セミナーレポート(富士フイルム)
富士フイルムメディカル株式会社は,2017年7月13日(木)〜15日(土)にマリンメッセ福岡・福岡国際会議場(福岡県福岡市)で開かれた第25回日本乳癌学会学術総会のランチョンセミナー3で「マンモグラフィの新たな可能性〜トモシンセシス,合成2D,エネルギーサブトラクションなど」を開催した。
2017年10月号
第25回日本乳癌学会学術総会ランチョンセミナー3
マンモグラフィの新たな可能性 〜トモシンセシス,合成2D,エネルギーサブトラクションなど
結縁 幸子(社会医療法人神鋼記念会神鋼記念病院乳腺科)
マンモグラフィはデジタル化によって進化を続けており,Digital Breast Tomosynthesis(DBT),DBTのデータから作成する合成2Dマンモグラフィなど,さまざまな機能が開発されている。本講演では,デジタルマンモグラフィの新たな可能性として,DBT,合成2D,乳腺量自動測定,造影マンモグラフィについて紹介する。
Digital Breast Tomosynthesis(DBT)
DBTは,X線管球を移動させながら連続的に低線量で撮影を行い,複数の角度から撮影した画像を再構成して断層像を作成する技術である。富士フイルムの「AMULET Innovality」では,HR(High Resolution)とST(Standard)の2つのモードのDBTを搭載している。HRは撮影角度±20°の画像(深さ)分解能を優先したモードで,STは撮影角度±7.5°で短い撮影時間と低被ばくを優先したモードとなっている(図1)。
スクリーニング群を対象としたDBTの研究では,従来のFFDM(full field digital mammography)+DBTはFFDM単独と比較し,再検率(recall rate)が低下してがんの検出率(CDR)が向上した。DBTは,高濃度乳房に対して有効であり,recallの対象となった病変は,asymmetry(非対称)が減り,massやdistortionが増加する。なかでも11〜20mm以内の新たな浸潤癌の検出が増加すると報告されている1)。
診断群での検討では,asymmetryに対する診断精度が上昇するほか,石灰化と背景乳腺との関係の評価が可能となるなど,診断能(area under the curve:AUC)が上昇するというデータが報告されている。しかし,石灰化単独の診断能は,DBTの原理上,形状や濃淡の表現力が低下するため,必ずしも有利ではない2)。
AMULET InnovalityのDBTを用いたFFDM単独とFFDM+DBTを比較した遠藤らの研究3)では,HRモード,STモード共に感度は上昇,特異度は同等,診断能(AUC)は向上している。特にHRモードでは,病変の性状把握が重要となる症例で有効性が高いと考えられる。
合成2D
DBTでは診断能の向上が期待できる一方で,DBT追加による放射線被ばくの増加が課題である。これを解決するための方法として開発されたのが合成2Dである。合成2Dは,DBTで得られた断層像を合成して従来のFFDMと同様の二次元画像を作成する技術で,DBT単独では難しい,乳腺構造のつながりや乳房全体構造の把握を容易にする。この合成2Dを作成し従来のFFDMを省略することで,被ばく線量の大幅な低減を可能とする(図2)。合成2DとFFDMの診断能を比較した研究では,合成2DとFFDMに大きな差はなくFFDMを置き換えられる可能性があるとされている4)。
当院で同意を得てDBTを撮影した検診者の合成2D画像(S-View)を供覧する。図3,4は右乳房に腫瘤(囊胞)が認められる。合成2D(b)はFFDM(a)に比べ,粒状性が強くざらついた画像になっているが,コントラストが高く囊胞の辺縁がきれいに描出されている。一方で,石灰化(良性)の描出に関しては改善の余地があり,今後の開発に期待したい。
乳腺量自動測定
乳腺量自動測定は,撮影画像から乳腺量を自動計測する技術で,“Volumetric measurement”によって画素ごとに乳腺割合を算出し,統合して体積割合を計測する(図5)。高濃度乳房については,日本乳がん検診精度管理中央機構から2017年4月に「乳房の構成の分類に関するお知らせ」が通知され,“病変が正常乳腺に隠されてしまう危険性を示すもの”で,“不均一高濃度(乳腺内の脂肪が40〜50%)”と“極めて高濃度(乳腺内の脂肪が10〜20%)”を併せたものが高濃度乳房と定義された。米国ではすでに32州(2017年6月現在)でdense breastの通知が義務化されており,日本でも今後同様の流れが予想される。乳腺量自動測定によって,より客観的で再現性の高い判定が可能になると期待される。
造影マンモグラフィ
造影マンモグラフィは,病変部の新生血管増生に由来するヨウ素系造影剤の濃染と,低圧と高圧の2種類のX線のエネルギーサブトラクション技術によって,背景の脂肪と乳腺のコントラストを抑え,ヨウ素系造影剤のコントラストを強調する撮影法である(図6)。造影マンモグラフィでは,乳腺密度の高い乳房の診断,局所的非対称性陰影の鑑別診断,バイオプシーの必要性の判断など従来のマンモグラフィでの診断困難例への適用,乳房温存手術の検討や化学療法の効果確認など,MRIを代用する役割が期待されている。
エネルギーサブトラクションの技術を用いた造影マンモグラフィと乳房MRIの病変描出能の比較では,主病変についてはほぼ同等,副病変についてはMRIの方が感度が高かったが,造影マンモグラフィでは偽陽性が大きく減少したと報告されている5)。さらに,エネルギーサブトラクションを用いた造影マンモグラフィを日常診療に導入した結果を報告した最新の論文6)では,造影マンモグラフィは,MRIで見られる背景乳腺の造影効果(Background Parenchymal Enhancement:BPE)が目立たず偽陽性が少ないこと,要精査症例で両側乳房を一度に検査できること,target US(超音波による精密検査)の精度向上につながるといった利点が示されたほか,MRIに比べて検査時間が短縮し経済的であると評価されている。一方で限界として,胸壁側の評価が難しいこと,現状では病変が検出された場合のtargeting technology(バイオプシーなど)の方法がないことが挙げられている。
AMULET InnovalityのCEDM(エネルギーサブトラクション機能)オプション適用(薬機法未承認)は,従来のマンモグラフィと同様に診断が可能な低圧(〜31kVp)画像と,W(タングステン)ターゲット/Cu(銅)フィルタを用いた高圧(45〜49kVp)画像を,同一圧迫で連続撮影が可能であり,2種類の画像撮影後,エネルギーサブトラクション画像を自動生成する。造影剤は2〜3mL/sで注入を行い,注入完了1〜2分後に撮影をスタートし,患側CC→健側CC→患側MLO→健側MLOを,それぞれ低圧→高圧の順に連続撮影する。撮影は8分以内に終了する。
神鋼記念病院での取り組み
当院では,2017年4月,健診センターにAMULET Innovalityを導入し,乳腺画像診断のさらなる精度向上に努めている。同意を得た検診者,乳がん患者に対してDBT撮影を行い,合成2Dを作成してその効果を確認中である。また,乳腺量自動測定については,MRIにおける乳腺量との相関算出および医師による乳腺量分類との比較を行い,妥当性の検証を進めている。造影マンモグラフィについても今後導入予定で,安全性の確認や乳がんの検出能についてMRIとの比較などを進める予定だ。
マンモグラフィの進化によって診断精度の向上をめざすと同時に,効率化や経済性も考慮して女性の生活と共存しやすい乳がん診療体制を確立することが必要だと感じている。
●参考文献
1)Vedantham, S., et al.:Digital Breast Tomosynthesis ; State of the Art. Radiology, 277・3, 663〜684, 2015.
2)Poplack, S.P., et al.:Digital breast tomosynthesis ; Initial experience in 98 women with abnormal digital screening mammography. AJR, 189, 616〜623, 2007.
3)Endo, T., et al.:Detectability comparison of modes in dual-mode digital breast tomosynthesis. Breast Cancer, 24・3 , 442〜450 , 2017.
4)Zuley, M.L., et al. : Comparison of two-dimensional synthesized mammograms versus original digital mammograms alone and in combination with tomosynthesis images. Radiology , 271, 664 〜 671, 2014.
5)Jochelson, M.S., et al. : Bilateral contrast-enhanced dual-energy digital mammography ; Feasibility and comparison with conventional digital mammography and MR imaging in women with known breast carcinoma. Radiology, 266・3, 743〜751, 2013.
6)Bhimani, C., et al. : Contrast-enhanced Spectral Mammography ; Technique, Indications, and Clinical Applications. Acad. Radiol., 24・1, 84〜88, 2017.
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