セミナーレポート(GEヘルスケア・ジャパン)
第17回日本核医学会春季大会が2017年4月22日(土),23日(日)の2日間,秋葉原UDX(東京都千代田区)などを会場に開催された。22日(土)に行われたGEヘルスケア・ジャパン株式会社共催のランチョンセミナー2では,京都府立医科大学大学院放射線診断治療学講座特任教授の玉木長良氏が座長を務め,埼玉医科大学病院放射線科(核医学診療科)教授の松成一朗氏と厚地記念クリニック・PET画像診断センター院長の陣之内正史氏が,「Introducing The Next Generation of Molecular Imaging」をテーマに講演を行った。ここでは,陣之内氏の講演内容を報告する。
2017年7月号
第17回日本核医学会春季大会ランチョンセミナー2 Introducing The Next Generation of Molecular Imaging
半導体デジタルPET/CT Discovery MI
〜異次元の画質とそのインパクト,Universal Viewer 100 PETの紹介を含めて
陣之内正史(厚地記念クリニック・PET画像診断センター)
厚地記念クリニック・PET画像診断センターでは,2016年12月にGEヘルスケア・ジャパン社製の半導体デジタルPET/CT「Discovery MI」を導入し,2017年4月までに約800件の検査を行った。Discovery MIでは,微細な構造物を非常にシャープに描出でき,従来のPET/CTで指摘できなかった病変もはっきりと確認できるなど,まさに“異次元の画質のインパクト”を実感している。また,Discovery MIの導入に合わせて,PET専用ビューワ「Centricity Universal Viewer 100 Edition PET(UV100PET)」を導入し,読影環境が大幅に改善した。
Discovery MIの特長
Discovery MIの最大の特長は,silicon photo multiplier(SiPM)半導体検出器「LightBurst Digital Detector」である。従来の検出器で使用されていた光電子増倍管(PMT)をSiPMにしたことで,TOF時間分解能が550psから380psと飛躍的に向上し,解像度が約2倍となった。また,“コンプトン散乱リカバリー”により,感度と雑音等価計数率(NECR)が約20%向上した。体軸方向視野も「Discovery PET/CT 600(D600)」の15.7cmから20cmと広くなり,撮像時間の短縮が図られた。
画像再構成法には,Block Sequential Regularized Expectation Maximization(BSREM)法を用いた“Q.Clear”が搭載されている。Q.Clearは,再構成ループの中で再構成ステップ・ボクセルごとのノイズコントロールを行うことで十分なSUV値への収束を実現し,結果として従来の逐次近似再構成法(従来法)よりも定量精度とSNRが向上する。また,実測した結果では,リカバリー係数が10mm径で約60%,12〜13mm径でほぼ100%であり,SUVpeak計測時のサイズ以上ではほぼリカバリーできていると言える。
Discovery MIの症例提示
症例1は,当センターにおけるDiscovery MIでの臨床第1例目の多発肝転移症例である(図1)。D600の撮像に続き,delayed scanとしてDiscovery MIを撮像した。Discovery MI(図1b)では微小な肝転移が明瞭であり,病変が彗星のように尾を引いて見えるのは,呼吸性移動の実態を反映しているものと考えられる。
従来機における最適β値は350〜400と報告されており,本症例では350に設定したが,肝臓内や大腿部のバックグラウンドではややノイズが目立つ。Discovery MI(Q.Clear)の最適β値は報告されていないため,当センターにて検討を行い,現在,Discovery MIでは,クリアかつシャープな画像が得られるβ値700を採用している(図1c)。
症例2は正常例で,別の日に撮像したD600とDiscovery MIの冠状断像である(図2)。Discovery MIではノイズが抑えられ,かつコントラストが良くなり,臓器の辺縁がシャープになった。特に大脳皮質のボケがなくくっきりと描出され,放射活性のない肺,内臓脂肪,皮下脂肪,骨の抜けが際立っており,切れの良い画像である。
症例3は,卵巣がん再発,多臓器転移症例である(図3)。D600(図3a)はFDG投与後2時間のdelayed scanであるため,早期像のDiscovery MIよりも病変が明瞭に描出されるはずであるが,実際にはDiscovery MI(図3b)の方が,右腋窩および腹部骨盤のリンパ節転移と腹膜播種,右大腿筋肉内転移がより明瞭であった。特に,7mmの傍椎体リンパ節転移(図3→)は,Discovery MIのみで指摘可能であった。
Q.Clearの効果
当センターでは,Discovery MIの導入に合わせてD600を「Discovery PET/CT 610(D610)」にバージョンアップしたことにより,画像再構成法が“VUE Point HD-S(VPHD)”に加えQ.Clearも可能となった。D610は,Q.clearによってノイズが少ないクリアでシャープな画像が得られるようになり,2つの装置の使い分けといった運用上の問題がほぼ解決された。
D610の同一収集データをVPHDとQ.Clear(β500)で再構成し比較したところ,バックグラウンドのSUVは,肺野,肝臓共にQ.Clearの方が低く,このため均一性が向上し,微小な病変の検出能が向上すると思われた。また,病変部のSUVは,Q.ClearにてSUVmaxは約30~60%,SUVpeakは約20~30%高く算出された。
症例4は,多発肺転移症例である(図4)。D610とDiscovery MIそれぞれのVPHDとQ.Clearの画像を比較したところ,いずれもQ.Clearの方が画質が向上しており,両装置の画質にはほとんど差を認めなかった。ただし,よく見るとdelayed scanであるD610の画像よりも,Discovery MI(早期像)の方が脳の辺縁や体輪郭がシャープであった。また,右肺尖部(図4↓)のSUVは,両装置ともQ.Clearの方がVPHDの約2倍と高かった。しかも,Discovery MIの方がD610よりもSUVが高くなっており,これについては今後の課題である。さらに,肝右葉の上縁を見ると,D610ではCTとの位置合わせが良好でシャープに描出されているが(図4▼),Discovery MIでは呼吸により横隔膜のズレがあったため,肝右葉の上部がQ.Clearではボケて見える(▽)。これは悪いことではなく,Discovery MIの特長として評価できる。つまり,以前の機種では,横隔膜にズレがある場合は吸収補正されないため,肝の上部が抜けてしまうことが多いが,Discovery MIでは上部に淡く正常肝の集積が見え(図4▽),PETだけでも肝の形態が理解できることになる。
SUVの課題
新しい装置を導入すると,SUVについて旧装置との比較をどうするか,また,同じ収集データでも再構成法による違いが出るといった問題が生じる。その解決法として現在提唱されているのがリカバリー係数補正により古い機種に合わせるという方法である。しかし,その方法では最新機種の性能を生かし切れないため,別の解決策が必要と考えている。
甲状腺がん放射線治療後の経過観察で,甲状腺がん(左葉)の集積が,前回のD600の検査(VPHDで再構成)ではSUVmax 4.6であったが,8か月後のDiscovery MIのQ.Clearの画像では8.5と,急激に高くなった例を経験した。しかし,同じデータをVPHDで再構成したところ4.7と前回と変わらず,再発ではないと判断できた。このような症例への対策として,旧再構成法で再構成してみるというのが一つの方策と思われた。
脳の分解能向上
D610とDiscovery MIにおけるVPHDとQ.Clearの違いを正常例で比較したところ,脳においてもやはりDiscovery MIのQ.Clearの画像は空間分解能が高く,コントラストにも優れ,きわめてシャープであった。特に大脳では皮質,白質,脳室が識別でき,脳幹部では上丘や赤核などの小さい構造が明瞭に描出された。
症例5は,髄膜播種症例である。肺がんの放射線治療後,Discovery MIのQ.Clearの画像にて脳表〜頸髄表面に多発病変を認め,直後にMRIを撮像した(図5a)。脳底槽の7mmの病変や中脳周囲の8.3mmの病変が明瞭であり,さらには小脳橋角部の4.3mmの播種まで描出されている。Discovery MIは頭尾方向の視野が20cmあるため,本症例では頸髄周囲の7.5mmと3.6mmの播種まで描出されていた(図5b)。ここまで小さな病変が描出されるというのは,従来のPETにはなかったことである。
異次元の画質とインパクト
Discovery MIは,“異次元の画質”と言っても過言ではない。実際に,日常臨床においても読影がしやすく,脳では細かい構造や微小病変が明瞭に観察でき,肝臓などではノイズか病変かを悩むことが少なくなった。
一方,SUV値が,特に微小病変で高くなるため,撮像法やβ値を含めた撮像条件などを検討する必要がある。また,小さいリンパ節や結節への集積の評価や判定基準も,今後の課題と考えている。
今後の可能性として,高感度を生かした撮像法(短時間撮像,息止め撮像など)の検討や,高分解能を生かした脳領域の診断として脳代謝や神経伝達機構,アミロイド,タウなどの微細な集積分布の評価が可能になり,診断基準の変更にまでつながっていくことも考えられる。
UV100PETとXelerisによる新しい読影環境の構築
1.UV100PETの特長
UV100PETは,CT,MRI,超音波の読影に当たり,前回画像の自動読み込みや自動位置合わせなどにきわめて高速なレスポンスを実現しており,過去の検査データとの比較が非常に容易で,従来よりもはるかに進歩した快適な読影環境を構築できる。
具体的には,UV100PETには“Advanced Application(AA)”が搭載されており,「Advantage Workstation」と同様の機能を使用可能である。PET/CTビューワ機能や,SUVmax,SUVpeak・SULpeak,Volume測定などに加え,“PET VCAR”でSUVmaxやSUVpeakの変遷を見ることができる。また,“Xeleris Application”で核医学装置ワークステーション「GENIE Xeleris(Xeleris)」と連携し,UV100PETからXelerisを自動で立ち上げ,Xelerisへのデータ転送や,Xelerisで作成した画像をUV100PETに保存することが可能である。
さらに,新たにPACSから過去の検査データを読み込む“プリフェッチ機能”が搭載された。従来のシステム構成では,PET/CTの画像データはPACSとXelerisに送られるが,Xeleris内のデータは短期間しか保存されず,過去画像との比較を行うためにはPACSからデータを呼び出す必要があった。しかし,UV100PETを追加したことで,予約システムから検査リストをPACSに送っておけば,前日のうちに前回PET画像やCT,MRIの画像が入手(プリフェッチ)できる。このプリフェッチした画像は,ドラッグ&ドロップで簡単に表示可能である(図6)。
このほか,AI技術を用いたレイアウト学習機能“Smart Reading Protocol(SRP)”により,表示レイアウトが使いにくい場合には,好みのレイアウトをワンクリックで学習させ,次回以降の検査では最も好みに近いレイアウトで表示されるようになった(図7)。レポートシステムと連携してレポートへのキー画像貼り付けも可能であるなど,UV100PETだけで読影を完結することができる。
2.Xelerisの特長
当センターでは,UV100PETの導入に合わせてXelerisをVer. 4.0にバージョンアップしたことで,過去画像との比較読影がよりスムーズに可能となった。前回と今回のリストを選択し,ワンクリックするだけで,前回と今回の画像が自動で位置合わせされるほか,今回もしくは前回の画像のみを表示して詳細に読影することも可能である。
UV100PETとXelerisを連携することで,より少ないクリック数で思い通りの画像表示が簡便に可能となり,ストレスのない読影環境を実現できた。
陣之内正史(Jinnouch Seishi)
1981年 宮崎医科大学卒業。同放射線科入局。90年 同講師。93〜94年 ロイヤルマーズデン病院,フランクフルト大学留学。97年 宮崎医科大学放射線部助教授。2002年〜厚地記念クリニック・PET画像診断センター院長。
※本講演のビデオは,下記よりGE Smart Mailに登録すると視聴できます。
http://www3.gehealthcare.co.jp/ja-jp/forms/smail
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