セミナーレポート(GEヘルスケア・ジャパン)

第20回日本医療マネジメント学会学術総会が2018年6月8日(金),9日(土)の2日間,ニトリ文化ホール/ホテルさっぽろ芸文館,ロイトン札幌(北海道札幌市)において開催された。9日(土)に行われたGEヘルスケア・ジャパン株式会社共催のランチョンセミナー15では,日本鋼管病院病院長の小川健二氏が,「病院経営のアウトカムへ繋げる,医療データの可視化・分析─地域医療を見据えた,院内外のコミュニケーション─」と題した講演を行った。以下,小川氏の講演内容を報告する。

2018年8月号

第20回日本医療マネジメント学会学術総会ランチョンセミナー15

病院経営のアウトカムへ繋げる,医療データの可視化・分析 ─地域医療を見据えた,院内外のコミュニケーション─

小川 健二(日本鋼管病院病院長)

医療を取り巻く環境が厳しい状況の中,限られた医療資源を効率的に活用し,病院を経営していかなければならないという課題が,われわれには突きつけられている。この課題を解決する2つのキーワードが,“コミュニケーション”と“可視化”である。
当院では,2018年2月からGEヘルスケア・ジャパンの医療データ分析サービス「Applied Intelligence」を運用している。Applied Intelligenceは,院内各所に分散するデータを集約してリアルタイムに共有でき,ワークアウトと呼ばれる会議を通じて,職員がコミュニケーションを図りながら業務の課題を抽出して,データを可視化する。本講演では,当院におけるApplied Intelligenceの使用経験を報告する。

当院の概況

当院の現在の病床数は395床で,急性期病床が310床,地域包括ケア病床が48床,37床を休床としている。職員数は611名で,このうち医師が77名,看護師が289名在籍し,7対1入院基本料を算定している。

病院経営の可視化

われわれの使命は,医療を通して社会,地域に貢献することである。この使命を果たすためには,病院経営指標の可視化が必要である。また,いわゆる“現場の転がし(アクション)”を可視化することが最も重要であるが,難しい課題である。
病院経営指標で,われわれが着目しなければならないのは,医療指標と経営指標である。入院の医療指標は,新入院患者数,病床稼働率,平均在院日数の3つのデータを確認する必要がある。一方,経営指標は“人”と“モノ”に関する各種のデータをドリルダウンすることが重要である。また,“現場の転がし(アクション)”の可視化は非常に困難であり,部門ごとに課題を発掘し,解決に向けて意見をすり合わせて,職員の役割を分担して行動を起こさなければならない。
医療指標と経営指標の分析は,データウエアハウス(DWH)や部門システムのデータごとに行うだけでは不十分である。課題に対して,あるデータと別のデータを俯瞰し,因果関係も含めて分析できるようにしなければ,十分な活用はできない。加えて,単年ではなく,複数年にわたってトレンドを見られるようにする必要もある。

Applied Intelligenceの概要と当院での運用

当院では,2017年に中期経営計画を策定し,将来ビジョンとして,(1) 地域連携構築,(2) 急性期医療を担う最高の病院に向けて,(3) 職員満足度・組織力の向上,(4) 経営基盤の安定,の4テーマを掲げて活動している。この活動の中で,放射線科,生理検査科,地域連携室において,Applied Intelligenceを用いたデータの可視化と分析に取り組んだ。
Applied Intelligenceは,(1) 導入前のアセスメント,(2) プラットフォーム構築・KPI(Key Performance Indicator)の可視化,(3) 可視化に基づく改善提案,の3ステップで進められる(図1)。まず,導入前のアセスメントでは,GEヘルスケア・ジャパンの専門スタッフが参加し,課題を検出した上で業務改善の目標を設定して,データの所在の検証を行い,可視化するためのダッシュボードを設計する。さらに,構築されたダッシュボードから,各種のデータをドリルダウンして課題を抽出し,それを基に各部門では改善に向けて取り組む。
今回の3部門のワークアウトでは,いずれも(1) コミュニケーション能力の高い組織づくり,(2) 業務効率の改善,(3) 医療の質とサービスの向上,という課題が抽出された。この課題をさらに分類化して,業務改善の目標を設定した。具体的には,多職種間のコミュニケーションの強化や地域医療機関からの紹介率の向上,検査待ち時間の改善による医療の質の向上などが挙げられた。そこで,放射線科では,2018年度に,検査待ち時間の短縮による患者満足度の向上と診療放射線技師の残業時間の削減に取り組むこととした。さらに,放射線科では,地域連携室と協力し,部門横断的に検査紹介率の向上による収益の増加を図ることとした。

図1 Applied Intelligenceの概要

図1 Applied Intelligenceの概要

 

その一例として,地域連携経由のMRI検査での改善例を紹介する。図2は,放射線科のダッシュボードから装置別の検査数を表示させ,さらにMRIの検査をクリックして診療科別の依頼状況をグラフで表示させたものである。当院では,地域連携経由の検査の場合,放射線科のカルテとなるため,グラフの放射線科の項目が紹介検査を示す。一方,地域連携室のダッシュボードを見ると,診療・検査受託のうち28%が検査で,ドリルダウンしてその内訳を見ると圧倒的にMRI検査が多くなっている(図3)。さらに,紹介検査全体の動向を見ると,2016年以降件数が減少し,2017年は160件程度減った。MRI検査は2016年の892件から800件と約1割減少しており,依頼施設ごとの検査数で見ると,ある診療所では2016年の暮れから依頼数が急激に減少していることがわかった(図4)。これは,近隣施設が3T MRIを導入したことに加え,当院の紹介検査予約が取りにくい状況となり,他施設へと流れていることが原因であった。そこで,2018年5月にMRIを追加導入して2台体制とし,地域連携室の職員と放射線科医が近隣の診療所を訪問して周知活動を行った。これにより,紹介検査が受け入れやすくなり,今後検査数の増加が期待される。

図2 放射線科ダッシュボードでの地域連携経由のMRI検査の状況

図2 放射線科ダッシュボードでの地域連携経由のMRI検査の状況

 

図3 地域連携室ダッシュボードでの地域連携経由の診療・検査受託の状況

図3 地域連携室ダッシュボードでの地域連携経由の診療・検査受託の状況

 

図4 依頼元別MRI検査の推移

図4 依頼元別MRI検査の推移

 

もう一つの課題であった検査待ち時間の改善の取り組みについても説明する。放射線科における緊急検査(当日検査)の割合を見ると,CT検査は13%であった(図5)。CT検査全体に占める緊急検査は40%で,うち時間内が87%となっている。また,時間ごとの緊急検査オーダ数を見ると,外来診療開始後から少しずつ増え,11時台がピークになるというデータが得られたが,待ち時間のグラフと照らし合わせると,意外にも11時台の待ち時間が少ないという結果となった(図6)。これは,午前の早い時間帯に予約検査が集中するために緊急検査の待ち時間が発生し,予約検査がほぼ終了している11時台は待ち時間が解消されるためである。そこで,一部の予約検査の時間をシフトすることで,待ち時間の短縮が図れると考えられた。

図5 CT緊急検査の状況

図5 CT緊急検査の状況

 

図6 CT緊急検査の待ち時間

図6 CT緊急検査の待ち時間

 

アウトカム評価を可能にするApplied Intelligence

Applied Intelligenceでは,業務を可視化し,部門主導の改善の仕組みをつくることができる。部門でのワークアウトで課題の抽出と業務改善目標の設定をして,ダッシュボードを活用しながら取り組めるので,医療の質を高めるとともに,コミュニケーション能力の優れた組織となり,患者と職員の満足度の向上も図れる。さらに,データをトラッキングしながら,月次,四半期,年次など定期的に部門へのヒアリングを行い,今後の人材育成や組織計画,医療機器の導入・更新を行うことが可能である。
超高齢社会の中で,健康寿命の延伸や,複数疾患を持つ高齢者に対応する医療の多様性が求められている。これに対応するために,今後は診療科を横断するコーディネーターの存在が求められるようになるだろう。一方で,医療の質を上げていくためのアクセラレーターも必要となる。そして,これらの役割を果たすスタッフの育成が重要になってくるだろう。また,現在,医療の質の評価はプロセス評価が中心であるが,これからは間違いなくアウトカム評価になる。これからの時代の病院は,アウトカム評価が可能な組織づくりが大切であり,その実現にApplied Intelligenceが非常に役に立つと考える。

 

小川 健二

小川 健二(Ogawa Kenji)
1981年日本大学医学部卒業後,慶應義塾大学病院放射線診療科入局。84〜85年米国テキサス大学MDアンダーソンがんセンターに留学。93年に日本鋼管病院特殊放射線科科長となり,副院長を経て,2012年から病院長。

 

 

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