セミナーレポート(GEヘルスケア・ジャパン)

第36回医療情報学連合大会(第17回日本医療情報学会学術大会)が2016年11月21日(月)〜24日(木)の4日間にわたり,パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催された。22日(火)に行われたGEヘルスケア・ジャパン株式会社共催のランチョンセミナー7では,「デジタル変革時代におけるデータ・マネージメントの最先端」をテーマに,京都大学医学部附属病院医療情報企画部教授の黒田知宏氏が講演を行った。

2017年3月号

第36回医療情報学連合大会(第17回日本医療情報学会学術大会)ランチョンセミナー7 デジタル変革時代におけるデータ・マネージメントの最先端

オープンアーキテクチャアプローチでPACSを共有資源にする〜VNA基盤DBの構築〜

黒田 知宏(京都大学医学部附属病院 医療情報企画部 教授)

本講演では,京都大学医学部附属病院がオープンアーキテクチャアプローチで取り組んだVNA-OCDB(Vendor Neutral Archive-Open Connect Database)でのPACSの構築と,運用の実際について報告する。

VNAの概念と導入のメリット

VNAの定義について,「Wikipedia」では,「ほかのシステムによってベンダーの中立的な方法でアクセスできるように,標準インターフェイスを備えた標準フォーマットで医用画像を格納する医療機器」(Google翻訳)としている。これは,基本的にはPACSそのものと考えることができる。VNAのメリットとして,どのようなモダリティで生成された医用画像でも扱うことができ,データの管理も統合されるので負担が軽減し,閲覧する環境も統一されることによって診療支援にもつながることが挙げられる。実際に当院でも2005年のGE社製PACSへの更新で,放射線部門だけでなく,超音波や内視鏡,心電図,筋電図,脳波,呼吸機能,病理,デジタルカメラの各データを統合管理し,ビューワ上で参照できるPACSを構築した(図1)。実現されたシステムは,一般的に言われているVNAそのものにほかならない。
VNAのもう一つのメリットとして,特定のベンダーに依存する“ベンダーロックイン”にはならず,データの移行もスムーズに行えることが挙げられている。しかし,PACSからPACSへのデータ移行はきわめて時間がかかる。実際,1994年から蓄積してきた2TBの医用画像データの移行に,本院は約10年の年月を費やした。したがって,VNAがPACSそのものなのであれば,VNAはデータ移行の問題を解決することはできないことになる。

図1 2005年に更新したPACSの概念図

図1 2005年に更新したPACSの概念図

 

ベンダーロックインを防ぐオープンアーキテクチャアプローチ

そもそも“ベンダーロックイン”の本質はデータ移行に時間がかかることではなく,他者がそのシステムの機能を容易に活用できないことにある。ベンダーロックインな医療情報システムの場合,導入後に診療部門や看護部門などから出された機能の追加や改善の要望への対応を,開発ベンダー自身に委ねるほかなくなり,コストがかさむこととなる。各施設に合わせた個別の改修は,ベンダー側にとってもコストがかかるだけで利益には結びつかない場合が多い。この状況を改善するための手法として,医師など医療者自らがシステム開発を行うエンドユーザーコンピューティング(EUC)という考え方が提唱されている。ところが,EUCは本来診療を行うべき医師というリソースの無駄遣いになる上,低品質なEUCアプリケーションがシステムトラブルの原因となり,メンテナンスの負担を増大させてしまう結果を招く。
この解決策として考えられるのが,オープンアーキテクチャアプローチである(図2)。これは,重要性の高い基幹システムを,信頼できる主要ベンダーが構築し,公開インターフェイスを設けて,専業ベンダーの専門システムからデータを閲覧できるようにするものである。これにより,低コストで品質の高い専業ベンダーのソフトウエアを導入できるとともに,EUCの必要性を排除することでメンテナンスの負担を軽減することも可能である。“UNIX的エコシステム”とでも呼ぶべきこのシステムを構築するためには,基幹システムのデータの公開と,それにアクセスする仕組みが必要である。

図2 オープンアーキテクチャアプローチ

図2 オープンアーキテクチャアプローチ

 

VNA-OCDBによる高速なデータ取得

現在,一般的な医療情報システムでのデータの公開には,“標準インターフェイス”を用いて,交換規約に基づきシステム間でデータを変換しているが,これが処理速度の低下を招く“オーバーヘッド”の原因となっている(図3)。特に,DICOM規格は,データ交換規約が多く,大きなオーバーヘッドが発生する。そこで,当院では,オーバーヘッドを解消するために,最も重要となる基幹システムとして,信頼性の高いGE社製PACSを採用し,VNAに加え,標準インターフェイスをなくしたVNA-OCDB(Vendor Neutral Archive-Open Connect Database)を構築した。このシステムでは,パブリックデータベースにデータの保管場所を示すヘッダ情報を格納して,他社の専門システムのビューワからSQLのODBC(Open Database Connectivity)で,閲覧したいデータのディレクトリの情報を取得する。さらに,そのデータは,ファイル共有プロトコールであるCIFS (Common Internet File System)を用いて,ストレージから高速に取得できるようにした。

図3 標準インターフェイスとオーバーヘッド解消

図3 標準インターフェイスとオーバーヘッド解消

 

この基幹システムがデータを公開しているのは,3D画像ビューワ「Aquarius NET」(テラリコン・インコーポレイテッド社製),医療カンファレンス支援システム「メディカル カンファレンス ポータル」(キヤノンITSメディカル社製),DICOM画像閲覧システム「ProRad Nadia」(ファインデックス社製),DICOM RTビューワ「PRIM RT Viewer」(イーグロース社製),手術支援画像システム「Plissimo Era」(パナソニックメディカルソリューションズ社製)の5システムである(図4)。さらに,今後は,EUCのアプリケーションである「YAKAMI DICOM Tools」にも公開する予定である。
実際に,Aquarius NETでDICOMインターフェイスとCIFSによるCTのボリュームデータの画像表示速度を比較すると,DICOMでは1分2,3秒程度の時間を要していたものが,CIFSでは7,8秒程度となり,大幅な高速化を実現している。同様にほかのシステムにおいても,CIFSにより高速にデータを取得することが可能になり,ビューワにデータをキャッシュすることなく,ページングなどの操作もスムーズに行えている。
オープンアーキテクチャでシステムを構築することで,システム同士の接続も容易になり,ベンダーにとっても効率的に開発ができるようになった。

図4 VNA-OCDBに接続される専門システム

図4 VNA-OCDBに接続される専門システム

 

オープンアーキテクチャでオープンイノベーションを

今後,オープンアーキテクチャは,医療機関におけるIT活用の鍵になると思われる。ベンダーが,自分たちが手がけているシステムについて,「このような仕様でアクセスすればデータを公開できる」ことを他ベンダーに示し,他システムから容易にデータにアクセスできるようにすることが重要である。オープンアーキテクチャで構築すれば,専門システムやアプリケーションを提供するベンダーが多数参加できるようになり,学生のベンチャー企業なども呼び込めるようになるだろう。一方,主要ベンダーにとっては,開発にかかる不要な負荷を軽減し,基幹システムにリソースを集中できるようになる。さらに,医療機関にとっては,標準インターフェイスを使わないシステムによって,オーバーヘッドを回避し,スムーズなシステム運用を実現できるだろう。
当院で構築したVNA-OCDBは,オープンアーキテクチャによって広く適用できるシステムとすることができた。われわれは,ほかのシステムへの応用もできると考えており,今後は研究用データへのアクセスにもVNA-OCDBの仕組みを用いることを検討している。今回当院が取り入れたオープンアーキテクチャは,医療情報システムのオープンイノベーションを起こすものである。これにより,今後もわれわれが求めるシステムを容易に構築できると考えている。

 

黒田 知宏

黒田 知宏(Kuroda Tomohiro)
1994年京都大学工学部情報工学科卒業。98年奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科修了。工学博士。オウル大学理学部客員教授,京都大学医学部附属病院講師,大阪大学大学院基礎工学研究科准教授,京都大学医学部附属病院准教授を経て,2013年から京都大学医学部附属病院教授・医療情報企画部長・病院長補佐,医学研究科教授,情報学研究科教授。医療情報学,ヒューマンインターフェイス,ユビキタスコンピューティングなどの研究に従事。

 

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