技術解説(富士フイルムメディカル)

2022年3月号

腹部画像診断におけるUSの技術の到達点

超音波診断装置における減衰計測“iATT”の開発

西山 知秀/坂下  肇/脇  康治/園山 輝幸[富士フイルムヘルスケア(株)超音波診断事業部製品開発本部製品企画部]

近年,生活習慣の変化に伴い脂肪肝が急激な増加傾向にある。脂肪肝の診断においては肝生検が用いられてきたが,侵襲性,サンプリングエラー,判定者による結果のバラツキなどの課題があり,昨今においては,magnetic resonance imaging-proton density fat fraction(以下,MRI-PDFF)が広く使用されてきている1)。また,超音波検査においても,基準の整備が進められている2)
当社の超音波診断装置「ARIETTA」シリーズでは,超音波の減衰を利用した“Attenuation Measurement(以下,ATT)”を搭載し,脂肪肝評価にアプローチしている。本稿では,ATTをベーシックな処理から見直し改良した“iATT”に関して紹介する(図1)。

図1 iATTの表示と「ARIETTA 850」

図1 iATTの表示と「ARIETTA 850」

 

■iATTの開発

臨床使用を積み重ねることにより,構造物(血管・横隔膜),シャドー,脂肪滴による減衰の周波数依存などの影響が,深部の信号振幅に歪みを生じ,結果として減衰推定精度を低下させることがわかってきた。そのため,表1に示すような,解析範囲,送受信ビーム,減衰計測方式の見直しにより,上記課題を解決し,さらに,撮像時のワークフロー(以下,WF)の改善を行った。詳細を以下の(a)〜(d)にて紹介する。

表1 開発内容一覧

表1 開発内容一覧

 

(a)解析範囲の見直し
従来のATTは再現性の確保を目的とし,データサンプルを多く含めるため,解析範囲を深部領域まで設定していた。しかしながら,特に高度脂肪肝症例において,深部の信号振幅に歪みが生じ,計測精度が低下するケースがあった。
そのため,深度35〜75mmを解析範囲とし,振幅歪みの影響の少ない区間で計測を実施することとした。

(b)送受信ビームの調整
通常のBモード画像は,浅部から深部まで全体が均一な輝度で明瞭に描出されるように,フォーカスや受信ゲイン調整を行うことが一般的である。一方,減衰計測では,区間内の減衰量を推定するために,受信振幅が深部方向に単調減少するような信号が望ましい。
そのため,送信波形,フォーカス,受信ゲインなどを調整し,深度方向に単調減少する振幅信号が得られるような設定としている。

(c)減衰計測方式の見直し
超音波減衰計測には,リアルタイムに送受信した実信号をリファレンスとして用いる実信号リファレンス方式(2周波法)と,あらかじめ準備したテーブルデータを用いるテーブルリファレンス方式がある。テーブルリファレンス方式は,構造物の影響を排除しにくい反面,単周波での周波数減衰特性のみで減衰推定できるメリットがある。今回,解析範囲やWFの改善に伴い構造物の影響が軽減可能なことから,4MHzの生体信号に近似した減衰振幅信号を作成し,テーブルリファレンス方式を採用している。

(d)WF改善
減衰の推定においては,構造物なく肝臓実質を多く含めた位置で撮像することが非常に重要である。以下のガイドグラフィックと解析幅の狭域化により,WFの改善に取り組んでいる(図1)。

(1) 解析範囲上端のガイド追加:体表脂肪,肝表面からの多重の影響回避
(2) 解析幅の狭域化:構造物,シャドーの影響回避

iATTは,減衰推定性能の向上とWFの改善を行ったことにより,簡便に脂肪肝の診断に使用いただけるものになったと考える。今後,MRI-PDFFと臨床比較を進め,臨床価値の高いツールとして提供していく。

販売名:超音波診断装置 ALOKA ARIETTA 850
医療機器認証番号:第228ABBZX00147000号
ARIETTAは,富士フイルムヘルスケア株式会社の登録商標です。
ALOKAは,株式会社日立製作所の登録商標です。

●参考文献
1) Chalasani, N., Younossi, Z., Lavine, J.E., et al. : The diagnosis and management of nonalcoholic fatty liver disease : Practice guidance from the American Association for the Study of Liver Diseases. Hepatology, 67(1): 328-357, 2018.
2) 日本超音波医学会 : 脂肪肝の超音波診断基準. 2021.
https://www.jsum.or.jp/committee/diagnostic/pdf/fatty_liver.pdf

 

【問い合わせ先】
超音波マーケティング部
URL https://www.fujifilm.com/fhc

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