FileMakerによるユーザーメード医療ITシステムの取り組み
ITvision No.49
臨床工学部 亀井祐哉 氏 丸藤 健 氏
Case47 山形大学医学部附属病院 植込みデバイスの診療をFileMakerプラットフォームでデジタル化,カスタムAppで院内業務を効率化
不整脈や心不全などの治療に使われる植込み型心臓電気デバイス(以下,植込みデバイス)の管理は,従来,患者が定期的に外来を受診してフォローアップが必要だったが,近年,遠隔通信機能の進化により自宅にいながらデバイスや患者の状態をチェックできる遠隔モニタリングが可能になった。植込みデバイスの管理業務では,患者の生涯にわたるデバイス管理,外来や遠隔での患者のフォローアップなどが必要で,多職種がデータを共有した診療が求められる。一方で,一部では紙での運用や複数のシステム間のデータ連携が必要になるなど,デジタルトランスフォーメーション(DX)が急務な領域でもある。
山形大学医学部附属病院では,京都に本社を置く(株)ソフトクオリティがClaris FileMakerプラットフォームで構築した「植込みデバイス台帳システム」(以下,デバイス台帳 App)を2021年から導入している。遠隔モニタリングを含め,植込みデバイス患者の診療を支援するシステムの運用を臨床工学部の亀井祐哉氏,丸藤 健氏に取材した。
年間130件の植込み術を実施し400人をフォローアップ
同院の植込みデバイスの診療は,第一内科(循環器内科)の不整脈チームの医師4名を中心に行われており,臨床工学技士は5名が業務に携わる。臨床工学部のスタッフは27名で,植込みデバイス管理のほか,手術室業務,透析室業務,集中治療室業務,機器管理業務,心臓カテーテル室(カテ室)業務などを担当する。手術の際の麻酔科医の補助業務も担っているのが同院の特徴だ。植込みデバイスの手術件数は,新規と交換などを合わせて年間120〜130件,フォローアップ患者は400人前後で,そのうち遠隔モニタリングは約8割に及ぶ。亀井氏は植込みデバイス管理業務について,「デバイス管理は生涯続きますし,電池交換など継続的なフォローアップが必要です。新規の植込み患者も多く,植込みデバイスの管理件数は年々増加しているのが現状です」と述べる。
臨床工学技士による遠隔モニタリング管理体制を構築
同院で,臨床工学技士がカテ室業務を行うようになったのは2015年と比較的最近のことだ。カテ室業務を進める中で,遠隔モニタリングを含めた植込みデバイスの管理も臨床工学技士が担当することになった。亀井氏は,「すでに遠隔でのフォローアップ業務も行われていましたが,診療報酬改定で遠隔モニタリング加算が見直されたこともあり,臨床工学技士が中心となって,きちんと算定できる体制を構築することになりました」と言う。
遠隔モニタリングは,患者の自宅にデータ送信機を設置し植込みデバイスの情報をチェックするシステムだ。患者は自宅にいながら植込みデバイスのチェックが受けられ,アラート通知機能で不整脈やデバイスの不具合などにも迅速な対応が受けられる。遠隔モニタリングを導入することで患者の外来受診は年1,2回となるが,毎月の遠隔データのチェックが必要となり,病院側の医師や臨床工学技士の負担は増えた。遠隔データはデバイスメーカーごとに各社のサーバに保存されており,それぞれのWebサイトにアクセスしデータを取得してチェックする必要があり,さらに加算の算定にはチェック内容を記載した診療録を作成することが求められる。同院では,約300人の遠隔患者データを5名のスタッフで手分けして,各社のWebの確認,紙台帳への記録,電子カルテへの記載を行っていた。亀井氏は,「アナログの作業で手間がかかり,毎月のチェックは担当以外のスタッフも加わって残業しながらなんとか終わらせていました」と言う。数年にわたり臨床工学技士を中心に地道な努力で実績を積み重ねたことで,植込みデバイス業務の支援システム導入の予算が認められ,2020年4月にデバイス台帳Appが導入された。
遠隔モニタリングのデータを自動取得し画面上で確認
デバイス台帳Appは,Claris FileMakerプラットフォーム上にClarisパートナーであるソフトクオリティ社が構築したカスタムAppで,手術からフォローアップまでの植込みデバイスに関連する業務をサポートする。
遠隔モニタリングのデータは,デバイスメーカー各社のデーターセンターから自病院の患者データが送信される。データは院内ネットワークとは別の専用端末に保存され,ファイル転送器を介してデバイス台帳Appに取り込まれる。デバイス台帳Appでは,受信データを計測値,不整脈イベント,心電図などのPDFを患者ごとに整理して「遠隔モニタリングレポート」(図1)を作成する。臨床工学技士は,この遠隔モニタリングレポートをチェックしてコメントを記録する。丸藤氏は,「遠隔モニタリングのデータを患者ごとにチェックできます。電子カルテにはレポートのサマリと心電図をPDF形式で配信し,電子カルテ端末でブラウザ経由で参照が可能です」と説明する。
毎月の遠隔対象患者の対応状況の確認に使われるのが,「遠隔フォローアップ状況一覧」画面(図2)で,遠隔対象患者の月ごとのデータの配信状況,外来予定月,当月の処理状況(電子カルテへの配信状況)など遠隔モニタリングの進捗状況を一覧で確認できる。亀井氏は,「この画面を見ながら電子カルテへの記載を行い,漏れのないように進めることができます。元々デバイス台帳Appにはなかったのですが,導入後にカスタム機能として追加しました」と言う。
ホワイトボードで管理していた植込みデバイス業務に関連するスケジュールについても,「週間予定表」(図3)で確認できるようになった。丸藤氏は,「日にちや業務内容で絞り込めるようにして週間や当日の予定の確認が容易になりました」と述べる。
■Claris FileMakerプラットフォームで構築した「植込みデバイス台帳システム」
バーコードリーダーや各種プリントで大幅な省力化を実現
手術の際には,「植込み手術記録」に各種情報を入力する。デバイス台帳Appでは,患者基本情報は電子カルテから,使用したデバイスの情報はバーコード読み取りで自動で入力される。植込み手術の際には,植込みデバイスに関する情報を記載した特定医療機器登録用紙(トラッキングシート)を作成する必要がある。トラッキングシートは複写式で,患者情報,デバイスのシリアルナンバーなどを記入して共有することで,デバイスの不具合などに迅速に対応するためのものだ。従来は,術中に臨床工学技士が手書きで記入していたが亀井氏は,「リード線のシリアル番号まで多くの情報を臨床工学技士が手書きで記入する必要がありました。複写式のため下の方の用紙は印字が薄くなって判読が困難なことがよくありました」と説明する。デバイス台帳Appでは,バーコードの読み取りで自動入力した情報を,トラッキングシートに合わせたレイアウトにして,ドットインパクトプリンタで印刷することで複写に対応した。また,患者が持つペースメーカー手帳にも植込み機器の情報を手書きで記載する必要があったが,こちらも植込み台帳からラベルプリンタで出力して貼付することで省力化された。亀井氏は,「台帳システムに入力したデータを印刷することで,手間が省け可読性も大きく向上しました。植込みデバイスは,長期間のフォローが必要で,患者さんの生命にかかわるものですので,正確なデータが確実に残ることは重要なことだと思います」と評価する。
導入後も運用に合わせた柔軟なシステムの構築が可能
デバイス台帳Appは,稼働後からも現場での運用や要望に合わせて,画面レイアウトの変更や機能の追加が行われた。亀井氏は,「遠隔フォローアップ状況一覧については,毎月の遠隔対応状況をチェックするために,検索や表示の方法など機能や使いやすさを追求して,ソフトクオリティ社と打ち合わせを重ねてつくり込んでもらいました。こちらの要望に柔軟かつ迅速に対応してもらえるのは,FileMakerプラットフォームならではと実感しています」と述べる。
デバイス台帳Appの導入により,植込みデバイス管理にかかわる業務が効率化し,麻酔科医のサポートなどさらなる業務範囲の拡大につながっている。丸藤氏は,「スタッフ全体の業務量は変わらない感覚ですが,デジタル化で作業が効率化されると同時に,従来は手帳や紙でしか管理されていなかったデータの共有など有効活用につながっていると感じます」と述べる。亀井氏は今後の方向性について,「電子カルテ上で画像検査と同じように検査リストからリンクできると,担当の医師だけでなく看護師など植込みデバイス業務にかかわるスタッフの情報共有がよりスムーズになるので,システム間のさらなる連携を期待しています」と述べる。また,丸藤氏は,「医事会計との連携をもう一段階進めて月次チェックの手間を削減したいですね」と期待する。
柔軟で拡張性の高いFileMakerプラットフォームの特性を活用したカスタムAppであるデバイス台帳Appの活用で,医療現場のDXがさらに加速することを期待したい。
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