X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)
第4回X線動態画像セミナー[2022年10月号]
第1部 ポータブル(集中治療)
救急集中治療領域における動態回診車の利用
昆 祐理(聖マリアンナ医科大学救急医学/救命救急センター救急放射線部門)
X線動態撮影システムは,これまで据置型システムで呼吸機能評価や術後肺機能予測,癒着/浸潤検出などのほか,肺循環機能や心機能の評価などに用いられてきた。当院では2022年1月に回診用X線撮影装置「AeroDR TX m01」(コニカミノルタ)を導入,集中治療室(ICU)でのX線動態撮影が可能になった。本講演では,ICUでのX線動態撮影の経験を報告する。
ICUでのX線動態撮影への期待
ICUでは,敗血症や急性呼吸窮迫症候群(ARDS),肺炎,心不全,心筋梗塞,脳出血など,多臓器にわたる重症患者の治療を行っている。通常,患者には人工呼吸器や透析用カテーテル,体外式膜型人工肺(ECMO)などのほか,各種モニター類や治療のためのドレナージチューブなどが接続されている。そのため,ICUでルーチンとして行われる画像検査はポータブルX線検査や超音波検査といった,移動をせずに行える検査に限られ,確認できる内容はデバイス類の位置や粗大病変の確認に限定される。
しかし,ICUの入院患者は重症で,人工呼吸器関連肺炎や肺塞栓などの重大な合併症を生じることも多く,例えば,敗血症性ショックによる人工呼吸器管理下で高流量カテコラミン投与中にショックや低酸素を生じるケースなどがある。このようなケースでは,原因病態の診断のためにCT撮影を行うことが望ましいが,検査のための移動に伴うリスクが高い上,腎不全などの多臓器不全が関与している場合もあり,造影剤使用に対する懸念がある。
回診車を利用したX線動態撮影は呼吸機能や肺循環機能,心機能などが評価可能であるため,X線動態撮影をルーチン撮影に組み込むことで微細な変化の確認が可能になり,病態に応じた,より細やかな管理につながることが期待される。
症例提示
当院救命救急センターでは,2022年1月のAeroDR TX m01導入以降,4か月間で11名の患者に22回の撮影を行っている。そのうちの2例を紹介する。
症例1:肺塞栓(64歳,男性)
本症例は,糖尿病性足壊疽による敗血症と急性腎不全,糖尿病性ケトアシドーシスにより入院した。第7病日に呼吸状態が悪化したため,単純CTを撮影した結果,左肺野末梢にすりガラス濃度上昇が区域性に見られ,肺梗塞が疑われた。本来であれば造影CT撮影が望ましかったが,急性腎不全のため造影剤の使用はリスクが高く,X線動態撮影を行った。PH2-MODE(PH2-Dynamic,PH2-Summary)で解析した結果,左肺野全体の血流低下が認められ,肺梗塞の所見側と一致していたことから肺塞栓と診断された(図1)。
症例2:COVID-19(63歳,男性)
本症例は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患,救急搬送時にすでに高度な低酸素血症が見られたことから,気管挿管を行った。しかし,その後も呼吸状態は悪化し,肺の膨らみやすさを示す静肺コンプライアンス(Cstat)は維持されていたものの,第4病日に動脈血酸素分圧(PaO2)/吸入気酸素濃度(FiO2)(P/F比)が130に低下,血中の二酸化炭素分圧(pCO2)は50に上昇した。
このようなARDSの肺をCT画像で確認すると,正常肺と障害肺が混在し,重力荷重域である背側肺は陰影が強く描出される。ARDS治療では,人工呼吸器による管理や筋弛緩薬の投与などのほか,正常肺と障害肺のバランスを改善し,換気血流不均衡を是正するため,腹臥位療法が行われる場合がある。本症例も腹臥位療法による治療を試み,静止画像と動態画像で治療前後の比較を行った。
静止画像のような動きのない画像の読影では,腹臥位療法後も左下肺野で浸潤影が濃く描出され,病態の悪化が疑われた(図2)。一方,動態画像をPL-MODEで解析した結果,腹臥位療法後は換気が改善していることが示唆された(図3)。血液検査の値を見ると,P/F比やpCO2は腹臥位療法後に改善しており,動態画像で示唆された結果が実際の臨床と合致していた。
まとめ
X線動態撮影は,肺塞栓などICUのクリティカルな合併症を造影剤や移動のリスクなく判断可能である。また,静止画像ではできなかった換気状態の把握が可能である。ルーチン検査に組み込み,さまざまな解析結果と合わせることで適切なマネージメントが可能になり,ICU管理が劇的に変わると期待される。
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