Case 14 社会医療法人名古屋記念財団 名古屋記念病院
FileMakerとiPadによるベッドサイドチェックシステムを構築し,安全で確実な透析医療をサポート
副院長/総合内科 草深裕光氏
2013-7-16
透析スケジュール管理:ケア予定を時間順にリスト表示する。
名古屋記念病院は,2004年に入院のオーダからスタートし,2007年には外来を含めた全面オーダ,PACSが稼働,2008年にはフィルムレス環境を実現するなど病院情報システムの整備を積極的に進めてきた。その一方で,草深裕光副院長を中心としてFileMakerによるユーザーメードの医療情報システムの構築にも取り組んでおり,医療安全の観点から透析室におけるチェックシステムをFileMakerとモバイル端末で実現するなど,ユーザーメードの利点をいかした独自のシステム開発を進めている。透析室以外でも,栄養サポートチーム(NST)の活動でiPad+FileMaker Goは利用されている。ユーザーメードによる安全管理,チーム医療をサポートするシステムについて草深副院長に取材した。
●ユーザーメードと融合した病院情報システムを構築
名古屋記念病院では,2012年1月に病院情報システムを更新して電子カルテへ移行,基幹システムにはクラウドを利用するOCS-Cube CL(両備システムズ)を導入した。これまでFileMakerを使って構築された定型文書の作成や各部門で使用する診療支援のためのシステムと融合し,双方向のデータ連携を実現するなど,従来からの資産であるユーザーメードシステムを発展的に活用可能にしている。その1つの鍵となっているのが,診療記録統合管理システムであるApeos PEMaster ProRecord Medical(ProRecord,富士ゼロックス)だ。ProRecordは,電子カルテや部門システム,FileMakerなどで作成された文書をe文書法に準拠し診療記録の原本として保存,管理を行う。電子カルテで作成された記録,検査結果などは各システムから直接PDFなどで,患者のサインが必要な説明同意書などの紙媒体はスキャンして取り込み一元管理する。例えば,紙の説明同意書はFileMakerでフォーマットを管理し,QRコードとともに印刷することで,スキャン時に自動的に患者にひも付けされるなど,デジタル化によるメリットと,手書きや紙が必要な現場の運用をFileMakerを用いて可能にした。こうした工夫は現場への負担を軽減するとともに,患者間違いなどのミスの可能性を減らしており,より安全なシステム運用を実現している。
●FileMaker GoとiPadでベッドサイドチェックが可能に
血液浄化センターでは,FileMakerで開発した透析管理システムを構築,iPadを携帯端末として活用することで,透析業務の効率化と安全管理に配慮した医療の提供を行っている。
透析管理システムの1つの核となる機能が,iPadとFileMaker Go,iPadと無線接続が可能なBluetoothバーコードリーダーを用いたベッドサイドチェックシステムである。血液透析では,患者ごとに決められたベッドに,あらかじめダイアライザーをセットしてから治療を開始する。透析室では16のベッドで血液透析を行っているが,通常の運用では,1日1回,OCS-Cube CLで指示された透析条件や患者情報をFileMaker側で受け取り,これらの情報をもとに透析治療を行う。透析の受付時には,体重を複数回測定し,目標体重や体重変化をあわせて確認する。体重は,体重計の計測データをオンラインでFileMakerに直接転送できるように工夫している。FileMaker Serverによって,iPad上でもPCと同じ情報がリアルタイムで共有されており,ベッドサイドでは,患者をリストバンドのバーコードで指定→ダイアライザーのバーコードを読込→指示と合致していれば○,違えば×を表示,という手順でチェックを行う。
草深副院長は,「人はだれでもミスを犯す可能性があります。オーダに基づいたラベルを発行しても貼り間違えれば正しくありませんし,ベッドサイドに配布する時に間違える可能性もゼロとは言えません。目視確認も誤ることがあります。すなわち使用開始の直前に,ベッドサイドにおいて,本体に元来表示されているバーコードを用いて機械的にチェックを行うことが,ミスを防止するには重要なのです。そのために,iPadと無線バーコードスキャナーを使用するシステムをFileMakerで構築しました」と説明する。
なお,注射薬のチェックは,2009年に注射薬に標準バーコードのひとつであるGS1-DataBarが表示されるようになったことをきっかけに,FileMakerを用いてバーコード確認を行ってきたが,現在では,OCS-Cube CLに実装された看護支援システムを用いて運用されている。
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●透析ケアスケジュールをiPad上で共有,透析中のケアを効率化
透析管理システムは,透析中のケアの進捗状況を共有するスケジュール管理機能を有している。4時間程度をかけて行われる透析中は,ほぼ1時間ごとにバイタルサインなどの患者状態の確認や処置を実施するケアが必要となる。同時に多くの患者の透析を実施し,各患者の透析開始時間は事前に確定ができず,複数のスタッフがケアを担当するため,患者ごとのケアスケジュールと進捗状況を把握するのは大変だった。FileMakerを用いることで,患者ごとのケア予定をその場で作成し,それらを時間順にiPad上にリストで表示,各ケアが終了したらタップすることで,提供すべきケアの進捗状況を,ベッドサイドにおいてスタッフが共有,管理できるようになった。
「患者さんにとっても順番の間違いは気分のよいものではありません。ケア忘れは透析中の変化への対応遅れにつながります。FileMakerでケア予定を管理することで,間違いなくスムーズにケアを提供できます。携帯端末としてのiPadの活用は,業務の効率化とスタッフ間の情報共有に繋がっています」(草深副院長)。
一方,透析中の治療記録については,透析条件や体重関連情報が書き込まれた記録用紙を受付後にFileMakerから印刷。バイタルサインや看護記録などは手書きで記載し,透析終了後にスキャナで読み込み,ProRecordへ登録する運用をとっている。草深副院長は,「透析中の記録は,バイタルサインの変化,透析機の情報など細かなデータ記載を素早く行う必要があるため,PC入力ではなく手書きとしており,透析終了後にスキャナで取り込む運用です。FileMakerから電子カルテへの直接記載も実現していますが,透析治療記録については通常の診療記録と運用を分けた方が効率的と考えました」と説明する。
●医療安全に寄与するFileMakerによるユーザーメードシステム
草深副院長は,1995年頃からFileMakerを使ったシステム開発にかかわってきたが,最初に病院全体で活用することになったきっかけは,インシデントレポートを登録,共有するシステムだった。1999年の横浜市立大学病院での患者取り違え事件をきっかけに,医療機関における医療安全への取り組みが求められ,院内で情報を共有する必要性から2001年にFileMaker Serverを導入した。以後は,安全管理,各種サマリーの記載から入院管理,NSTサポートシステム,透析管理へと発展し,現在ではFileMakerで構築したシステムは100近くにのぼる。「現場での業務の改善点などを,日々の診療の中での観察やスタッフの意見を聞いて,FileMakerというツールと新たなアイデアで解決するのがユーザーメードの醍醐味です。それによって業務が効率化し,スタッフにも余裕ができることで患者さんが安全な医療を受けられるようになれば,作る方も使うほうもやりがいがある。現場スタッフのモチベーションも向上します」(草深副院長)。
FileMakerに関しては,これまで草深副院長が中心に構築を担当してきたが,今では病院情報システム全体を管理する情報処理部にFileMakerを担当するスタッフを置くなど維持・管理のための体制づくりも進めている。今後の病院情報システムの開発の方向性について草深副院長は,「基本的な仕組みは構築できましたので,今後は足りない部分を情報処理部などとも協力して進めていきます。外来では医師事務作業補助者(MA)などの業務をFileMakerを使ってサポートできないか,色々とアイデアを考えているところです」と述べている。
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