技術解説(富士フイルムメディカル)

2022年9月号

MRI技術開発の最前線

AIに対する期待と展望─次世代MRIに向けて

吉澤 延之[富士フイルムヘルスケア(株)放射線診断事業部]

MRIはX線撮影装置やCTと比較し,組織間のコントラストを反映した画像が得られるメリットがある一方,撮像時間が長い,操作が煩雑でわかりにくい,診断に当たって種々の画像種の確認が必要,などの問題がある。当社は,「より速く より簡単に より正確に」という要求はMRIに対する普遍的な要求であると考えており,次世代MRIのめざす方向と定めて技術開発を進めている。今回は,これら普遍的な要求に対して,当社のMRI装置が人工知能(AI)を用いてめざす将来の方向性について紹介する。

■より速く:AIの応用による撮像高速化・高画質化

当社では,「より速く」に対するAI技術の応用として,機械学習を用いた画像ノイズの低減技術の開発を進めており,繰り返し再構成した画像にDeep Learningによるデノイズを併用することで,撮像高速化・高画質化の実現をめざしている(図1)。
高い倍速数のパラレルイメージング(PI)や薄いスライスでノイズが増大してしまった画像に対して,ガウスフィルタなどでノイズは抑制できるものの構造がぼけてしまう。しかし,Deep Learningなどを用いてノイズを学習させたデノイズでは,構造を維持したままノイズを低減できる(図2)。

図1 撮像高速化・高画質化の実現方法

図1 撮像高速化・高画質化の実現方法

 

図2 Deep Learningを用いた画像ノイズ低減の例

図2 Deep Learningを用いた画像ノイズ低減の例

 

■より簡単に:AIの応用による検査ワークフロー向上

「より簡単に」に対し,検査ワークフロー向上として,機械学習を用いた検査断面の自動位置設定がある。3断面マルチスライスのスカウト画像に対して,解剖組織を機械学習により検出し,自動で撮像位置を設定するものである。高速な検出アルゴリズムを採用することで,画像取得のほぼ直後に図3のように緑で示した候補断面を重畳表示可能としている。これにより,操作者の微調整も容易に可能である。
さらに,機械学習を用いたMRAの自動クリッピングの開発も進めている。クリッピングは撮像の合間に行われることが多いが,近年の撮像の高速化により,その余裕がなくなってきている。短時間でクリッピングを完成するために,脳と血管の両方を抽出するマスク作成にAIを活用している(図4)。これにより,時間短縮と負担低減が可能になると期待される。

図3 機械学習を用いた検査断面の自動位置設定

図3 機械学習を用いた検査断面の自動位置設定

 

図4 機械学習を用いたMRAの自動クリッピング

図4 機械学習を用いたMRAの自動クリッピング

 

■より正確に:定量化

当社は,組織性状を定量化するさまざまな技術を開発している。定量化は,ヒトが安定して病変を認識できるようにすることが目的だが,さらにAIにより診断を支援する指標へと結びつけられるため,ますますその重要性が増している。今回は,定量化の中で,QSM,QPM,ASLについて紹介する。

1.QSM(Quantitative Susceptibility Mapping)
位相画像から生体組織間の磁化率差を算出する手法である。同様に位相を利用する方法として磁化率強調画像があるが,こちらは定性的で,強調領域のズレや拡大という問題がある。QSMではこの問題を解決するとともに,磁化率という定量値によって生体組織の組成や状態を類推可能にしている。QSMでは,位相画像から磁化率を推定する際に,微細構造や脳表の情報が失われるという課題があったが,当社はこの問題に対して構造境界を保つような解析技術を開発した。また,アルツハイマー病の診断支援として,VBM(voxel-based morphometry)とQSMを1つのシーケンスで同時取得可能な3DマルチGrE技術を開発した。これにより,典型的には3T装置では5分以内で両方を取得することが可能となった(図5)。

図5 VBMとQSMの同時取得

図5 VBMとQSMの同時取得

 

2.QPM(Quantitative Parameter Mapping)
QPMでは,T1やT2*などの定量値を一括して求める。具体的には,3D GrEの計測パラメータを変化させて一連のセットを計測し,あらかじめ計算機上のBlochシミュレーションで得られた信号輝度関数をフィッティングして複数の定量値を求める。この定量値を基に,MRAやQSMなど二次的な定量値を作成することが可能である(図6)。また,造影剤投与前後にQPMを計測することで,造影剤濃度と緩和能を算出し,緩和能を左右する細胞外pHの推定に応用可能である。このように,QPMをいったん計測しておくことで,後処理だけで,今まで得られなかったような組織性状を表す定量値を求めることができると期待されている。

図6 QPMの原理説明

図6 QPMの原理説明

 

3.ASL(Arterial Spin Labeling)
Multi-delay ASLでは,複数のPLD(post labeling delay)で撮像したASL画像に対してモデル式によるカーブフィッティングを行い,脳血流量CBFマップおよびラベル血液到達時刻ATTマップを算出する(図7)。主幹動脈閉塞やもやもや病など,正常側に比べて血流の到達が遅れるような疾患に対し,血流量が維持されていることの確認に利用できると考えられており,今後の臨床応用が期待されている。
定量値画像の取得には,簡便さ,撮像時間,診断基準の点で課題があるが,これらの課題はAIを応用することで克服できると考えており,複数の定量値画像を用いた多変量解析による定量診断,自動診断など,新たな診断価値の提供をめざしている。

図7 Multi-delay ASLの原理説明

図7 Multi-delay ASLの原理説明

 

本稿では,「より速く より簡単に より正確に」というMRIに対する普遍的な要求に対する当社のMRI装置の方向性について紹介した。なお,本稿の紹介内容には薬機法未承認の内容が含まれている。また,ヒト画像解析については,富士フイルムヘルスケア倫理審査委員会にて承認を得ている。

 

●問い合わせ先
富士フイルムヘルスケア株式会社
https://www.fujifilm.com/jp/ja/healthcare/mri-and-ct

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