マンモグラフィ─新診断方法の創造 富士フイルム株式会社
マンモグラフィ(AMULET)—フィルム&FCRの“DNA”を受け継ぐさまざまな先進技術

2013-8-26


図1 ‌FCR PROFECT CS

図1 ‌FCR PROFECT CS

■はじめに

デジタルマンモグラフィ元年と言われた2000年に,初のマンモグラフィ用FCRシステム「FCR5000MA」を発表して以来,富士フイルムは,絶えずデジタルマンモグラフィの進化をめざして研究を続けてきた。2003年にはワークフローにマッチした「FCR PROFECT CS」を,2008年には,世界で初めて直接変換型FPDで50μm画素を実現した「AMULETシリーズ」を,2013年には,独自の「HCP(Hexagonal Close Pattern)構造」により検出器感度を大幅に向上させた「AMULET Innovality」を発表した。いずれの装置も,革新的な技術によりデジタルマンモグラフィの普及と実用化に大きな役割を果たしたと考えている。
FCRから始まったデジタルマンモグラフィの開発は,常に新しい技術への挑戦であり,これを支えているのは“画質には絶対に妥協しない”という富士フイルムのDNAだと考えている。本稿では,デジタルマンモグラフィを切り口とした富士フイルムの技術開発の一端を紹介する。

■マンモグラフィ用FCRの開発─高画質と高解像度の両立

マンモグラフィ用FCR開発のチャレンジは,当時主流であったスクリーン/フィルムマンモグラフィを超える画質を実現すること,そのために高画質と高解像度を両立することだった。
目標を実現するために,われわれが最初に行ったのは,X線が照射されてから画像が形成されるまでのプロセスを理解することだった。X線源から出射されたX線粒子がどのように画像に変換されるかを物理的に理解することで,高画質と高解像度を両立するキー技術を見つけ出し,開発のターゲットを決めた。
実際には,イメージングプレートから画像処理に至るまで,画像を構成するほぼすべてのプロセスで新しい技術開発が必要となった。例を挙げると,マンモグラフィ領域のX線スペクトルで最大の性能を発揮するイメージングプレートの開発,高精細かつ高精度なレーザスキャナの開発,情報を最大活用するデジタル演算処理など,富士フイルムが有する材料技術,光学技術,メカトロニクス技術,画像処理技術のすべてを駆使して技術開発にあたった。その結果,高密度かつ高精度なスキャニング技術により,50μm画素という高解像度を実現するとともに,新しいイメージングプレート「HR-BD」と両面集光技術により極限まで信号を有効活用することで,高いSN比,つまり高画質を実現した1)
これらの技術は,2000年に発売されたFCR5000MAに搭載された。2003年には,マンモグラフィ検査のワークフローに適した4段スタッカを装備したFCR PROFECT CS(図1)として発売され,CR方式のデジタルマンモグラフィとして初めて米国FDAの認可を受けるなど,現在も全世界で多く使用されている。

■デジタルマンモグラフィAMULETの開発─‌直接変換型FPDで50μm画素の実現

デジタルマンモグラフィの研究を進めるなかで,より高画質を実現するには,鮮鋭度の高い直接変換型検出器が適しているという結論に達した。しかし,いくら高鮮鋭度のデバイスを使用しても,画素が小さくなければ十分な解像度を実現できない2)。一方,画素サイズを小さくすると,画素あたりの信号量は小さくなり,十分なSN比を得ることが難しいという技術課題があった。
この課題に対し,われわれは,必要なSN比を確保するために,信号読み出しノイズを極限まで小さくする技術開発に挑んだ。ノイズを小さくするには,読み出し電極の構造を簡素にすることで実現できるが,二次元の信号を読み出すには二次元のアドレス線が必要となり,簡素化が難しいとともに,信号線とアドレス線が交差することによりノイズの影響を受けてしまう。これらの問題を根本的に解決するため,われわれは,スイッチングに光を利用し,電気配線を一次元にすることで,読み出しノイズを低減することにチャレンジした。
具体的には,X線検出器を2層のアモルファス・セレン(a-Se)膜で構成し,被写体を透過したX線を第1層で高効率に電気信号に変換する。第2層では,独自の「Direct Optical Switching」により,光をスイッチとして電気信号に変換された情報を読み取る。技術開発の過程では,X線の情報を十分な効率で検出することに苦労したが,a-Se膜の最適化や電極構造の工夫などで,本方式の実用化に成功した。本方式により,直接変換型FPDで世界最小50μm画素の高解像度と電気ノイズの大幅な低減による高画質を両立した3)
これらの技術は,2008年に発売されたAMULETに搭載された。技術の独自性は,第8回産学官連携功労者表彰厚生労働大臣賞の受賞〔(独)国立病院機構名古屋医療センター・遠藤登喜子先生との共同受賞〕など,高く評価された。
また,AMULETシリーズの高精細,低ノイズの特長を生かし,ステレオ視による「リアル3Dマンモグラフィ」を開発した。通常のマンモグラフィの撮影後,X線源を4°傾けて撮影し,これら2つの画像を専用の3Dモニタで観察することで立体視するものである。実際に使用した先生方からは,立体視することにより,乳腺の重なりで迷った症例の判断に大変有用で,その後の検査・処置が明確に指示できるとのコメントをいただいている。このような新しい取り組みが,マンモグラフィの診断能の向上につながることを期待している。

■AMULET Innovalityの開発─新世代マンモグラフィへの挑戦

直接変換型FPDの実用化により,基本画質は理想に近づいた。一方,トモシンセシス,ステレオマンモグラフィなどの新しい診断技術が登場してきた。新しい診断技術はいずれも,複数の画像情報をわかりやすい形で提示し,診断に活用するものである。これらの技術を真に実用的なものにするために,高画質と高解像度に加えて,「高速読み出し」が必要となった。
われわれは,TFT方式に改良を加えることで,高速かつ高画質の実現をめざした。TFT方式では,隣接する画素の間に信号線とアドレス線を配置するため,隙間を設ける必要がある。この隙間では電界強度が弱くなり,X線により発生した信号電荷の収集効率が低下する。これを解決するために,われわれは画素電極の形状に注目した。正方画素では,画素の角で特に電界強度が乱れ,信号電荷の収集効率が低下していることがわかった。これを避けるには角のない円形画素とすればよいが,円形画素では,画素の間の隙間が大きくなることで効率を落としてしまう。そこで,われわれは,鋭利な角がなく画素間の隙間も少ないHCP構造を採用し,画素間の電界強度の乱れの最小化と最密充填を両立し,感度の大幅向上を実現した(図24)

図2 a-Se層での電界強度

図2 a-Se層での電界強度

 

HCP構造による感度向上により,低線量撮影時の画質が大きく向上した。トモシンセシスでは,複数の方向から画像を撮影し,断層面の画像を再構成する(図3)。被ばく線量を低減するために,1枚の撮影は通常撮影の1/10程度で行われるため,低線量撮影での画質向上は,特にトモシンセシスで有効となる。
また,AMULET Innovality(図4)では,2つのトモシンセシスモードを搭載した。トモシンセシスの断層像の深さ分解能は,撮影時の管球の振り角によって決まる。大きな角度で撮影するほど,深さ分解能は向上する。一方,振り角を大きく取ると,撮影時間が長くなる。これらの得失を考慮し,本装置では短時間での撮影を優先したSTモードと,深さ方向分解能を高め画質を優先したHRモードの2つのモードを準備した。臨床の場面に合わせて,適切なモードを使用していただきたい。

図3 トモシンセシス概念図

図3 トモシンセシス概念図

 

図4 AMULET Innovality

図4 AMULET Innovality

 

 

■さらなる進化へ向けて

富士フイルムのデジタルマンモグラフィの開発経緯を,開発者の立場から紹介した。医療技術は,まだまだ進歩が期待される。これまでにいただいた数多くのご指導に報いるためにも,われわれは技術開発の立場から,医療技術の進歩に少しでも貢献できるよう研究・開発を続けていく。

〈謝辞〉
限られた誌幅の中では十分にお伝えしきれませんでしたが,マンモグラフィ装置の開発に関して多くの先生方にご指導をいただきました。この場を借りて改めて御礼を申し上げます。

●参考文献
1)Arakawa, S., et al. : Improvement of image quality in CR mammography by detection of emissions from dual sides of an imaging plate. Proc. SPIE 3977, Medical Imaging 2000.
2)Kuwabara, T., et al. : The dependency of pixel size on calcification reproducibility in digital mammography. Proc. SPIE 6515, Medical Imaging 2007.
3)Kuwabara, T., et al. : Image quality evaluation of direct-conversion digital mammography system with new dual a-Se layer detector. Proc. SPIE 7258, Medical Imaging 2009.
4)Okada, Y., et al. : A newly developed a-Se mammography flat panel detector with high-sensitivity and low image artifact. Proc. SPIE 8668, Medical Imaging 2013.

 

富士フイルム株式会社 R&D統括本部 メディカルシステム開発センター
研究課長 安田裕昭


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