電子カルテと融合し大学病院の高度な診療をサポートするフィルムレスPACSを「SYNAPSE」で構築 九州大学病院
PACS(SYNAPSE)—フィルム&FCRの“DNA”を受け継ぐさまざまな先進技術

2013-8-26


放射線科の読影端末。電子カルテ端末(左)と高輝度2MPの高精細モニタ2面で構成。電子カルテとPACSを1台の端末に搭載。

放射線科の読影端末。電子カルテ端末(左)と
高輝度2MPの高精細モニタ2面で構成。
電子カルテとPACSを1台の端末に搭載。

FCRの開発からフィルムの本質を知り尽くした富士フイルムが開発したPACSが「SYNAPSE」である。九州大学病院は,2013年1月に病院情報システムをベンダーを変えてリニューアルし,新たなシステムが稼働した。同時に2007年からSYNAPSEで構築されていた診療科への画像提供を目的としたフィルムレスPACSを拡張し,全病院の画像情報システムとなる第2期PACSが稼働した。電子カルテとの融合をコンセプトに“フィルムを超えたフィルムレス”を追究した九州大学病院のPACSをレポートする。

■2008年に全病院のフィルムレスPACSをSYNAPSEで構築

中村泰彦 技師長

中村泰彦 技師長

九州大学病院のPACSは,2008年の電子カルテシステム導入と同時に,「SYNAPSE」によるフィルムレスの“運用型”PACSとして院内への画像配信を目的に構築された“第1期”,さらに2013年に別システムで構築されていた放射線部門のPACSを統合し,全病院的な運用に拡張した“第2期”と進化を続けてきた。中村技師長は,「2008年の病院情報システムの構築ではペーパーレス,フィルムレスをコンセプトに導入を進めましたが,PACSについては大学病院としてのフィルムレス運用に必要なPACSの要件を検討し,診療科の医師が使いやすい操作性やフィルムレスでの運用性に重点を置いて構築しました。まずはフィルムレスへ移行するため,PACSは2007年4月から稼働させ,10月にはデータ量の多いCT,MRIをフィルムレス化,電子カルテ稼働時には完全フィルムレスでスタートしました。1000床以上の規模の大学病院で,最初から完全にフィルムレスを実現できた例はないと思います。さらに,2013年の第2期のシステムでは,専門性が求められる放射線部門のPACSを統合し,第1期では実現できなかったさまざまな機能を拡張しました」と経緯を説明する。

■第1期(2008〜)
端末統合,カンファレンスや回診機能などフィルムレス運用の機能を搭載

第1期のPACS構築とSYNAPSE選定の理由を中村技師長は,「フィルムレスPACSとして,診療科の医師が使いやすいシステムを考えた時に,標準的で使いやすい操作性,診療の基幹システムとしての安定性,フィルムに替わるデジタル環境で診療をサポートする機能などが求められ,その要件を満たす富士フイルムのSYNAPSEを選定し,必要な機能については富士フイルムと共同で開発を進めました」と説明する。
システムのポイントの1つが,電子カルテと共存した端末の構成である。PACSと電子カルテを1つの端末に統合することにより省スペース化を図り,電子カルテの中で画像情報が扱えるように構築を行った。端末を統合するメリットを中村技師長は,「1つはデータのやりとりが簡単になることです。例えば,電子カルテとPACS間でのデータのコピーなどもドラッグ&ドロップで簡単にできるようになり使い勝手が向上します。また,セキュリティについても,電子カルテの高いセキュリティレベルに対応できるように,生体認証によるログインシステムを導入しました」と言う。
フィルムレス化によって,特に必要となる機能として搭載されたのが,“カンファレンス機能”と“画像入出力システム”である。カンファレンス機能は,フィルムのない環境でカンファレンスを行うために,PACSで必要な患者のキー画像を集めたアルバムを作成することで,一括で画像閲覧を可能にした。アルバム内のキー画像を選択すれば関連の画像をPACSサーバから読み出して表示でき,電子カルテ情報の閲覧などと合わせてカンファレンス時の利便性が向上した。回診時には,この機能を無線LANとノートPCで利用できるようになっている。画像入出力システムは,地域連携などで必要とされる画像情報の提供の際に,端末から画像を選択することで,IHE-Jの統合プロファイルに基づいて外部メディアに出力できるようにしたものだ。中村技師長は,「これらは,フィルムレスの運用になったからこそ必要となった機能であり,その必要性や運用を理解した富士フイルムと共同で開発を行いました」と言う。
第1期のPACS運用6年を総括して中村技師長は,「6年間でPACSが障害でダウンしたことは一度もありませんでした。災害対策用としてフィルムを出せるような準備はありますが,やはりフィルムレスとなった以上,診療を続けるためにPACSは動き続けることが大前提です。その意味で期待通りだったと思います」と,SYNAPSEの安定性を評価する。

■第2期(2013〜)
放射線部門を統合,端末2000台,200TBのトータルPACSへ

PACSサーバ。第2期システムで200TBの容量に増量。

PACSサーバ。第2期システムで200TBの容量に増量。

第2期のSYNAPSEは,放射線部門の各モダリティのほか,院内の超音波診断装置,内視鏡画像(サーバを経由して取り込み)などDICOM画像を含めて接続し,200TBのサーバを導入。端末は,院内の2000台超の電子カルテ端末(うち高精細の診断用端末が245台),ほかに放射線科読影用として高精細の診断端末44台が設置され,3D画像を含めたフィルムレスPACSが運用されている。
第2期のPACS構築の大きなポイントが,電子カルテシステムのベンダー変更である。「旧帝大では初めてのケースだと思います。データの移行など電子カルテ側のリプレイスに伴う作業も大変でしたが,PACS側もオーダとのリンクや電子カルテの入れ替え期間の対応などが課題になりました。富士フイルム側SEの協力もあって,トラブルなく乗り切ることができました」と中村技師長は振り返る。
第2期のPACSでは,放射線部門システムとして他ベンダーで構築されていた,ローカルPACSやレポーティングシステムを,すべてSYNAPSEに一元化した。特にレポーティングシステムについては,放射線科独自にカスタマイズされていた前システムの機能を,富士フイルムの統合検査レポート管理システムである「SYNAPSE Result Manager」をベースに変更を加えて対応した。中村技師長は,「放射線部内も,院内の環境と同様に1つの端末に統合され操作性も向上しました。レポーティングについても当院の診療に即した機能を追加し,強化されています」と言う。PACSの統合に伴い,サーバの容量も92TBから200TBに増強された。これまで2つのサーバに送られていた画像データが一本化されたことで,モダリティ側の負荷も改善しスピードも向上した。
また,3D画像処理ワークステーション(3D・WS)の機能をPACSに搭載していことも同院の特長である。同院では,第1期のPACS構築の際に他社製のサーバ型3D・WSを導入し,院内での3D画像の作成や参照が可能な環境を整えたが,第2期では,これに加えて富士フイルムの三次元画像解析システムボリュームアナライザー「SYNAPSE VINCENT」を導入した。中村技師長は,画像処理機能のPACSへの統合について,「3D画像へのニーズが高まったことから,診療科の医師が直接画像作成や処理ができるようにPACSに統合してサーバ型3D・WSを導入しました。第2期では操作性やデータの継続性を考えて以前のWSも残し,新たにVINCENTを加えました。3D・WSといっても各社に特徴があり,それぞれの利点を生かして活用してもらえるように考慮しました」と説明する。

PACSに3D画像処理ワークステーション「SYNAPSE VINCENT」を統合して運用

PACSに3D画像処理ワークステーション
「SYNAPSE VINCENT」を統合して運用

静脈による生体認証で電子カルテと同様のセキュリティを実現

静脈による生体認証で電子カルテと
同様のセキュリティを実現

 

■診療をサポートする“タイムラインビューワ(SYNAPSE SCOPE)”を搭載

九州大学病院のPACSは,これまで電子カルテとの融合をめざして構築してきたと,中村技師長は言う。
「当院の病院情報システムのコンセプトでもあるのですが,画像を見るためのPACSが単独であるのではなく,患者さんの診療情報をトータルで扱う電子カルテの中の1つの項目として機能することです。画像管理に特化した機能を持ったPACSではなく,患者さんの診療という一連の流れの中で,医師が電子カルテ上で必要な時に,適切に画像を提供できるシステムとして構築しました」
そのコンセプトを具体化させる機能として第2期のPACSで新たに開発されたのが,“タイムラインビューワ”である。患者の検査履歴をモダリティごとに時系列で,視覚的に表示する機能はSYNAPSEの中で“SCOPE”として提供されているが,九州大学病院のタイムラインビューワは,画像を含めた1人の患者の診療情報を表示する機能として,電子カルテシステムの中に統合して構築した。
「画像を含めた検査情報をモダリティごとに時系列に組んだマトリックスから参照が可能です。マトリックス上のアイコンをクリックするだけで,SYNAPSEで画像が見られます。PACSを意識することなく参照できるので,診療科からは好評です。今後はこれをさらに進化させて,診療科ごとに必要とされる疾患に合わせた検査項目や画像を選択して表示できるように開発をしていきたいと考えています」と中村技師長は語る。
中村技師長は,SYNAPSEによるPACS構築について,「富士フイルムは,部門システムとしてのPACSという考えではなく,病院全体の画像情報システムという考え方でSYNAPSEを展開しました。それが,運用型のPACSという形で成果を上げています。こういった展開ができるのもFCRからのデジタル画像に関する技術の蓄積と,現場に根ざしたノウハウがあったからだと思います」と評価する。

九州大学病院PACSシステム構成図

九州大学病院PACSシステム構成図

 

電子カルテ端末に組み込まれて活用されている統合検査オーバービュー

電子カルテ端末に組み込まれて活用されている統合検査オーバービュー

 

■FCR開発のチャレンジ精神とノウハウが富士フイルムの財産

九州大学病院は,1983年に第1世代である「FCR101」が導入されFCRのリファレンス施設とも言える病院である。また,中村技師長も早くからFCRの可能性に期待し,臨床では胸部や骨の撮影はもちろん,消化管や放射線治療のリニアックグラフィへの応用,デュアルエナジーサブトラクションの初期の研究などを手掛けてきた。FCRが普及段階に入った1990年代に,全国でデジタル化されたX線画像の最適な画像処理についてユーザーが検討を行う“CR研究会”が立ち上がったが,中村技師長が中心となった九州地区のCR研究会が求めた画像処理のパラメータは,“九州バージョン”として1つのスタンダードとなり,その多くがFCRの標準パラメータとして採用された。中村技師長は,FCRの評価とその後のデジタル画像への貢献ついて,次のように語る。
「FCRの登場は大きな衝撃でしたが,フィルムからデジタルへの転換には大きな抵抗もありました。画像処理の進歩が,それをクリアしましたが,もうひとつは“経験の蓄積”が大きかったと思います。医療は基本的に経験値であり,それが大きく変わる時には不安や抵抗があるものです。しかし,経験を重ねてエビデンスが蓄積されれば評価されて受け入れられます。富士フイルムがフィルムメーカーからいち早くデジタル化に舵を切れたのも,フィルムのデジタル化という未踏の領域へのチャレンジにかけた大きなエネルギーと努力があったからこそだと思います」
SYNAPSEによる全病院的PACS構築が軌道に乗った九州大学病院だが,中村技師長は次の課題としてクラウドの利用を挙げる。「大学病院のような施設のデータ管理にはまだ課題も多いですが,東日本大震災のような大規模な災害時のデータ保護,バックアップのためには,クラウドをうまく利用する必要があると考えています」。
さらに,今後はデジタルで蓄積されたさまざまな診療データのバックアップや継続的な管理が課題になると中村技師長は言う。「今回,電子カルテシステムのベンダー変更を経験しましたが,データの移行は大きな問題になりました。ましてやPACSでは,今後200TBという膨大な容量の画像情報が蓄積されることになるわけで,データ移行のための方法論を今から検討する必要がありますね」
デジタル画像に対する明確なコンセプトを持ってPACSの構築を進めてきた九州大学病院。SYNAPSEを中心とした病院情報システムは,今後も進化を続けていく。

(2013年6月13日取材)

 

九州大学病院
医療技術部放射線部門 中村泰彦 技師長

九州大学病院

九州大学病院
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