X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)

第3回X線動態画像セミナー[2021年9月号]

第1部 技術/外科

胸部X線動態撮影における呼吸動作の再現性

黒田 大悟(公益財団法人天理よろづ相談所病院放射線部)

当院では,2019年6月から間質性肺炎(IP)患者に対し,臨床研究として胸部X線動態撮影を開始したが,経過観察症例において前回とは異なる呼吸動態画像が得られたケースを経験した。そこで,呼吸動作の再現性を検証したので紹介する。

胸部X線動態撮影における呼吸動作の再現性の検証

胸部X線動態撮影時の診療放射線技師間での撮影プロトコールのバラツキをなくすため,当院ではオートボイスを使用している。しかし,複数回の検査を施行する場合,撮影ごとに,呼吸動作が安定しないケースがあると考えられた。
そこで,胸部X線動態撮影における呼吸動作の再現性を検証するため,当院で胸部X線動態撮影を3回以上施行した15名(平均年齢70.8歳)46例を対象に,(1) オートボイスに沿った呼吸ができているか,(2) 最大呼気・吸気で撮影できているか,について検証を行った。
まず,呼気時間(最大吸気から最大呼気まで)と吸気時間(最大呼気から最大吸気まで)を動態画像のフレーム数から算出し,オートボイスの指示時間と比較した。その結果,オートボイスの指示時間(5秒)とその前後1秒から外れた症例は,呼気で15例,吸気で38例であった。また,患者全体のデータから吸気時間が短く,バラツキが大きいことが示された。さらに,呼吸状態の悪化を示す指標である%努力肺活量(%FVC)と吸気時間の関連性は低いことが示され,呼吸時間のズレは,息が吸いにくいなどの呼吸状態によるものではなく,X線動態撮影時の呼吸動作への理解不足が原因と考えられた。
また,複数回の検査での最大呼気・吸気時の肺野面積をそれぞれ計測し,変動係数を用いて評価した結果,最大呼気での変動が大きいことが示された。X線動態撮影と同日に行った呼吸機能検査のFVCや全肺気量(TLC)の変動係数との比較では,呼吸機能検査に比べX線動態撮影は変動が大きく,再現性に劣る結果となった。

症例提示

実際の症例を紹介する。症例1は,いずれの撮影時も呼吸機能の値はほぼ変化はなかったが,最大呼気時の肺野面積は大きく異なり,画像上でもその差は確認できた(図1)。撮影時,当院でのX線動態撮影の経験が浅く,過去画像との確実な比較を行っていれば,再撮影が可能であったと思われる。
症例2は,症例1と同様に呼吸機能に大きな差は見られなかったが,初回撮影時は呼気不良,2回目の撮影時は吸気不良であった(図2)。最大呼気・吸気時の肺野面積の変化割合はいずれの撮影時も大きな違いはなく,画像上の差異を確実に確認しなければ,吸気,呼気の判定が難しい症例であると言える。

図1 症例1(最大呼気時)

図1 症例1(最大呼気時)

 

図2 症例2(最大吸気時)

図2 症例2(最大吸気時)

 

X線動態撮影の再現性向上への取り組み

当院では,以前は撮影前に定型文による説明を行っていたが,これらの結果を受け,患者の理解度に応じたきめ細かい説明を心掛けているほか,音声ガイドを利用した練習を繰り返し行う,または練習では音声ガイドにかぶせて診療放射線技師がサポートの声掛けを行うなど,事前練習にも注意を払っている。さらに,撮影直後の画像をコニカミノルタの「CS-7コンソール」,過去画像をX線動画解析ワークステーション「KINOSIS」に表示し,それぞれグリッド線を引いた未露光ロスフィルムを重ね合わせ,X線動態画像を再生しながらグリッド線を参考に最大吸気・呼気の横隔膜レベルを確認するなどの改善策にも取り組んでおり,X線動態撮影の再現性向上に加え,適切に再撮影の判定ができるようになってきている(図3,4)。今後は,症例数を増やし,検討を進めていく。

図3 当院での画像確認時の工夫

図3 当院での画像確認時の工夫

 

図4 グリッド線表示で再現性を確認

図4 グリッド線表示で再現性を確認

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