X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)
第4回X線動態画像セミナー[2022年10月号]
第2部 呼吸機能
DDR(Dynamic Digital Radiography)Atlasの概要及び活用方法のご紹介
礒部 威(島根大学医学部内科学講座呼吸器・臨床腫瘍学教授)角森 昭教(コニカミノルタ株式会社ヘルスケア事業本部開発企画部)
コニカミノルタは,X線動画像の動きを定量化し正常モデルを構築して,デジタル症例集「DDR(Dynamic Digital Radiography)Atlas」を作成している。その第一弾として呼吸器領域を対象とした「DDRAtlas Ver.1.0」を公開した。その概要や活用方法,今後の展望について紹介する。
DDRAtlas検討の背景
胸部X線画像診断では,最大吸気位における静止画を解析し,病変の検出と局在化,特徴づけを行う。その際に,静止画で認められる心臓や血管,横隔膜などの線を識別し,正常解剖と対比するため,正常画像の十分な理解が必要である。
静止画では,正常画像と解剖学的解析,異常画像と病理学的な対比が確立されている。そこにX線動態撮影という新たなモダリティが加わることで,連続表示される画像,臓器の運動や可動性,疾患の動的変化を得ることが可能となり,画像診断領域に大きなパラダイムシフトが生じた。呼吸器領域では,横隔膜の上下運動や肺の大きさの変化量を計測,数値化することで,肺が過膨張する慢性閉塞性肺疾患(COPD)や容積減少が生じる間質性肺疾患の早期診断,治療効果の判定,呼吸機能検査との対比などにつながることが期待される。さらに,動きの観察は肺がん検診における結節陰影の視認を容易にしうる。
DDRAtlasについて
コニカミノルタは,動画撮影に関する研究・教育の活性化や診断基準の構築などを通じて,診断技術の精度向上につなげることを目的に,正常例でのX線動画像の動きを定量化した正常例モデル(DDRAtlas)の構築を進めている。現在,島根大学では正常例データを収集し,低侵襲・動的呼吸機能の検査技術の開発とその評価に関する臨床研究を行っている。
DDRAtlasのコンセプトは,検査のオーダ時に診療放射線技師が検査の意図を理解し,最適な検査手技がわかるようにすること,また,診断・治療の現場では画像の解釈や診断基準に関する情報が得られ,患者に対し動画を用いた具体的な説明を行えるようにすることである。さらに,多くのリサーチクエスチョンを設定し,X線動態撮影に関する研究が行われることも期待される。
DDRAtlas Ver.1.0
DDRAtlasの第一弾として,呼吸器領域を対象としたDDRAtlas Ver.1.0が2022年6月にデジタルX線動画撮影システム会員サイト上で公開された(図1)。
DDRAtlas Ver.1.0は,デジタルX線動画撮影システムの概要や呼吸に関する各臓器の動き,X線動画像例(胸部),参考情報などで構成される。このうち,呼吸に関する各臓器の動きでは,横隔膜や肋骨,気管,気管支などのCGや解剖学的シェーマ,実際のX線動画像が掲載されている。横隔膜を例に挙げると,解剖学的情報や正常例のX線動画像,上下方向の動きの計測例がグラフや数値で示されている。また,疾患症例の動画像,疾患情報や喫煙歴,CT画像なども掲載されている。さらに,努力肺活量(FVC)や1秒量(FEV1.0),フローボリューム曲線などの呼吸機能検査の結果と,実際の横隔膜の動きを可視化し,グラフ化したデータを確認できる。
X線動画像例では,正常例やCOPD,間質性肺炎,肺がん,横隔膜神経麻痺などの症例を,性別や年齢,BMIなどでフィルタリングし,参照することが可能である(図2)。さらに,参考情報としてX線動画像に関するこれまでの論文のタイトルや掲載誌名,著者がまとめられている。X線動態撮影技術はすでに約40件のエビデンスがあり,これらの情報はリサーチクエスチョンの設定の際の参考となる。
なお,本サイトはデジタルX線動画撮影システムをすでに導入した施設のみならず,導入を検討中の施設などからもアクセス可能である。
今後の展望
DDRAtlasの活用を通じて,X線動態撮影で観察可能な動きの情報を画像診断学に加え,日常的な検査として普及させたいと考えている。DDRAtlasの進化に向けて,正常例や異常例の収集,エビデンスの増強など,より多くの施設や診療科の協力が得られることを期待したい。また,コニカミノルタはDDRAtlasのコンテンツ拡充や大量データ解析のためのプラットフォームや解析技術,人工知能(AI)を活用した高度診断技術などの提供を通じて,X線動態撮影の普及に向けたサポートを行っていく。
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