖部ROIにおけるピクセル値変化率は,血液量の時間的変化(心拍出量)を反映した可能性があると考えられた。
5.結 語
DCRはRHCよりも簡便で低侵襲であり,心不全における心機能および血行動態の評価において有用である可能性がある。
まとめ
DCRは,心機能および血行動態を総合的に評価できる新たな画像モダリティとして,さらなる発展が期待される。DCRを用いた汎用性のある血行動態予測モデルや予後予測モデルの構築など,心不全診療に役立つ臨床応用をめざしていきたい。
●参考文献
1)Hiraiwa, H., et al.: Eur. J. Radiol., 161 : 110729, 2023.
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