X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)

第4回X線動態画像セミナー[2022年10月号]

第3部 実臨床

肺循環評価における動態解析の臨床応用 ─肺塞栓症を中心に─

山崎 誘三(九州大学大学院医学研究院臨床放射線科学分野)

本講演では,X線動態撮影の肺塞栓症への臨床応用について報告する。

肺塞栓症はX線動態撮影でどう見えるか

図1に肺塞栓症患者の各種検査の画像を示す。造影CT画像では,両側肺動脈に広範な血栓があることがわかる。X線動態画像でも両側肺動脈に血栓があることで末梢側の血流が低下している様子を確認でき,造影CTから作成したヨードマップや肺血流シンチグラフィと非常に類似している。その欠損域は,ほかの画像検査と同様に肺野の末梢を底辺とした三角形を呈し,境界明瞭なくさび形の欠損域として確認することができる1)
同症例について,X線動態撮影の同一の連続画像を用いて解析方法を変えたPH2-MODEとPH-MODEを見ると,同様の肺塞栓症の所見を呈することが確認できる(図2)。一方,呼吸に伴う肺野内濃度変化を表示するPL-MODEでは,明らかな換気の異常は確認されず,換気血流ミスマッチとして見えた。
では,小さな肺塞栓症はどのように見えるのか。図3は71歳,女性,肝臓の術前に偶然発見された急性肺塞栓症である。造影CTでは右下葉に小さな血栓が確認でき,ヨードマップでは対応する領域に血流の低下域が認められる。しかし,X線動態画像では同領域の血流低下を断定的に指摘することは難しい。また,肺換気・血流シンチグラフィでも断定的に指摘することは難しかった。小さな肺塞栓症に関しては,シンチグラフィのplanar V/Qスキャン(正面)でわからないような小さな血栓は,X線動態撮影でも検出が難しいと言える。

図1 肺塞栓症患者の各種検査画像

図1 肺塞栓症患者の各種検査画像

 

図2 図1の症例のPH2-MODEとPH-MODE

図2 図1の症例のPH2-MODEとPH-MODE

 

図3 小さな肺塞栓症の検出

図3 小さな肺塞栓症の検出

 

肺塞栓症にX線動態撮影をどう使うか

X線動態撮影は肺塞栓症の診断に有用であるが,小さな血栓の検出は難しいこともあり,造影CTが可能な状況下においては優先して行う検査ではない。では,急性肺塞栓症で造影CTが撮影された患者に対して,X線動態撮影を施行する意味はないのだろうか。
症例を提示する。32歳,女性,心肺停止で救急搬送された急性肺塞栓症で,造影CTでは両側に多発血栓が確認された。回復後に施行した胸部X線動態撮影では,両肺野に多発するくさび状の欠損域が確認された。退院後は抗凝固療法を内服で継続していたが,6か月経過しても労作時息切れが残存したためX線動態撮影を施行した(図4)。X線動態画像では,右の上肺野と左の中肺野に依然としてある程度大きな血流欠損が残存していることが確認された。肺換気・血流シンチグラフィでも右上肺野と左中肺野に換気血流ミスマッチの残存を認め,慢性の血栓症と考えられた。再入院し,右心カテーテルを施行したところ,平均肺動脈圧26mmHgで,慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)と診断された。
急性肺塞栓症からCTEPHに移行する頻度について16論文をまとめたメタアナリシスでは,4047人の肺塞栓症患者のうち3.4%がCTEPHに移行していた2),3)。また,そのリスクファクタとしては,血栓が大きい,血栓を繰り返す,抗凝固療法が不十分といったものが挙げられている3)。このようなCTEPHリスクの高い患者に対して,急性肺塞栓症後にフォローアップとしてX線動態撮影の血流イメージングを用いることが有用であると考える4)
肺塞栓症に対するX線動態撮影は,被ばくや造影剤が問題になる患者など造影CTができない状況での急性肺塞栓症疑いに対するオプションの一つとして,また,急性肺塞栓症後のCTEPHハイリスク患者のフォローアップに有用である。

図4 急性肺塞栓症のフォローアップへの応用

図4 急性肺塞栓症のフォローアップへの応用

 

●参考文献
1)Yamasaki, Y., et al.: Radiology: Cardiothoracic Imaging, 4(4): 220086, 2022.
2)Ende-Varhaar, T. M., et al.:Eur. Respir. J., 49(2):1601792, 2017.
3)Simonneau, G., et al.:Ann. Cardiothorac. Surg., 11(2):106-119, 2022.
4)Yamasaki, Y., et al.:Eur. Heart J. Cardiovasc. Imaging, 23(6):e264-e265, 2022.

 

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