FileMakerによるユーザーメード医療ITシステムの取り組み
ITvision No.49
放射線室 萩原 裕 氏
Case48 甲府共立病院 循環器レポートシステム「Kada-Report」で,医療材料の登録から医事会計までを連携した心カテ室の物品管理システムを構築
甲府共立病院(283床)は,「貧富の差によって命が差別されない平等な医療の提供」を理念として,救急医療のみならず,差額ベッド代の無徴収,無料低額診療の実践などで地域医療に貢献している。同院では,フォトロンM&Eソリューションズ(株)の「Kada-Solution」を導入して,心臓カテーテル検査・治療(心カテ)の動画像や診療情報の管理を行っている。心カテレポートの作成を行う「Kada-Report」は,Claris FileMakerプラットフォームで構築されており,多忙で変化の激しい心カテ室の業務をサポートしている。同院では,2021年のバージョンアップでKada-Reportを活用して,病院情報システムとも連携した物品管理の機能を新たに構築した。Kada-Reportをベースに,心カテ室の多種多様な医療材料の登録から医事会計までを連携した構築について,放射線室の萩原 裕氏に取材した。
24時間365日の体制で循環器疾患に対応
甲府共立病院は,JR甲府駅から徒歩6分ほどの市の中心部に位置し,1955年の開設以来,高度医療の提供のみならず,福祉,介護まで地域の医療機関と連携しながら診療を行ってきた。救急医療については2次救急の輪番病院となっており,24時間365日の体制で対応している。救急車搬入台数は年間3737件(2022年度)で,救急患者の受け入れ件数は県内でも1,2を争う。萩原氏は,「心不全や虚血性心疾患など循環器疾患の患者さんも多く,心カテ室も24時間体制で対応しています」と述べる。
血管撮影装置は循環器内科用と消化器内科用の2台で,循環器では経皮的冠動脈形成術(PCI)229件,下肢末梢血管形成術28件,シャントPTA84件,ペースメーカー留置術47件などで年間1000件を行っている(2022年実績)。心カテ業務では,診療放射線技師が医師の横について,カテーテルなどのデバイス準備や寝台操作,さらには患者被ばく低減の観点から透視・撮影条件の最適化など助手の役割を務めているのが特徴だ。萩原氏は,「当院は心カテの実施件数に比べて循環器内科の医師の数が少ないため,医師の業務負担の軽減の意味もあり以前から技師がサポートする体制をとっています」と説明する。
Kada-Reportで心カテデータの管理・集計を実施
同院では,循環器向けDICOM動画像ネットワークとしてKada-Solutionを導入した。Kada-Solutionでは,動画像の管理や参照のほか,各種レポートフォーマットによる入力・管理・参照などで心カテに関連するデータベースを構築できる。萩原氏は循環器のシステム構築について,「心カテ室の業務は多様である一方で,スタッフ人数は限られています。システムによってできるだけ負担をかけずに入力でき,記録したデータの活用ができることを意識して環境の整備を進めてきました」と説明する。
Kada-Reportの運用を本格的に開始したのは2016年からで,「電子カルテのレポート機能を当初利用していたのですが,簡易的なもので記録しかできず,データの集計ができていませんでした。Kada-Solutionの機能の中にFileMakerを使ったレポートシステムがあることがわかり,入力の省力化や集計などデータの二次利用のために使い始めました」と萩原氏は述べる。現在,Kada-Reportでは,冠動脈造影(CAG),PCIなどの心カテ台帳,線量管理などを行っている。萩原氏は,「心カテの検査・治療は種類も多く,記録すべき項目も多岐に渡ります。Kada-Reportは,FileMakerの特性を生かした柔軟なレイアウトやカスタマイズの自由度が高く,現場の要望に合わせた構築が可能で助かっています」と述べる。
■Claris FileMakerプラットフォームで構築した「Kada-Report」
医療材料マスタの整備でバーコードでの物品管理を実現
2021年のKada-Solutionのバージョンアップ時には,Kada-Reportに心カテ室で使用する医療材料の物品管理機能を追加した。心カテ業務では,ステントやカテーテル,シースイントロデューサー(シース,カテーテルを血管に挿入する際に使用)など多くのデバイスが使われる。これらの医療材料は,種類や規格がさまざまで取り扱うメーカーの数も多い。萩原氏は,「薬剤など一部は電子カルテに直接入力していましたが,心カテに使用するデバイスは種類が膨大でデータベース化ができていませんでした」と言う。同院では,カテ室関連の物品管理は,納入する医薬品卸売業者が来院して在庫をカウントし行っていた。萩原氏は,「業者との信頼関係の中で管理されており間違いはありませんでしたが,病院として手技で使用した物品の使用状況が把握できていませんでした。デバイスは高額であり,請求漏れの防止やデバイスの使用状況の把握のためにもデータの管理が必要でしたが,一刻を争う治療の現場で限られたスタッフで対応するのは難しい状況でした」と述べる。
Kada-Reportでの物品管理では,JAN(Japanese Article Number)コードによる医療材料のマスタを整備し,バーコードリーダーの読み取りによって使用したデバイスの簡易入力を可能にした。萩原氏は,「臨床工学技士が物品出しのタイミングでバーコードを読み取り,Kada-Reportに登録します。手技中にリアルタイムで行えるので,取りこぼしはありません」と説明する。さらに,この物品管理のデータは病院情報システム〔電子カルテ:e-カルテ,オーダリング+医事会計:NEWTONS2,共に(株)ソフトウェア・サービス〕とも外部連携して医事請求まで連携しているのが特徴だ。Kada-Reportで入力されたデータは,病院情報システムと連携して医事会計システムにも反映される。医事会計との連携について萩原氏は,「以前は,医療材料の請求が確定するまでにタイムラグがありましたが,現在はリアルタイムで把握できるようになりました。今回の医事会計との連携は,ソフトウェア・サービス社の病院情報システムがユーザーによるカスタマイズ性が高いことと,そしてFileMakerプラットフォームが持つ外部連携のしやすさという特長が相まって実現したと感じています」と述べる。
電子カルテとの連携で医事会計までを反映
物品管理と医事会計との連携では,医療材料マスタの整備や,病院情報システム側の医事コードとの関連付けが必要となった。医療材料のマスタ整備は,フォトロンM&Eソリューションズ社がベースとなる医療材料マスタを用意し,萩原氏が病院の使用状況に合わせてデータをメンテナンスしている。また,医療情報システム側との関連付けについても,萩原氏が医療材料マスタのJANコードと病院情報システム側の内部コードとの対応付けを行った。萩原氏は一連の作業について「最初のコードの統合作業は大変でしたが,一度データベースが整備できれば,医療材料の品目が大きく入れ替わることはありませんので,あとは微修正で対応できます。ある程度の品数の修正が必要な場合でも,表計算ソフトでリストを作成しておき,ワンボタンでKada-Reportに読み込む機能をカスタマイズで作成してもらいましたので,大きな手間はかかりません」と説明する。
FileMakerの利点を生かして線量管理などに展開
萩原氏自身も古くからのFileMakerのユーザーでもある。Kada-Reportの構築では,画面のレイアウトの変更やワンクリックで集計できるボタンの追加など,さまざまなカスタマイズを行ったが,「導入当初には細かい変更をいろいろとお願いしましたが,基本的にできませんと言われることはありませんでした。そこはFileMakerプラットフォームの柔軟性と自由度の高さだと思いますね」と述べる。
医療法施行規則の一部改正(2020年4月1日施行)で線量管理が義務付けられたが,同院では血管撮影室での線量管理をKada-Reportで行っている。萩原氏は,「線量管理には必ずしもシステムを使う必要はありませんが,デジタル化すれば被ばく線量の計算も容易になりますし,必要な時にどこからでも参照できます。線量管理の重要性を考慮して,Kada-Reportでの管理を進めました」と説明する。さらに,Kada-Reportによる今後の展望や期待について萩原氏は次のように語る。
「線量管理については現在は検査時の線量データの記録と管理だけですが,今後は,そのデータを生かして病院や患者さんへのフィードバックが求められます。そのためには,データの管理,集計,統計処理などが必要で,データベースが必須です。柔軟に対応できるFileMakerプラットフォームとKada-Reportに期待したいですね」
Kada-Reportが可能にする柔軟なシステム構築が,多忙な医療の現場のDXを支えていく。
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