X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)

第4回X線動態画像セミナー[2022年10月号]

第3部 実臨床

X線動態画像の放射線治療への応用

北村 一司(公益財団法人天理よろづ相談所病院放射線部)

体幹部定位放射線治療(SBRT)は,比較的小さな孤立性肺腫瘍に対してピンポイントに高線量を照射でき,『肺癌診療ガイドライン』では手術不能例のⅠ-Ⅱ期非小細胞肺癌の根治治療として推奨されている。SBRTのような高精度な放射線治療を行うためには,腫瘍の呼吸性移動の量やパターンの正確な評価がきわめて重要である。本講演では,肺腫瘍の呼吸性移動評価におけるX線動態画像の有用性を報告する。

呼吸性移動評価におけるX線動態画像の有用性

呼吸性移動評価に通常用いられる呼吸同期CT(4D-CT)は,腫瘍の視認性に優れ,任意断面での評価が可能であるが,被ばくが多い,撮影に手間がかかる,患者固有の呼吸パターンの評価が困難であるといった課題がある。また,X線シミュレータを用いた透視検査は有効ではあるが,近年では稼働施設が限られている。そこで,これらの代替として,コニカミノルタのデジタルX線動画撮影システム(Dynamic Digital Radiography:DDR)によるX線動態画像が適していると考える。
DDRは,一般撮影装置での動画撮影を可能としたシステムのため設置性に優れるほか,放射線治療用としてだけでなく,通常の一般撮影業務でも活用できるなどコスト効率に優れており,施設を選ばず導入可能である。また,X線動態画像は,X線シミュレータ透視の画像よりも鮮鋭性,コントラスト共に優れており,呼吸性に移動する腫瘍の様子を明瞭に観察可能である。
X線動態画像を用いて腫瘍の移動量を定量的に計測することも可能である。われわれは,オープンソースの動作分析ソフトウエア“Kinovea”を用いてX線動態画像を解析することで,腫瘍の動きを自動でトラッキングし,頭尾,左右および前後方向の距離計測を行っている。ファントム実験では計測誤差が1mm以下と非常に高精度であり,臨床実験ではX線シミュレータや4D-CTと有意に相関していた。

症例提示

以下に,DDRによるSBRT術前評価が放射線治療戦略の決定に有用であった症例を提示する。
症例1は,67歳,男性。右下葉の腫瘍の移動量は,頭尾方向に33.3mmと非常に大きかった(図1)。移動範囲全体を放射線治療のターゲットとすると,正常肺や肝臓の被ばく線量が増大するため,本症例は息止め照射の適応となった。

図1 症例1:息止め照射の適応例

図1 症例1:息止め照射の適応例

 

症例2は,84歳,男性。右下葉の腫瘍の移動量は,頭尾方向32.8mm,前後方向12.7mmと非常に大きく,息止め照射の適応と考えられた。しかし,DDRにて息止めでの側面撮影を行ったところ,息止め不良による有意な呼吸性移動を認めたため,息止め照射は不可と判断し,呼吸同期照射の適応となった(図2)。なお,呼吸同期照射や息止め照射は,診療報酬の「定位放射線治療呼吸性移動対策加算」の算定が可能であり,DDRによる定量評価が算定根拠になると考える。

図2 症例2:呼吸同期照射の適応例

図2 症例2:呼吸同期照射の適応例

 

症例3は,88歳,女性。右下葉の腫瘍の移動量は頭尾方向が17.6mmと大きかったが,呼吸パターンが非常に不規則であったことから,自由呼吸下での照射の適応となった(図3)。

図3 症例3:自由呼吸下での照射の適応例 (参考文献1)より引用転載)

図3 症例3:自由呼吸下での照射の適応例
(参考文献1)より引用転載)

 

このように,DDRによる術前評価を行うことで,照射方法を明確かつ早期に決定できることは,非常に大きなメリットであると考える。

ワークフローの改善

DDRによる術前評価で放射線治療戦略を早期に決定できることにより,治療準備にかかる人的・時間的コストが削減され,業務ワークフローの改善にも役立っている。当院ではSBRT術前検査として定着しつつあり,現在ではSBRT全例でDDRを実施している。

まとめ

DDRを放射線治療に導入することで,施設を問わず高画質で高精度かつ定量的な呼吸性移動評価を,効率的なワークフローで行うことが可能となる。DDRは,今後の放射線治療におけるニューノーマルなモダリティとして,新しいニーズを生み出す可能性があると考える。

●参考文献
1)Kitamura, K., et al.: J. Appl. Clin. Med. Phys., e13736, 2022.
https://doi.org/10.1002/acm2.13736

 

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