第2回 医療現場のワークフロー変革セミナー 2019
2020年1月号
データ活用 セッション1
PACS環境の構築と発展,そして,次世代への準備
福永 正明(公益財団法人大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院医療技術部門放射線技術部)
本講演では,当院の概要を述べた上で,われわれが取り組んだPACS環境の再構築・発展・次世代への準備について報告する。
当院の概要
当院は,大原記念倉敷中央医療機構の中核病院である。同法人は当院のほか,倉敷中央病院リバーサイド,倉敷中央病院付属予防医療プラザの3施設を運営している。当院は病床数が1166床で,医師数が約500名,医療技術部門が約440名,うち診療放射線技師は約90名が在籍している。放射線部門の1日の検査数は,CTが200〜250件程度,MRIが80〜100件程度,核医学検査が20件程度などとなっている。また,前述の3施設では,NECの電子カルテシステム,ジェイマックシステムのRIS,GEのPACSを導入している。さらに,PACSの画像については,「画像ポータル」から参照できるようになっている。
PACS環境の再構築
当院は1980年に放射線センターを設立し,一般撮影装置やX線TV装置,血管撮影装置,CTを導入。その後,順次モダリティを拡充してきた。さらに,当院はIT化にも注力していたことから,1995年からフィルムレス化を推進し,2007年にPACSを導入。64列CTを導入したことで飛躍的にデータ量が増加する中,モニタ診断と完全フィルムレス環境へと移行した。その後,2011年に心臓病センターへの心臓CT専用機設置に伴い,2012年にGEのPACSを導入,「統合PACS」として運用を開始した。そして,2018年には,5月に放射線科の読影用ビューワを「Universal Viewer」に更新し,12月に診療科への配信用ビューワもUniversal Viewerへと切り替えた。
GEのPACS導入以前は,放射線センターのモダリティの画像を従来のPACSに保管し,心臓病センターと脳神経外科における血管撮影装置の動画像などを,ぞれぞれのサーバで管理していた。そのため,限られた一部の端末でしか画像を閲覧できないという問題が生じていた。この問題を解決するために,GEの統合PACSで,心臓病センターと脳神経外科のデータを一元管理して,1つのビューワで心臓病センターと脳神経外科の画像を閲覧できるようにした。しかしながら,放射線センターのPACSと統合PACSは連携しておらず,例えば,放射線センターのCTで撮影した過去画像と心臓病センターの心臓CTの画像を比較読影する場合は,それぞれのビューワを起動しなければならなかった。
そこで,2017年からは統合PACSに一本化することとし,ゲートウェイを介して放射線センターの過去画像と新規に発生する画像を統合PACSに蓄積することとした(図1)。これにより,放射線センターと心臓病センター,脳神経外科で発生するデータを統合PACSに集約できるようになった。
しかし,統合PACSに一本化することにより,今度はビューワの操作性が問題となった。例えば,整形外科では,骨や関節の計測を行うが,Universal Viewerでは対応できなかった。また,従来のビューワは,カンファレンス用に担当医ごとにフォルダを設けて画像を管理していたが,このような運用も変更する必要があった。これらの問題に対応するために,GEの協力を得て従来のビューワも使用できるようにVNA+OCDB環境を構築(図2)。VNA+OCDBにより,使用者が使い慣れた画像ビューワを使用でき,タブレット端末などの環境にも対応できると期待されている。2018年9月から運用を開始し,12月から診療科でUniversal Viewerを使用し始めた。ただし,Universal Viewerは,機能や操作方法が従来のビューワと異なる点が多いことから,診療科からの問い合わせも多く,その都度対応している。また,GEとも情報を共有して,改修の要望を出している。一方で,Universal Viewer導入のメリットとしては,(1) ビューワが統一されたことで,過去画像との並列表示などが容易になったこと,(2) “スマート・リーディング・プロトコル(SRP)”機能によるハンギングプロトコル設定で画面レイアウト変更が簡便なこと,(3) 後述する地域共同利用型PACSを利用できること,(4) 同じサーバを使用している倉敷中央病院リバーサイドの画像も閲覧できるようになったこと,などが挙げられる。
PACS環境の発展
当院のVNAは,岡山情報処理センターのデータセンターにVNAサーバを設け,統合PACSのデータを送信して,そのデータを従来のビューワでも参照できるようにしている。VNAサーバのバックアップサーバは宮崎県のデータセンターにある。VNA基盤の構築に当たっては,画像転送に時間がかかり,またVR画像などの一部の画像が表示されないといった不具合いが発生した。こうした不具合いについても,GEと連携しながら解決を図っている。
さらに,当院では,連携先医療機関と画像データを相互利用するための地域共同利用型PACSを構築した(図3)。2019年8月の時点で5施設が参加しており,参加医療機関はVNAと同じデータセンター内のサーバにアクセスして画像を閲覧する。利用に当たっては,画像ポータルのリスト画面からUniversal Viewerを起動することで閲覧が可能になる。ただし,Universal Viewer起動時に閲覧する画像が直接表示される仕様になっていないため,ユーザーが画像を選択し直す必要がある。利用率を上げるためにも,より効率的な画像閲覧ができるようにすることが今後の課題である。
2020年4月から義務化される被ばく線量管理・記録については,モダリティから統合PACSに送られたDICOM RDSRが線量管理システムに送信される仕組みとした。GEの統合PACSがDICOM RDSRに対応していることから接続費用を抑えられ,低コストで被ばく線量管理・記録が可能となった。当院では,系列病院も含め15台のCTを所有しているが,統合PACSに集約したDICOM RDSRを線量管理システムへ送信するだけでよく,効率的な被ばく線量管理・記録が実施できている。
PACS環境の次世代への準備
当院では,チャットと医用画像表示による医療関係者間コミュニケーションアプリ“Join”(アルム)を導入した。統合PACSから医用画像を取得して,医師などのスマートフォンやタブレットに画像を配信し,急性期脳梗塞などで速やかな診断・治療を行う体制を構築した。チーム医療として診療放射線技師も加わるため,救急CT室とMRI室に専用のタブレットを配置して,画像閲覧やチャットを行えるようにした。
このほか,今後,人工知能(AI)などが普及していく中で,医用画像管理の重要性がますます高くなることから,DICOM tag情報の整理,ビューワとレポートシステムの整備などにも取り組む必要がある。
まとめ
当院では,GEの統合PACSにより,PACSを一本化するという再構築を行った。その上でVNA+OCDBと地域共同利用型PACSを構築してPACS環境の発展を図っている。今後は,新たなICTやAIの利活用など,次世代への準備を進めていくことが必要である。
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