技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)

2020年5月号

腹部領域におけるWS技術の最新動向

最新技術を使用したCT肝臓解析と動脈塞栓術サポートアプリケーション

Hao Zhong[GEヘルスケア・ジャパン(株)CT営業推進部 Clinical Leader] 柴草 高一[GEヘルスケア・ジャパン(株)マーケティング本部 Interventional Clinical Marketing]

弊社の医療機器は約400万台,世界160か国以上で使われており,そこから得られる知見から効率的な診断・治療に貢献すべく,医療機器の開発を行っている。ワークステーションに関しては,もともと診断装置そのものに搭載したものや,弊社の装置との組み合わせで有用性を最大化するものなど,装置メーカーならではのアプリケーションを実装している。加えて最近では,ディープラーニングによる解析機能の実装も積極的に行っている。本稿では,腹部の診断,治療,それぞれから最新技術を搭載したアプリケーションを紹介する。

●肝臓解析アプリケーション“Hepatic VCAR”

現在,世界において,年間200万人を超える患者が肝がんや肝硬変,急性肝不全などの肝疾患によって命を落としており,全死亡者数の4%を占めている。それらに対する治療の中で,肝臓の体積計測は,肝切除術や生体肝移植において,残肝率の予測や肝不全を防止するために日常的に行われている測定である。また,治療において,肝臓の各区域の領域を測定することは重要であり,さらに,肝臓血管の走行を把握することは,末梢血管治療において必要不可欠な情報である。
しかし,CTによる肝臓の体積計測や区域分けには,ワークフローや精度の面でいくつかの課題があると言われている。まず,マニュアルで計測する場合,術者によって25〜40分の時間がかかるという報告がある。また,自動計測の場合にはイレギュラーケースにおける精度低下,さらには術者による計測誤差が大きいといった報告もされている。
それらを解決するために,ディープラーニングを利用して肝臓の体積計測や区域分けを行うアプリケーションであるHepatic VCARが開発された。Hepatic VCARは,肝臓の治療において必要な情報を,迅速にかつ精度高く提供することが可能である。機能としては,肝臓全体の自動抽出,門脈および肝動脈のワンクリック描出,区域分けおよび3D表示,そしてレポート機能を有しており,一連の流れで効率的な診断をサポートしている。ディープラーニングをベースとして開発することにより,肝臓自動描出については3秒以内に自動的に行い,さまざまな症例に対し95%以上の精度を有している。また,術者間による計測誤差についても1%以内に抑えることが可能となっており,従来の課題を解決している(図1)。

図1 Hepatic VCARの特長

図1 Hepatic VCARの特長

 

●脂肪定量解析アプリケーション“GSI Liver Fat”

近年,非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が増加していると言われており,早期での肝臓脂肪量の定量化が重要となっている。脂肪量の計測においては,肝生検やMRI,超音波などがあるが,それぞれにおいて侵襲性や再現性,体積計測の可否など課題があると言われている。
それらを解決するために,GEのdual energy機能である“Gemstone Spectral Imaging(GSI)”を用いた脂肪定量解析アプリケーションであるGSI Liver Fatが開発された。GSI Liver Fatでは,上記に示したHepatic VCARと組み合わせて使用することで,自動的に描出された肝臓の各区域における脂肪含有量を計測することが可能である。また,計算の始めに仮想単純処理を行うことによって,単純画像,造影画像両方で脂肪計測することが可能となっている。
図2に示す症例では,脂肪肝と疑われる症例に対し,各領域にROIを置いてHUと脂肪含有率を比較した。ROI1と2では,HUはほぼ同等であるにもかかわらず,脂肪含有率は大きく異なる結果となった。これは,通常のHUのみではとらえきれない脂肪含有率を算出することにより,まだら脂肪肝の観察や精度の高い脂肪情報を提供できる可能性を示している。
このように,肝臓脂肪の含有率や含有量を数値化することにより,脂肪肝の患者に対して運動療法や食事療法を行った際の経過観察を定量的に評価したり,一般的に脂肪が含まれると言われている高分化型の肝細胞がんの鑑別における閾値の構築など,多くの臨床的アウトカムが期待されている。

図2 HUと脂肪含有率の比較

図2 HUと脂肪含有率の比較

 

●塞栓術サポートアプリケーション“Embo ASSIST”

腹部領域のインターベンション,特に肝動脈化学塞栓療法(以下,TACE)において,cone beam C-arm CT(以下,CBCT)を用いたautomated tumor-feeder detection(以下,AFD)が多用されているのは周知のとおりである。今回,弊社は,全身領域におけるAFDの進化形アプリケーションとしてEmbo ASSISTをリリースしたので,以下に解説する。
弊社は世界に先駆けて,2012年に“FlightPlan for Liver(以下,FPFL)”をリリースした。CBCTデータを基に血管起始部と腫瘍濃染を指定することで,栄養血管と思われる血管を自動的に抽出し,術者へのセカンドオピニオン的な情報提供により,効率的なTACEを実現することを目的としており,栄養血管特定のsensitivityの高さは,すでに世界各国の臨床論文で証明されている。さらに,RSNA 2018では,FPFLの進化形アプリケーションとして,“Liver ASSIST V.I.”をリリースした。多数の腫瘍の同時選択が可能となり,それぞれの栄養血管を同時探索できるようになった(図3)。Liver ASSIST V.I.には,新たに“Virtual Injection”という機能が加わり,バーチャルな造影CBCT画像を提供することができる。得られたCBCT画像の任意血管上にカーソルを置くと,そのカーソル位置から連続性のある血管の遠位側には緑,近位側には赤の中心線(極細線)がリアルタイムに表示される。Virtual Injection画像は,volume rendering画像のみならず,断面画像上にもリアルタイムに表示され,術者は全画像を比較しながら栄養血管を探索することができる。カーソル位置が全画像に連動されるため,血管を特定しやすい(図4)。Virtual Injection画像による支配栄養血管の確認や淡い濃染の腫瘍に対しての肝臓区域の特定など,従来のFPFLよりも効率的にTACEを進めることが可能になった。

図3 複数の腫瘍の栄養血管を同時探索

図3 複数の腫瘍の栄養血管を同時探索

図4 Virtual Injection表示および3D画像と断面画像を比較しつつ総合的な判断が可能

図4 Virtual Injection表示および3D画像と断面画像を比較しつつ総合的な判断が可能

 

そして,RSNA 2019にて全身領域の塞栓術に対応するEmbo ASSISTをリリースした。脳動静脈奇形のようなシャント疾患の場合,feeder,nidus,drainerのangioarchitectureを把握することは,的確な治療を完遂するために必須となる。しかし,三次元的に複雑に入り組んだ血管構造を把握することは,決して容易ではない。そのために,術前に何度も3D画像を回転させながら,angioarchitecture把握のために多くの時間を費やしているのが現状だと思われる。Embo ASSISTでは,まずVirtual Injectionにて注目すべき血管を選択した後,一時的にその血管をワークステーション内に登録保存し,個別にカラー表示させることができる。その後,次に注目すべき血管を探索しながら同じアクションを繰り返すことで,選択登録された血管群が自動的に異なる色でカラー表示される(図5)。なお,選択された血管は,個々に表示・非表示の選択が可能である。さらに,Embo ASSISTでは,上記で選択されたそれぞれの血管を“Innova Vision2”(3Dロードマップ)に活用でき,かつ,必要に応じて選択的に切り替えることが可能となる(図6)。側面のみの透視を行った場合は,3Dロードマップも自動的に側面画像に切り替わる(図7)。
Embo ASSISTを用いて,着目すべき血管を簡便に登録しカラー表示することで,塞栓すべきすべてのfeederの特定が容易となるだけでなく,angioarchitecture理解のためのトータル時間を削減することができる。加えて,術中のInnova Vision2による解剖学的情報を付加することで,容易なカテーテル操作を支援することができる。
このように,Embo ASSISTは,全身領域の塞栓術における問題点を解決し,治療計画の段階から術中の画像支援に至るまでの術者の効率向上を目的として開発されたアプリケーションである。日々の実臨床の現場において,より効率的なIVRを施行するための一助となれば幸いである。

図5 Embo ASSISTによる複数feederの選択表示

図5 Embo ASSISTによる複数feederの選択表示

 

図6 事前登録した個々のfeederを用いたInnova Vision2(3Dロードマップ)

図6 事前登録した個々のfeederを用いたInnova Vision2(3Dロードマップ)

 

図7 側面でのInnova Vision2

図7 側面でのInnova Vision2

 

アドバンテージ ワークステーション
医療機器認証番号:20600BZY00483000
AW サーバー
医療機器認証番号:22200BZX00295000
多目的X線撮影システム INNOVAⅡ
医療機器認証番号:219ACBZX00035000号
多目的X線撮影システム INNOVA
医療機器認証番号:21500BZY00327000号

 

●問い合わせ先
GEヘルスケア・ジャパン株式会社
ヘルスケア・デジタル本部
〒191-8503
東京都日野市旭が丘4-7-127
TEL:0120-202-021(コールセンター)
http://www.gehealthcare.co.jp

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