技術解説(富士フイルムメディカル)
2016年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
FPD搭載X線透視診断装置の新高速画像処理エンジン“FAiCE-V NEXT STAGE1”の開発
中村 正(診断機器事業部XRシステム本部)
従来,X線透視診断装置(図1)は,胃部や注腸検査など消化管領域での検査に利用されることが主であったが,近年では,X線透視を利用し,ガイドワイヤやカテーテルを用いて胆・膵系疾患など消化器領域における内視鏡治療に使用される頻度が増えている。ガイドワイヤやカテーテルを胆管・膵管に誘導していく時に位置や動きを確認する必要があり,高画質な透視画像が求められている。
治療手技によってはX線透視を長時間照射する必要もあるため,術者および被検者の被ばく低減が求められている1)。
このような現場の要求に応えるため,最新画像処理エンジン“FAiCE-V NEXT STAGE1(FAiCE-V NS1)”を開発し2),「CUREVISTA」「EXAVISTA」「DIAVISTA」「VersiFlex VISTA」に搭載し,製品化した。
■開発のコンセプト
FAiCE-V NS1の開発コンセプトは,ガイドワイヤなどの動きを伴うオブジェクトの明瞭な表示と,さらなる被ばく低減を両立させることである。
1.日立映像技術の適用
日立では,プロジェクタなどにおいて動画をより高画質に映し出すための映像技術を開発してきた。この技術をX線透視診断装置に適用することで視認性の良い透視画像を実現する。
2.高速画像処理プラットフォームの採用
新画像処理プラットフォームには,graphics processing unit(以下,GPU)の搭載により,複雑な処理を高速に実現できる。GPUは画像処理用のプロセッサであり,内部に演算ユニットを複数搭載しているため,並列演算することで透視画像のような二次元の動画像のリアルタイム処理に効果的である。
■詳細仕様
1.動き追従型ノイズ低減処理技術:MTNR
FAiCE-V NS1では,日立が動画技術で使用している動き検出を取り入れた,新しい動き追従型ノイズ低減処理技術“MTNR(Motion Tracking Noise Reduction)”を開発した。MTNRは画像の中で時間フィルタを適用する領域と空間フィルタを適用する空間を画素単位で判断して処理することで,リカーシブフィルタ3)と同等のノイズ低減効果を発揮しつつ,フレーム間の動きを検出し,その動きに追従させて時間フィルタを適用することで動きボケを抑制できた(図2)。
2.マルチ周波数フィルタ:M-DRC
“M-DRC(Multi-Dynamic Range Compression)”処理は,複数の空間周波数に画像を分け,それぞれの周波数画像に対して,強調または圧縮処理〔Gainまたはlook up table(LUT)〕をかけ,再合成する処理である。そのため,デバイスや骨の輪郭を強調しやすく,さらにノイズの増加を抑制できる(図3)。
3.フレームレート変換技術:FRC
“FRC(Frame Rate Conversion)”は,時間的に前後のフレームを用いて中間フレームを生成し補間する手法である。フレーム数が倍増するため,フレームレートを下げても動きが滑らかな画像を表示でき,被ばく線量を従来よりも低減できる。さらに,中間フレームは単純な補間画像ではなく,MTNRの原理を用いた動き補償を適用した画像を利用することで高画質化を実現した(図4)。
4.透視スナップショット機能
“透視スナップショット機能”は,透視中もしくはラストイメージホールド中にスナップショットボタンを押すことで,その都度,透視画像を1枚分DICOM画像として保存することができる。スナップショット画像は参照モニタに表示され,位置確認などの参照目的に使用することができる。1検査あたりの被ばく線量を下げることに貢献する。
■画質の評価
1.従来画像処理との比較
従来画像処理と比較してどの程度画質向上したかを確認するために,IBA社の「Primus L-Test Phantom」を使用した。本ファントムは,粒状性を示すSNR4),解像度,低コントラスト分解能を示すCNR4)を測定することができる。
ファントムをX線透視診断装置の天板上に置いて静止させた場合と,天板とともに移動させた場合に対して測定した。静止時・移動時共に,FAiCE-V NS1のSNRが従来と比較して2倍向上した。また,静止時は従来・FAiCE-V NS1共にFPDの透視限界解像度である1.2Lp/mmまで視認できた。移動時においては,従来画像処理では0.8Lp/mmまでであったが,FAiCE-V NS1は1.2Lp/mmまで視認できた。これは動きボケが抑制されたことで,視認可能な解像度が向上したことを示す。ファントムの低コントラスト体(深さ4.0mm, 2.4mm)のCNRを比較し,いずれのシーンでもCNRは従来と比べ,FAiCE-V NS1の方が高く,最大で2.4倍向上した(表1)。
2.臨床評価
MTNRによる動きボケの抑制およびM-DRCによるコントラスト強調によって,ERCPにおいてガイドワイヤ・ステントおよび胆管の造影領域の視認性が向上している(図5)。
◎
透視用新画像処理エンジンFAiCE-V NEXT STAGE1を開発したことにより,「動き追従型ノイズ低減処理技術(MTNR)」「マルチ周波数フィルタ(M-DRC)」,術者・被検者の被ばく低減を目的とした「フレームレート変換技術(FRC)」「スナップショット機能」の透視画像への適用を実現した。SNR,解像度,CNRのいずれもが従来画像処理よりも向上し,動きボケの少ない明瞭な輪郭を得た上で,従来の1/2に被ばくを低減した。
*FAiCE,FAiCE-V,MTNR,CUREVISTA,EXAVISTA,DIAVISTA,VersiFlex,VersiFlex VISTAは株式会社日立メディコの登録商標です。
*汎用X線透視診断装置 CUREVISTA 医療機器認証番号:219ABBZX00109000
*汎用X線透視診断装置 EXAVISTA 医療機器認証番号:220ABBZX00236000
*X線透視診断装置 DIAVISTA 医療機器認証番号:225ABBZX00067000
*多目的イメージングシステム VersiFlex VISTA 医療機器認証番号:222ABBZX00090000
●参考文献
1)金 俊文 : 胆道内視鏡治療におけるX線システムの活用方法. Rad Fan, 33, 8〜11, 2015.
2)中村 正・他 : FPD搭載X線透視診断装置の新高速画像処理エンジン“FAiCE-V NEXT STAGE1”の開発, MEDIX, 64, 2016(impress).
3)石井明和・他 : 被写体動き検出と画像処理への応用. 日本放射線技術学会雑誌, 46, 1221, 1990.
4)デジタル画像処理編集委員会 : ディジタル画像処理. 74, 東京, CG-ARTS協会, 2009.
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