技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)
2012年12月号
核医学分野の最新技術動向
放射性医薬品合成設備「FASTlab」
佐々木基仁(MIセールス&マーケティング部)
院内PET薬剤合成のシステムにおいて,後段で重要な役割を担うのがPET薬剤自動合成装置である。PET薬剤自動合成装置は,院内設置された小型サイクロトロン(GE社製「PETtrace」等)により製造された陽電子(ポジトロン)放出核種(15O,13N,11C,18F)と目的とする薬剤の原料や反応をサポートする数種類の試薬,反応行程中に生成される反応副生成物(不純物)を除去するための吸着材(精製カラム類)など,多くの合成要素を組み合わせ,それを制御するなど,煩雑でデリケートな準備操作や合成操作に専門的な知識が要求されてきた。
この問題に対して,GEヘルスケアでは,合成要素の多くをカセット内に含むカセット交換方式の合成装置である「FDG MicroLab」を世界に先駆けて開発・販売し,日本国内においても初めて医療機器承認を取得し,販売した。
次いで,FDG MicroLabの弱点部分を解決し,さらにはオンカラムアルカリ加水分解方式(GE社特許)を採用した「TRACERlab MX FDG」を開発・販売し,日本国内で60台以上,海外を含めると400台以上を納入し,合成装置市場をリードしてきた。
今回,TRACERlab MX FDGの後継機種として,「放射性医薬品合成設備 FASTlab
」(図1)の医療機器承認を取得し,発売開始したので,その紹介をする。
■FASTlabの開発のコンセプト
TRACERlab MX FDGのカセット交換方式は,カセット本体,アクセサリーキットおよび試薬類が別々に提供され,合成直前にそれらを組み立て装置本体にセットする作業を行わなければならなかった。具体的な作業としては,カラムの接続,試薬のセット,配管の接続およびスパイキング(針刺し)など行うなどがあり,それら作業時の操作ミスによる合成エラーを発生させていた。
これらの問題に対して,FASTlabは,合成に使用する試薬やカラム類などの構成品のほとんどを,カセットにあらかじめパッケージングした状態で提供することにより,合成カセットセット時の操作介入の機会を低減し,ヒューマンエラーを減少するなど,さまざまな利点を追求した(図2)。
以下にFASTlabの特長を示す。
■FASTlabの主な特長
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フルパッケージングカセット方式による確実で速やかなセットアップを実現
合成試薬は,あらかじめカセット内にセットされているため,取り付け時のエラーを防ぐとともに作業時間を大幅に短縮,わずか60秒でセットアップが完了する。 -
フルパッケージングカセット方式により高精度でエラーを減少
FASTlabは,一体成型型のカセットを中心に構成され,従来問題となっていたカセット接続部からの液漏れなどのトラブル発生を低減する。 -
フルパッケージングカセット方式により連続した作業時の被ばく低減
FASTlabは,合成終了後のカセット洗浄工程を根本から見直した。これによりカセット残留放射能量の割合を0.5%まで低減し,被ばくを抑えることで連続した合成時の安全性を追究した。 -
フルパッケージングカセット方式により合成収率の向上
FASTlabのFDG合成収率は,3合成の平均値として67.5%(非時間補正値)以上を実現し,無駄を抑えた高い効率で薬剤合成が行える。 -
フルパッケージングカセット方式による合成時間の短縮
フルパッケージングカセット方式により合成時間を25分未満まで短縮し,スピーディな合成環境を提供する。 -
オンカラム加水分解法(GE社特許)
従来から採用しているオンカラム加水分解方式で,高い収率と合成される薬剤製品の高品質(残留溶媒の除去)を提供する。
■海外での使用状況
本来FASTlabは,フルパッケージングカセット方式の特長を生かし,カセット内のカラムや試薬類の構成を変更することにより,さまざまなPET用薬剤の合成に対応できるように設計されている。現在,諸外国では,FDG用カセット以外に3種類の薬剤用カセットが販売されている(現在,日本国内ではFDGカセットのみ医療機器承認を得ているが,そのほかは,未承認である)。
各薬剤に対応した合成用カセットには,薬剤に対応した試薬類やカラム類があらかじめ装填されている。また,各薬剤に対応した合成用のシーケンスプログラムは,あらかじめFASTlab本体に記憶されており,各薬剤のカセットが本体にセットされるとカセットに貼付されたバーコードを自動的に読み込み,カセットに対応したプログラムを読み出し,プログラム実行して薬剤が合成され品質検定後,薬剤として使用される。このように,フルパッケージングカセット方式により各薬剤のカセットと合成プログラムをバーコード認識によりリンクさせ,合成カセットや合成薬剤および合成プログラムの不一致による重大な合成エラーの発生を防ぐことにより,多種類の薬剤に対応した装置としての安全性を確保している。
一方,日本国内の状況は,PET薬剤用合成装置の医療機器承認は,例えばFDG薬剤にはFDG合成装置が対応するといった専用合成装置の承認しか得られてこなかった。このような状況の下,今後PET薬剤の種類が増加した場合には,専用合成装置を次々に増設するために合成装置を格納するホットセル(鉛製の容器)が必要となり,病院内の限られたスペースではその拡張性に大きな問題が生ずることになる。このような状況を鑑み,今後はFASTlab方式の合成装置の必要性が高まるものと考える。
【問い合わせ先】MIセールス&マーケティング部 TEL 042-585-9380
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