X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)
第4回X線動態画像セミナー[2022年10月号]
第2部 呼吸機能
X線動態解析による気腫病変の評価
林 健太郎(日本大学医学部内科学系呼吸器内科学分野)
当院では,2021年10月にデジタルX線動画撮影システムを導入し,呼吸器内科・呼吸器外科で,主に慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺炎,新型コロナウイルス感染症(COVID-19),肺がん術前症例などの撮影を行っている。これまでに300例以上のX線動態撮影を行っており,そのうち約130症例がCOVID-19である。
X線動態解析による気腫病変の評価
X線動態解析では,横隔膜の動きを追跡し移動量を可視化するDM-MODE,呼気時の肺内の動き(縦方向)の大きさを可視化するLM-MODE,心拍と同期する肺野内の信号変化量を可視化(血流評価)するPH2-MODEなどの解析を行える。これらの解析画像により,COPDでは過膨張による動きの制限や気腫による血流低下,COVID-19では肺炎による動きの制限や血流低下などを評価できると考えられる。
当院において,ゴダードスコア(CTによる肺気腫評価)とPH2-MODEの低信号領域面積比の関係について検討したところ,COPDの重症度にかかわらず一定の相関があると考えられたことから,現在,X線動態撮影での気腫の把握について検討を進めている。
症例1は,73歳,男性のCOPD症例(GOLD分類:stage2,mMRC:grade1,新GOLD分類:A)で,単純X線写真では横隔膜の平低化と過膨張が認められた。DM-MODE(図1 b)の解析で,横隔膜の変位は右21.6mm,左34mm(健常例では右:約49mm,左:約51mm1))となり,可動域制限が認められた。また,LM-MODE(図1 c)では,下肺の動きが制限されていた。さらに,PH2-MODE(図2)では,単純X線写真ではわからない気腫の存在をある程度視認できると考えられる。
COPD症例では横隔膜と肺実質の可動域の低下が認められる。われわれの検討では,CT画像のLAA(低吸収領域)スコアとPH2-MODEの信号低下領域は一定の関係が示唆されており,X線動態解析を用いてCOPDのスクリーニング検査ができる可能性がある。
COVID-19症例におけるX線動態画像の経験
当院で経験したCOVID-19症例におけるX線動態画像について紹介する。症例2は52歳,女性,発症7日目に入院,ワクチンを2回接種している。入院時には,単純X線写真やCTで両側下葉を中心に肺炎の広がりが確認された。入院初日,8日目,45日目と経時的にCT画像を比較すると,初日には典型的な斑状のすりガラス影や一部に索状影が認められたが,8日目には治療介入により肺炎像がかなり消退し,索状影(器質化)が認められた。45日目には肺炎像はほぼ消退し,正常に近い状態となった。
X線動態画像でも経時的に観察している。DM-MODE(図3)では,初日の横隔膜変位は右14.8mm,左21.6mmとかなり制限されており,8日目には右16.4mm,左27.6mm,45日目には右35.6mm,左44mmと改善はしているものの,可動域制限は残存していると考えられた。LM-MODE(図4 上段)を見ると,初日は肺の動きの制限が強く縦方向の動きが非常に低下していたが,8日目には治療介入で肺の動きが改善していることがわかる。また,PH2-MODE(PH2-Summary)(図4 下段)では,入院初日は肺炎部位に一致してPH2-MODEの信号値の低下が認められたが,経時的に改善していることが観察された。
COVID-19肺炎症例は,X線動態解析のDM-MODEとLM-MODEで可動域の低下が認められた。また,この変化は,比較的軽症な肺炎合併症でも早期から認められることがわかった。COVID-19の病態や病因にはまだわからないことも多いが,X線動態解析が病態解析の一助となる可能性がある。
●参考文献
1)Hida, T., et al. : Eur. J. Radiol., 113, 59-65, 2019.
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