Case 22 日下部形成外科・美容皮膚科 
美容クリニックの自費診療や繊細な顧客管理をFileMakerベースで柔軟な構築が可能な電子カルテANNYYSで対応
院長 日下部素子氏

2015-7-13


日下部院長とクリニックスタッフ

日下部院長とクリニックスタッフ

日下部形成外科・美容皮膚科は,京都・大徳寺にほど近い西陣の地に2004年に開業した。町家風の落ち着いた外観のクリニックでは,一般形成外科をはじめレーザー治療,PRP(多血小板血漿療法)などの美容皮膚科診療,さらにはオリジナル化粧品の販売まで行っている。形成外科は保険診療だが,美容皮膚科は健康保険が適応されず自費診療となる。院長である日下部素子氏は,2014年からFileMakerプラットフォームの電子カルテシステム「ANNYYS」を導入した。一般の診療所とは異なる,自費診療を中心としたクリニックでの電子カルテシステムの構築と運用を取材した。

京都・西陣で美容皮膚科を中心に最新の治療を提供

日下部素子 院長

日下部素子 院長

日下部形成外科・美容皮膚科は,皮膚腫瘍(できもの)の切除やケガ,傷痕の治療などを行う形成外科と,シミ・シワ・たるみなどを改善する美容皮膚科を標榜する。日下部院長は,1987年関西医科大学卒業後,京都大学形成外科学教室に入局。病院勤務を経て,2004年に“日下部形成外科”を開業した。日下部院長は,「開院当初は一般形成外科が中心でしたが,次第に女性特有の肌の悩み,老化皮膚の改善を目的とした美容皮膚科診療の割合が大きくなってきました」と話す。2013年には,クリニック名に“美容皮膚科”を加え,より診療内容に即した名称にするとともに,院内インテリアもリニューアルを行った。
3階建ての町屋風の落ち着いた外観のクリニックは,1階に受付,診察室,カウンセリングルーム,処置室があり,2階にレーザーなどの各種機器を配置した処置室3室,化粧コーナー,3階が脱毛やエステなどを行う施術室と,プライバシーを意識した造りとなっている。スタッフは,看護師,エステティシャン各1名,受付2名,さらに非常勤の薬剤師が週1回勤務する。
美容皮膚科の治療では,“フラクセル”などのレーザー機器を使用した治療のほか,自己の血小板を皮内に注射する“PRP(多血小板血漿療法)”を行っているが,特に力を入れているのが,ビタミンAの外用剤“トレチノイン”を使用したスキンケア治療である。トレチノイン製剤を始めとする治療用スキンケア製剤は,すべて薬剤師が院内で調剤している。そのほか,ファンデーション,日焼け止めクリームなど,OEM製造されたオリジナル化粧品の販売も行う。日下部院長は美容皮膚科の診療について,「最新の治療法や技術を取り入れるのはもちろんですが,基本的には自分自身が良いと思ったものだけを患者様におすすめしています」と述べる。

理想の電子カルテを求めてANNYYSを導入

日下部形成外科・美容皮膚科では,2014年4月にFileMakerプラットフォームを採用した電子カルテソリューションである「ANNYYS」を導入した。2004年の開業時には,紙カルテで診療をスタートしたが,患者数の増加に伴いカルテの保管スペースが問題となった。そこで2012年にMacで使える電子カルテシステム(他社製)を導入,エステ施術に関しては院長自らFileMakerで専用カルテを自作して,電子カルテと併用した。それだけでなく,日下部院長は,新しい治療法の紹介ビデオや患者用パンフレットやクリニックのホームページなども自ら構築しFileMakerのカルテ作成も独学で行ってきた。
「自分の中に理想の電子カルテがあって,何とかそれを実現したいと思い,当初は自費専用電子カルテをFileMakerで自作することも考えました。しかし,さすがに難しく,とりあえずMacで使える電子カルテを導入して自作エステカルテと併用していました。そんな時に出会ったのがANNYYSでした」
ANNYYSは,FileMakerプラットフォームを利用した電子カルテシステムで,柔軟で高い拡張性を特長とし,カスタマイズなどさまざまな要望にも対応できる。今回,日下部形成外科・美容皮膚科のカスタマイズは,ANNYYS_D事務局を運営する(株)エムシスが直接担当し,同社が機能拡張したANNYYS_Developer版(http://dev.annyys.net )を採用した。

診察室の電子カルテ端末

診察室の電子カルテ端末

2階ではエステの施術の情報などをスタッフが入力

2階ではエステの施術の情報などをスタッフが入力

 

イラスト機能や画像管理などの機能をカスタマイズ

美容治療を手がける日下部院長がANNYYSに最初に要望したのは,「自費カルテの画面デザインは,機能だけでなく見た目も美しく」ということだった。保険と自費の両方を扱う同クリニックでは,電子カルテもデータベースを分けて別々に構築されているが,保険用の画面は青,自費用を落ち着いたピンクにした。また,自費のカルテには,日下部院長が自作したエステカルテがデータやレイアウトも含めてそのまま統合されている。以前は2つに分かれていた電子カルテとエステカルテが1つになったことで,スタッフによる入力の負担も軽減されたという。
さらに要望したのは,個々の患者の基本情報だけでなく来院状況や物品の購入などの履歴を素早く把握できるようにすることである。美容診療では,複数回の治療がコースとしてセットになっていたり,治療に期限があったりと,その患者が現在どの治療の何回目なのか,使用しているスキンケア製品は何かなどを把握しておく必要ある。各履歴のウィンドウを設けて,日付と診療内容や購入歴などを表示し一覧できるようにした。日下部院長は,「スタッフも含めて,常に患者様の状況を把握して適切なアドバイスを提供することが必要です。どちらかというと,一般のサービス業に近い顧客管理が求められるのです」と言う。
また,診療記録の補助として,手書きのイラスト作成機能も追加した。ドローソフト(Autodesk SketchBook Express)とペンタブレットで作成したイラストをANNYYSに取り込んで保存する。日下部院長は,「1人ひとり容貌は違いますので,シェーマは使わず,手書きでスケッチしています。イラスト内に,期待される効果や注意事項も書き込んで,最後に患者様のサインをいただくこともあります」と説明する。もう1つは,写真の取り込みと管理の機能だ。美容診療では,治療前後の画像を撮影することが重要で,そのため通常のデジタルカメラや専用紫外線カメラで数多く撮影する。「もともと写真の管理もBentoやFileMakerで行っていました。写真は定期的に撮影し,患者様の診察・カウンセリングに使用するので,特定の日時の画像をすぐに表示して説明できるよう,きっちり管理する必要があります。これについてもANNYYSで一元管理できるようお願いしました」と日下部院長は説明する。

ANNYYSで自費診療の会計を行うことで業務負担を軽減

日下部形成外科・美容皮膚科では,保険部分は日医標準レセプト(ORCA)で会計処理とレセプト業務を行うが,レセプト請求の必要がない自費についてはANNYYS自費カルテで会計処理を行う。以前使用していたMac用電子カルテでは,保険診療も自費もORCAで会計処理を行っていた。しかし,ORCAは本来自費診療を想定していないため,自費会計業務はやりにくい部分があったという。例えば,美容の診療では,コースの解約による返金や割引,化粧品のセールなど,保険診療にはない会計処理が必要になる。ANNYYSでは,より柔軟な会計システムの構築が可能であり,受付業務の負担が大きく軽減されたと日下部院長はいう。
「美容治療では月ごとの各治療における患者数,化粧品の販売個数などをソートして,経営分析することも重要です。そういった要望に対応できるシステムを作れるのもFileMakerプラットフォームの利点だと思います」

ANNYYSの自費診療カルテの診察画面

ANNYYSの自費診療カルテの診察画面

 

画像管理画面。撮影した画像を時系列で管理し一覧で表示できる。

画像管理画面。撮影した画像を時系列で管理し一覧で表示できる。

 

CTIなどの機能を追加しサービスを向上

ANNYYSへの次の機能追加として,搭載を予定しているのが,CTI(Computer Telephony Integration)で,患者の電話番号をあらかじめ登録しておけば,電話がかかってきた場合に自動的に患者情報を画面に表示する機能だ。日下部院長は,「当院は完全予約制なので,電話による予約業務も重要です。その際,患者様から,“施術コースの次回の回数”や,“前回購入したスキンケア商品と同じものが欲しい”などと尋ねられることが多くあります。現在は,名前を聞いて,検索して,患者基本情報を確認して,応対しています。CTIが実現すれば,素早く情報を把握でき,患者サービスをさらに向上させることができると期待しています」と述べる。
理想の“スタイル”を求めて,時には自ら作ることで実現してきた日下部院長。今後もFileMakerプラットフォームを生かしたANNYYSで,理想の電子カルテに向けて構築を続けていく。

 

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日下部形成外科・美容皮膚科
京都市北区紫野南舟岡町78-6
TEL 075-411-4456


(インナービジョン2015年7月号 別冊付録 ITvision No.32より転載)
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