第2回 医療現場のワークフロー変革セミナー 2019
2020年1月号
政策動向 セッション1
GEヘルスケアが目指すデジタル戦略
三井 俊男(GEヘルスケア・ジャパン株式会社執行役員エンタープライズ・デジタル・ソリューションズ(EDS)本部本部長)
本セミナー開催に当たり,GEヘルスケアがめざすデジタル戦略を紹介する。
「プレシジョン・ヘルス」の実現に向けて
GEヘルスケアは,「プレシジョン・ヘルス(Precision Health)」をビジョンに掲げている。私たちは,医療従事者が患者に対してより精密な医療を行うための製品やサービスを提供し,予防から診断,治療,フォローアップまでのフェーズで,患者一人ひとりに最適化された精密な医療を実現する。プレシジョン・ヘルスの実現には,膨大な医療データを集積し,そのデータを用いてよりインテリジェントな情報を生成するためのアナリティクスや,さらには情報をより高度化する人工知能(AI)などが必要となる。
AIアプリケーション開発のための“Edison Platform”
そこで,GEヘルスケアでは,クラウド上にデータを集積し,AIアプリケーションを開発するためのプラットフォームを構築。GEの創業者の名前をとってEdison Platformと名付けた。Edison Platformは,アマゾンが提供するクラウド・コンピューティング・サービス“Amazon Web Service”を採用しており,同サービス上でAIアプリケーションを開発,製品化して,ユーザーに提供するプラットフォームである。AIアプリケーションは,ソフトウエア単体の“Edison Applications”と,CTなどのモダリティに組み込んだ“Edison Smart Devices”がある。ユーザーはこれらのAIアプリケーションを,アップルのApp Storeからアプリーションをダウンロードするような感覚で利用できる。さらに,Edison Platformは,オープンな開発環境としており,外部からも利用できる。一例として,米国放射線学会(ACR)との協業がある。私たちは,ACR会員の放射線科医が,AIアプリケーションを開発するために,無償でEdison Platformを利用できるようにした。
オープンな環境で新しいソリューションを提供
前述のとおり,プレシジョン・ヘルスの実現にはデータが重要であるが,これについては多くのIT企業のリーダーたちが言及している。例えば,データは“新たな石油”“新たな金”“新たな通貨”“新たな天然資源”などと言われているが,私はデータは“生き物”だと考えている。医療データならば,医療の専門家や私たちのように長年医療データを扱ってきた企業が,収集から解析までを行い,“育て上げる”ことで,真に価値のあるデータが生み出されると信じている。そして,真に価値のある貴重なデータだからこそ,私たちはユーザーにソリューションを提供するに当たって,データを囲い込むことなく,自由に利用できるオープン性を最も重視している。そのため,標準規約にも準拠し, interoperability(相互互換性)の確保に努める。これにより,多くの企業とのコラボレーションが可能となり,患者にとって価値のある新たなソリューションの開発が加速すると考える。
医療データがもたらす新たな価値
最後に,本セミナーの直前にマスコミで取り上げられたGEヘルスケアのソリューションを紹介する。私たちはパートナー企業とともに,Edison PlatformのAIアプリケーションにより,整形外科領域の手術で用いるインプラントについて,術前に撮影した検査画像からサイズや角度などを解析し,最適なものを用意できるようにした。これにより,手術のアウトカム向上とサプライチェーンの最適化による医療コストの削減を図れる。
この事例のように,私たちは,Edison Platformの活用により,患者をはじめ医療にかかわるすべての人に医療データがどのような価値をもたらすかを,皆さまと一緒に考えていきたい。
- 【関連コンテンツ】